上 下
29 / 30

㉙後書き

しおりを挟む
あとがき
二か月後
「足長お兄さん、今日はどこ連れて行ってくれるの」
期待に胸を膨らましている妹ちゃんこと、月城月菜がいる。服装は何処か清楚で、可愛い服装ではなく大人っぽさが光る服装をしている。この服も足長お兄さんとのデートで買って貰っちゃった。
月菜は寿命が分かっているが、くよくよはしない。残された時間を大切に生きるんだ。寿命が分からない人よりも濃いい日を過ごしていると自分自身の中で自負をしている。
「昨日はどこ行ったけ」
無邪気な笑顔を振りまいている。
本当はつらいことなのに齢十四歳でそのことを自覚している。
「USDは楽しかった」
病室の中で、彼女はUSDの写真を見ている。そのカメラも足長お兄さんに買って貰っちゃった。
「その前は温泉でしょ」
「その前のまた前は、ボーリング」
「その前の前の前は・・・・」
写真を次々に見ている。本当に幸せそうで本当に嬉しい。できるだけ、この幸せな時間を作っていこう。と足長お兄さんは彼女の顔を見ながら微笑んでいる。
「今日はここ行こうよ」
足長お兄さんが地図にのっている箇所の写真を見せる。ここのご飯が掲載されている。思わずごくりと唾を飲んでしまうほど美味しそうである。病院の先生からは何をしても大丈夫と念押しをしてもらっている。所謂、話は通っているのだ。
「うん」
タクシーに乗り込み。
行き先を告げた。
「どこだろう、楽しみだな」
美味しいご馳走が食べれると、ご機嫌だ。ご機嫌ついでにラジオの歌を一緒に歌い始める。足長お兄さんはその歌を聞きながら。この子の幸せを願っている。
「足長お兄さんとはどこでも楽しいな」
歌い終わると月菜ちゃんは言葉を発する。
喧噪な道路をタクシーが走っている。今日は晴天である。ウキウキしている、月菜ちゃんはご満悦だ。まるで、二人を祝福しているような天気だ。
ってこれはネタバレかな。自嘲しなければ。
「ここって教会」
そうだと言わんばかりに堂々と二人は入っていく。と思ったら、教会の人に止められて、別室に通される。
月菜ちゃんは何が起こるんだろうとワクワクが止まらない。
「私、一度は来てみたかったんだ」
この先に待ち受ける言葉がなんとなく分かって、一人にやにやしている。それを足長お兄さんに見られて、少し恥ずかしかった。
「結婚しよう」
虚をつかれたわけではないがびっくりはした。でも、にやにやが止まらない。
「えっ」
「いいの」
一通り、にやにやが止まると、真剣な面持ちで月菜は心からの言葉が聞きたかった。
「いいさ」
この式の場を作ってくれた。足長お兄さんに感謝をしている。
「俺も初めてだからさ、結婚は」 
頭を掻きむしりながら答えている。
「でも、いいの私で」
「光さんとか怒らない」
月菜が少し悪い顔をしている。
「茶化さない」
「お前が死ぬ前にしたいんだ、俺が」
これがたぶん最後の我儘なんだと分かっている。だからこそ足長お兄さんはこの子の笑顔を守れるんだ。我儘リストなるものを月菜ちゃんからもらった。全部叶えてやろうと、その時に決断した。だから、最後なんだ。

「後少ない時間だけどその時間を僕に下さい」

これが、プロポーズになるのかならないのかは分からないが、飾らない足長お兄さんに恋をしてしまう。そんな分かりやすい月菜ちゃんの幸せは世界が祝福してくれる。
きっと、絶対に。
「はい」
笑顔でいたかったけど涙が溢れてくる。こんなくしゃくしゃの顔で足長お兄さんの前には立ちたくはない。でも、言葉は自然と溢れてくる。
「私の方こそよろしくお願いします」
「何二人で立っているのさ」
瞳が正装をしている。それもそのはず二人の式に参列をするためだ。招待状を貰った人は全員着いたよ。後はあんたらだけだと言いたげな言葉だった。
「早く来いよ」
「行こうか」
「はい」
二人は別々の部屋に通されて着替えている。
妹ちゃんは始めてだらけの経験をした。化粧なんて始めてしてもらった。自分が自分ではないような顔になった。きれいすぎる。これで、また足長お兄さんが私に惚れてしまうなと、鏡とにらめっこしている。ドレスも選びたい放題だが、おすすめの衣装にして、その場を後にした。緊張感がぞっとくる。今までで一番うれしいことがおきる。世界は二人には冷たくはなかった。だが、死の前では抗えない。だからこそ、幸せな一ページを作るんだ。

「皆の記憶に残りますように」と願った。

教会の中で正装を皆がしている。

回想
「私が父親役でいいんですかね」
「マスターお願いします」
「そうですか、では、喜んでお受けします」
回想終わり

結婚式のBGMが流れている。
そこにいる。
足長お兄さんと皆がいる。
皆が私と足長お兄さんの結婚を喜んでくれている。
私は一生懸命涙をこらえた。
だって、笑顔になりたいじゃん。
マスターがエスコートしてくれて、足長お兄さんの前に立ちエスコートが足長お兄さんに変わった。二人は神父さんの前に立つ。
神父さんが言葉を発する。
「足長お兄さん、あなたは月菜さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか」
「はい。誓います」
足長お兄さんは言葉を出した。
「月菜さん、あなたは、足長お兄さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか」
「はい。誓います」
月菜は言葉を発する。
月菜の最初で最後の我儘だった。とあって欲しい。

それから一週間が過ぎ
容体が急変する。
それから間もなく息を引き取った。
着いた頃には手遅れだった。
看護師の一人が手紙を渡した。
手紙を広げて目視で読んでいる。 
しおりを挟む

処理中です...