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しおりを挟むと、メルウィンが唇を尖らせて小さくぼやいた。
「まったくもう……師匠に対する仕打ちとは思えないよ」
「魔術師としては尊敬していなくもないが、ひととしてはクズすぎるからな、貴様は」
「魔術師として一流で、ひととしても一流だったら、完璧すぎて気持ち悪くない?」
「クズよりマシだろう」
「ラックくん、辛辣」
短く返したメルウィンの声を聞きながら、ラックは女性を一瞥して改めて問う。
「……話を戻すが。あの女性はどこの誰だ」
「だから、知らない」
「は?」
思わず眉間を寄せたラックに、メルウィンは手をひらひらと振って続けた。
「本当に知らないんだってば。お城で宝物庫を物色してたら兵士達に見つかっちゃってね、んで逃げてる途中で、その子が空から降ってきたの。悲鳴をあげながら。そのままじゃ墜落死しちゃうから、仕方なく助けたんだよ」
「……つくなら、もっとマシな嘘をついたらどうだ?」
「本当だって。ねぇ君、本当に君は空から降ってきたんだもんね?」
メルウィンが首をひねって女性を見やりながら尋ねれば、蔦の網の上で呆然と座り込んでいた女性が、曖昧な調子で頷く。
しかし、そう説明されてもなお状況が理解できずに、ラックは眉間のしわを深めた。
そうして、女性に近付いて今度は自分自身で直接問い掛ける。
「おい、師匠の話は本当か?」
「……へ?」
「あのクズ男の話は本当か、と訊いている」
「あ……は、はい」
まだ空から投げ落とされたショックが残っているのか、相手の反応は心もとない。
改めて女性を観察し、ラックは怪訝に思った。
「……飛行系の魔術が苦手なのか?」
ラックの質問に、相手が首を傾げて「……はい?」と訊き返してくる。
重ねてラックは尋ねた。
「空から落下してきたんだろう? 魔術の練習中にミスをして落ちたとか、そういうことではないのか?」
難しいことを問うているつもりはない。が、彼女はぽかんとして目をしばたたくばかりで、やはりラックに違和感を与えた。まるで、話が通じていないかのようである。
すると、メルウィンが相変わらずの軽い調子でくちを挟んできた。
「こーら、ラックくん。女性に威圧的なのはよくないよ」
「女性を空から落とした男に、なにも言われたくはないが」
「あれは落としたんじゃなくて、ラックくんにパスしたの」
言いながら、メルウィンはふたりに近付いてくる。
そうして、自らの顎に手を添えながら彼女に顔を寄せた。――接近されたぶんだけ、戸惑うふうに女性は身を引いたけれども。
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