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しおりを挟む「……まぁ、君を連れてここまで逃げてきたことに対して、責任がないわけでもない」
「責任……?」
ミサは小首を傾げる。「ああ」とメルウィンは頷いた。
「僕は君と一緒にあの城を逃げ出してきたからね。僕達は正真正銘あのときが初対面だったわけだけど、向こうからしてみれば、僕とミサちゃんはきっと仲間に見えただろう」
小さく息を吐いたラックが、腕を組んで述べる。
「指折りの魔術師であると同時に、トラブルメーカーでもあるメルウィンの仲間だと思われたわけか」
「な~んか棘がある言い方だなぁ」
「あんたと一緒に旅をするようになってから、俺もいらぬ苦労を積み重ねてきたからな。刺々しくもなる」
む、と小さく唇を尖らせたものの、メルウィンはなにも言わなかった。
そのままミサに向き直って説明を再開する。
「とまぁ、そんなわけでね。僕の仲間だと思われると、実際問題として余計な苦労をする場面も少なくないんだ」
「こいつの日頃のおこないが悪いせいでな」
「そこまでのことはしてないつもりなんだけどなぁ」
「あんたの悪いところは、悪気が一切ないところだ。だから反省もしないし、改善もしようとしない」
「ラックくんって、たまに僕のお母さんみたいなこと言うよね」
「こんなクズが息子だったら、俺は世の中に申し訳がなくて首を吊るぞ」
「そこまで言う?」
ふたりのやり取りを聞きながら、ミサは思案する。
そうして「……つまり」と言いさして、ラックに尋ねた。
「この世界では、メルさんの仲間だと思われるだけで……デメリットが生じる――と、いうことですか?」
「その通りだ」
真顔で頷いたラックに「フォローしてよぉ」とメルウィンが情けない声で訴える。
「理解が早くて助かるぞ、ミサ」
無視する弟子に、今度は「聞いてよぉ」と師匠は縋った。
見た目の年齢からして、四十歳前後であろうメルウィンと、二十代半ばであろうラックの年齢差は決して小さくはないが、こうして見ると本当に親子のように見えてくるから頭痛がしてくる。ちなみにラックが親である。
ラックのこれまでの苦労を想像して、ミサは思わず涙が出そうになった。
けれども慣れたものなのか、ラックは縋ってくるメルウィンを相手にすることなく、ミサに続ける。
「だからこそ、俺達と行動を共にすることに、お前が引け目を感じる必要はない。むしろ、この世界に来て早々に出会った魔術師がこいつだった事実を憐れに思うくらいだ」
「ねぇ、さっきからボロクソに言いすぎじゃない? 本当に僕のこと師匠だと思ってる?」
「そうだったんですね……」
「おーい、無視しないでぇ」
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