転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

チーズたると

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 そのとき、玄関の向こうで、破壊された家の瓦礫が崩れようとしていた。
 そしてその瓦礫の先にいたのは――幼い女の子である。

 ミサの脳裏に、現代での記憶が蘇る。思い出すのは、トラックに撥ねられそうになっていたあの女の子だ。

 一度それを思い出してしまえば、じっとしていることなどとても出来なかった。

 ミサは床を蹴り、家を飛び出して、女の子のもとへと走る。
 次いで少女をかかえ、半ば転ぶようにして落下してくる瓦礫を避けた。

 避けた直後、巨大な瓦礫が大地の上で砕ける音が、背後でけたたましく響く。あんなものの下敷きになっては、ひとの形など残らないだろう。幼い子供なら尚更だ。

「だ、大丈夫だった?」

 訊くと、突然のことに状況を理解できずぽかんとしていた女の子が泣き出す。見たところ怪我はなく、泣ける元気もあるらしかった。

「おかあ、さ……っ」
「え?」
「おかあさぁああん!」

 母を求めて、少女はさらに泣く。
 すると、近くから女性の声が響いた。

「リノ!」

 少し離れたところから、血相を変えた女性が駆けてくる。
 ミサは彼女に声を掛けた。

「あ……この子のお母さん、ですか?」
「そうですけど、あの……」

「えっと、この子が落ちてくる瓦礫に巻き込まれそうになっていて、それで、つい……」
「まぁ……っ」

 手で口許を覆った女性は、ミサに深く頭をさげる。

「ありがとうございます……! 私、人波の中で、この子の手を離してしまって……」
「おかあさぁん!」

 少女が母親に抱きつき、母親も娘を強く抱きしめ返した。もう二度と離しはしないと、決意するかのように。

「よかった……本当によかった……。あなたはリノの命の恩人です。なんてお礼を言ったら……」
「いえ、ぐうぜん居合わせただけなので、気にしないでください。それよりも、早く安全な場所へ――」

 刹那、大気を震わせるほどの咆哮が響き渡った。ドラゴンである。
 少女と母親は身を硬くし、そして母親が涙をにじませながら呟いた。

「どうして……どうしていきなり、こんなことに……。ここはずっと、平和な街だったのに……」

 その台詞に、ミサの胸が痛む。
 ミサは母子を促した。

「とにかく、早く安全な場所へ逃げてください」
「あの、あなたも一緒に……」

 首を振って、ミサは拒否を示す。
 自分が共に行けば、確実にこの親子に迷惑が掛かってしまうだろう。

 ただでさえ、街をこんなふうにするきっかけを作ってしまったのだ。これ以上の迷惑など、とても掛けられない。

「私は大丈夫です。さぁ、急いで」

 どこか怪訝そうにしながらも、女性は頷いた。

「本当に、ありがとうございました」

 言って、彼女は娘をかかえて走り出す。その後ろ姿を、ミサは複雑な気持ちで見送った。
 ――お礼を言われる筋合いなど、ミサにはないというのに。


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