転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

チーズたると

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 次の瞬間、頭上をドラゴンが通りすぎ、ミサはあわてて物陰に隠れた。

 とにかく、ミサもどこかへ身を隠さなければならない。誰にも迷惑の掛からないどこかへ。

 いや――と、ミサはすぐにその考えを改めた。
 ドラゴンを操る男達は、ミサを探して街を破壊しているのである。

 つまりミサが出ていけば、これ以上、街が破壊されることはないのではなかろうか。

 ミサは懊悩する。これ以上この街を壊されたくない思いと、自分を守ろうとしてくれたメルウィンの言葉が心の中で拮抗した。

 ここでミサが敵の前に出ていけば、ミサを守ろうとしてくれたメルウィンの優しさを踏みにじることになってしまう。

 だが、こうして悩んでいるあいだにも街は確実に破壊され、犠牲者は増えていってしまうのだ。

 どうして、こんなことになってしまったのだろうと思う。昨日まで、ミサはただただ平凡に暮らしていた普通の人間であったのに。

 こんなことになるのなら、ずっとモブのような人生でよかった。

 自分のせいで誰かが傷付き、誰かの大切なものが破壊されるくらいなら、物語の主人公のような存在になんてなりたくなかった。

 ミサの思考を中断させるふうに、背後で物音がする。
 驚いて振り返れば、そこにいたのはひとりの男性だった。
 男はミサの顔を確認すると、機嫌よさげに口笛を吹いて叫ぶ。

「見つけたぞ! ここだ!」

 どうやら、ミサを探している男達の仲間らしかった。
 ミサはあわてて地面を蹴り、走って逃げる。

「待ちやがれ!」

 そう言う男は、剣を振りまわしながら乱暴な動作で追いかけてきた。
 ――怖い。ただ、純粋な恐怖を覚える。

 命の危機だとか、もはやそれ以前の問題だった。追われる恐怖や、刃物を眼前で振りまわされる恐怖、破壊されていく街の非日常的な光景――そのすべてが恐ろしくて、不安で、たまらなくなった。

 街を走れば、目を覆いたくなるような惨状が一目瞭然である。
 先程までは、まるで絵本に出てくるふうな素敵な街並みだったのに。

 それが、今はどうだろうか。建物のそこここが崩壊し、煙があがり、悲鳴が飛び交っている。

 ミサが――ここに来てしまったばかりに。
 様々な感情が込み上げて、視界が涙で歪んだ。

 それでも足を止めるわけにはいかず、男から逃げるためにミサは見知らぬ道をめちゃくちゃに走る。

 もう、どこをそれだけ走っているのか、自分にもわからない。
 しかし、とある角を曲がった瞬間だった。

 ミサの視野を、紅蓮の色が覆う。
 一瞬、ミサは己の状況が理解できなかった。

 それが巨大な炎の塊だと悟ったのは、熱風に体を包まれてからである。
 どうやら、上空のドラゴンが吐いた業火が、ミサに迫っているらしかった。

 避けることは、出来なかった。突然のことで、足が動かなかったのだ。
 ああ、自分はこのままこの炎に焼かれて死ぬのだなと、他人事のように考える。

 ドラゴンの炎に焼かれれば、どうなってしまうのだろう。骨も残らなくなってしまうのだろうか。


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