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しおりを挟むそれを感じるからこそ、「あなたのしようとしていることは悪だ」とは、すぐに言えなかった。
正しくないこともわかるが、しかし「正しくないこと」はイコール「悪いこと」ではない。
正しくないということと、悪であるということは別なのだ。正しくないことは、あくまでも「正しくない」ことでしかない。
だが、それでもやはりザルフィナの願望を受け入れることは出来なかった。
彼には信念や強い思いが、たしかにあるのだろう。
この世界の在り方も、きっとよくないのだろう。
だからといって、無関係の人々を巻き込む理由にはならない。それは、免罪符にはならない――と、ミサは感じる。
勇気を振り絞って、ミサは言った。
「ザルフィナさんの事情は、その……わかりましたけど……でも……っ」
「無関係の人々を巻き込んでしまうのがよくないことは、承知しています」
ミサが言いきるまえに、他でもないザルフィナ本人がそう述べる。
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わず、ミサは驚いて相手を見返した。
そんなミサを、ザルフィナは冷静に見やる。
「なにを驚いた顔をしているのですか。それくらいの善悪の意識はありますとも。それとも、あなたは私が他人を巻き込むことも厭わない極悪人だとでも思ったのですか?」
「そ、それは……」
言い淀んだミサの代わりに、メルウィンがくちを挟んだ。
「まぁ、そう思われても仕方ないよね。とくに、異世界側の人間からはさ」
ザルフィナはくちを噤む。
しばしの沈黙の末、彼は語った。
「……そうですね。あなたの側から見れば、私はどうしようもなく身勝手な男に見えるのでしょう。……ですが、犠牲なくして大きな事は為せません。誰も傷付かず、皆が幸せになれる道などないのです。
そんなものは、ただの子供の幻想です。人間は、ひとりひとり立場が異なれば、考え方も感じ方も違います。もうその時点で、円満な解決などありえないのですよ」
ザルフィナの瞳は冷静だった。
彼は続ける。
「故に、私は私の願望を実現させることをためらいません。犠牲は多いでしょう。反発も多いでしょう。後悔もあるかもしれません。
ですが、現状を嘆いてなにもせず、ただ愚痴を零しながら余生を送るくらいなら、私は喜んで批判を浴びながら世界に亀裂を入れましょう。返り血に我が身を濡らしましょう」
言葉が重なるにつれ、ザルフィナの瞳が強くなっていった。
自らの犠牲を厭わない彼の姿に、ミサは錯覚してしまいそうになる。
ザルフィナがこれからおこなおうとしていることは――正義の革命なのだと。
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