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「まずいわね……」

 広げていた地図から顔をあげて、マーガレットは空を見上げた。

「……迷ったわ」

 上空では、夕焼け空を背景にして鳥が鳴いている。

「いちおう地図見て進んでるはずなんだけど……どうして目的地にたどり着かないのかしら……。この地図、偽物じゃないでしょうね」

 以前この森に入って遊んだときは、ここまで森の深くには入らなかったので迷うことはなかった。それで、油断をしてしまったのかもしれない。

「どうしよう……いっそのこと、木を片っ端から倒して直線に進んでみようかしら……。環境破壊甚だしいけど、こっちも命が掛かってるわけだし……」

 マーガレットは思案する。魔法で火もおこせるため、野営自体は怖くなかった。
 それでも、いつ森を抜けられるのかわからない――というのは、やはりマーガレットを不安にさせる。

「……とりあえず、なんか食べよ。どこかにちょうどいい動物はいないかしら……」

 夕飯の食材になりそうな動物を求めて、マーガレットは周囲に視線をやった。

 そのとき、不意に自分に迫る危険を察知する。
 瞬時に神経を集中させて、どこから危機が迫っているのかを確かめた。
 そして、背後を振り返る。

「そこっ!」

 叫んで、マーガレットは勢いよく足を振り上げた。
 すると、足の裏がなにかを破壊する感触を覚える。

 マーガレットに蹴り上げられたものの残骸が、宙を舞って地面に落ちた。
 見れば、それは折れた矢である。矢が背後からマーガレットを襲ったのだ。

 野生の動物が、弓矢などを使うはずがない。
 つまり、今マーガレットを狙った人間がいるということだ。
 矢が飛んできた方向を睨みながら、マーガレットはくちをひらく。

「ずいぶんと大胆な挨拶してくれたじゃない。理由次第じゃ、無事に帰さないわよ」

 声が、逢魔が時の森に反響する。
 木々は夕日の鮮やかなオレンジ色と、夜へと続く濃厚な色の影を同時に抱いていた。

 そんな影の向こうから、軽快な男の笑い声が響く。

「こいつは驚いた。まさか矢を吹っ飛ばすようなお嬢さんがこんなところにいるとはね」

 影から溶け出るように現れたのは、ひとりの青年だった。
 高い身長に、しなやかな体。少し長めの黒髪が、どことなく野性的な印象を与える。

 彼は、手に弓を握っていた。この男が、矢でマーガレットを狙ったのだ。
 マーガレットは相手を睨む。

「あら、素直に正体を明かすのね。それじゃあ、さっそく理由を聞こうかしら。私にこんな物騒なものを飛ばした理由を」

 言って、足許の矢の残骸を踏みつけた。
 男は降参するように、両手をあげる。

「悪かったって。事故だ。シカと間違えちまったんだよ。まさかこんな時間にこんな場所で女の子に会うなんて思わなくてな」


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