婚約破棄された令嬢は魔法で仕返しいたします!

チーズたると

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「どうすりゃいいかわからんかったから、殴って気絶させた」
「乱暴ね」

「じゃあ、お前ならどうするよ」
「たぶん殴って気絶させるわ」

「そうだろうよ。だから、花の煙を吸いすぎねぇように気を付けろ。俺に惚れちまうぞ」

「人生の汚点だわ」
「言いすぎだろ」

「あんたも気を付けなさいよ。いきなりこっちに惚れて言い寄ってきたりしたら、股間蹴り上げるからね」
「なんてこと言いやがる」

 呆れと恐怖が入り混じったような調子で、シャールが言った。
 そこで、マーガレットははたと思い当たる。

「――ああ、なるほど。その花を狙うやつが後を絶たない理由って、その惚れ薬の効能のせい?」

「そういうこった。花の蜜で薬を作るんだと」
「卑怯ね。恋愛は自分で勝負するもんでしょ」

「同感だ。しかも薬は一度使ったら終わりじゃねぇ。一定の時間が経過すれば効果が切れて、薬を使われたやつは正気に戻っちまう。だから薬は使い続けなきゃ意味ねぇしな」

「ずーっと薬で相手をだますことになるってこと? そんなんで相手を自分のものにして嬉しいのかしら。っていうか、普通に相手の気持ちを踏みにじってることになるし、それで相手に手を出したりしたら性犯罪よね」

「ああ。だから、証拠を集めれば薬を悪用したやつを逮捕できるはずだぜ。だが、薬を使い続ければそれがバレるリスクも大幅に下がる。薬で相手に惚れてるのか、心底相手に惚れてるのかは周囲にはわかりづらいからな。そのせいで、今あんたが言ったみたいに、犯罪に悪用されることも少なくない」

「花を狙うやつが減らないわけだわ。そのぶんだと薬を誰かに売って金儲けしてる魔法使いもいるわね、きっと」

「人間じゃあ花を狩るのに一苦労だからな。ったく、これ以上魔法使いの風当たりが強くなる真似は勘弁してほしいぜ」

「法律を強化する必要があるんでしょうね。国に帰ったら、父様や母様に言ってみようかしら」
「そうしてくれ。こういうのは一般市民にはどうすることも出来ねぇからな」

 そのときだった。
 木々の奥から男の悲鳴が響いてくるのを、シャールとマーガレットは聞いた。

 顔を見合わせてから、ふたりは駆け出す。そう遠くはないはずだった。
 木立を抜けると、マーガレットの視界に入ったのは宙吊りになっているひとりの男性である。

 その男を宙吊りにしているものの正体を確認して、マーガレットは目を見張った。
 男性は、一本の太く長い蔓に足を絡め取られて、吊るされている。

 その蔓を目で追っていくと、たどり着いたのは巨大な――まるで怪物のごとき花であった。
 高さは、二階建ての家ほどもあるだろうか。

 花は巨大で、花弁は桃色だったが、怪物じみた大きさというのもあって、その色はひどく毒々しく見えた。


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