四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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09 【魔王side】その頃の魔王城

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 一方、ダンジョンの管理をしていたカイトシェイドが消えた魔王城では、徐々に、だが、着実に崩壊の足音が響いていた。

 魔王城に「日常」が有ったのは、彼が消えた最初の数日だけだった。
 ごくわずかに、新たな四天王達や魔王にお茶や軽食を運ぶ給仕係が選ばれただけで大きな混乱や変化は無い。
 誰もがそう思っていた。

 だが、最初にそれに気づいたのは、意外にもシシオウだった。

「何じゃ、此処の池で毒の実験でもしておるのか?」

 まずおかしくなったのは上下水道などの水回りだった。
 貯水池の魚が一斉に死んだのだ。
 おそらく、管理していた毒の沼の水と池の水が繋がってしまった事による魚の中毒死。

 ダンジョンは基本的に生き物に例えられることがある。
 水路や魔力路などの「通路」に当たるものは、常に管理をしていないと、妙な配線同士が勝手につながってしまうことが多々あるのだ。
 
 だが、魔族にとって、貯水池の魚が大量死しようが大した問題ではない。
 それよりも、毒の沼地に真水が入り込み、毒が薄まってしまった事の方が問題だった。

 毒素を主食にしているモンスターや魔族からすると、今までちょうど良かった毒が一気に薄くなってしまったのだ。

 例えるなら、お玉一杯のカレーに水を10ℓ注ぎ入れたものを米にかけて喰え、と言われているようなもの。
 当然、不満は上層部へと上がって来るが、ダンジョン内の水路整備など、誰も経験が無かった。

「ちょっとぉ、ルシーファ! わたくしのところのジャグジーが止まってしまったのですけれど!? サキュバス・クイーンであるわたくしに、水風呂に入れって言うんですの!?」

「知りませんよ、そんな事!! それより、マドラ、私の書庫が!! どうして魔用紙にホウシキノコが生えるんです!? 湿度と魔力量管理はどうなっているんです!? これは貴重な魔導書なんですよ!」

「くくっ……キノコなど知らん!! そんなことより、水龍族の寝床の水質が落ちて、皮膚病が蔓延しているのを何とかしろ、サーキュ、ルシーファ! お前たちは治癒系の技がつかえるのだろう!?」

 当然、自分の部下たちに水路の整備などをやらせてみたのだが、水回りを素人が弄る事ほど恐ろしいことは無い。
 しかも、この手の事象については、恐ろしいことに、現四天王の誰もが詳しい知識を持っていないのだ。


「魔王様、北の厠も逆流を始めました!」「魔王様、南のお手洗いはもうだめです!」「魔王様、溶岩流が逆流して氷雪エリアを侵食しています!」「魔王様、西のトイレに精霊の泉が湧き出しました!」「魔王様、夢見の塔の崩壊が止まりません」「魔王様、有害モンスターの処理が間に合いません!!」「魔王様!」「魔王様!!」「魔王様ッ!!」

「ええい!! 余は遠征の疲れを取りたいのに、一切、心が休まらんではないか!?」

 結果として、誰の指示を受けて良いのか分からない魔族達は、最終責任者である魔王に報告と指示を仰ごうとし、混乱が増長する。……そんな悪循環が起こっていた。

「くそっ!」

 そして、その魔王の苛立ちが向かった先は、より、最悪の方向だった。

「魔王城の管理は『コア・ルーム』からの指示のはず……これが諸悪の根源か!」

 ずかずかと、フルオープンになっている『コア・ルーム』に上がり込んだ魔王は、その、魔王城の心臓部、とも呼べるコアを勢いよくぶん殴った。
 
 この脳筋魔王の頭の中では『叩けば従う』という方程式が固着してしまっていたのだろう。
 
 ……ビキッ! ずずぅぅぅん……!

 コアに入った小さなひび割れ……と、同時に、何やら不吉な地響きが聞こえて来た。

「何だ?」

「ま、魔王様!! 魔王城の壁の一部が崩壊しましたッ!!」

「魔王様、先代の残した書物に、コアがダメージを受けるとダンジョン……つまり、魔王城も壊れていく、と記載が!」

「……」「……」「……」

「ま、魔王様、問題ありません! この程度のヒビであれば、強力な回復魔法で元に戻す事ができるみたいです!」

「おい、誰か、ルシーファ様を呼んで来い!!」「あの方は元天使族だから、魔族以外も回復出来るはずだ!!」「いや、癒しならサーキュ様だろ?」「いいから、この際、お二人とも呼ぶんだ!!」「御意ッ!」「伝令!!」「伝令ーッ!!」

 崩壊の序曲は、魔王が沈黙する中、着実に進行していた。


 だが、彼らは知らない。
 やがて台頭してくるハポネスの迷宮ダンジョン都市が、自分達の存在を脅かす事を。

 そしてそれが、自分達が追い出してしまった男の創り出したものだということを。

 まだ、彼らは知る由もなかったのだ。


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