四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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30 【魔王side】そのころの魔王城③

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 一方、カイトシェイドなき魔王城ではとんでもないことが起きていた。

「見下げはてたヤツめ……!」

「ッぁぁあっ!!」

 ざんッ!!

 魔王が殺めたのは、四天王筆頭であった漆黒の翼を持つ堕天使……ルシーファだったのだ。
 
 そして、魔王は虚ろな瞳をしたままのルシーファの首を蹴り飛ばす。
 あたりは、彼を殺してバラバラにした時の血で真っ赤に染まっている。

 蹴り飛ばされた首は、ぐしゃっと音を立てて、壁にぶち当たり、曼殊沙華のような血と肉の花を咲かせた。
 首と共に壁に叩きつけられて壊れたメガネの残骸が、この肉片が元四天王筆頭と呼ばれていた堕天使であると主張していた。

「ふん! ルシーファよ、貴様などすでに四天王でも何でもないわ! マドラ! 代わりはお前がやれ!」

「……はっ!」

 厄介事を押し付けられた四天王マドラも、ただ黙って受け入れるしかなかった。




「くそっ!! なぜこの俺様がコアルームの管理なんてなんでやらなければならないんだ!!」

 しっちゃかめっちゃかになっているコアルームでマドラは一人憤慨していた。
 そもそも、このコアルームがこんなに荒れているのも、元は自分が癇癪を起して先代魔王のメモの乗っている机やら本棚やらを叩き割ったせいなのだが、その自覚は一切ない。

 ルシーファのヤツも最後は相当頭がイカれていたらしく、そこら中に魔王樹から精製された栄養ドリンクやら、何やら薬の空き瓶のようなものの残骸が転がっていたり、訳の分からない器具が散乱しているのも腹立たしい。

 それもこれも、原因はあのカイトシェイドだ。

 アイツが四天王から外される事に腹を立てて勝手に出て行ったのが悪いのだ。
 あんな奴は未来永劫自分たちの下で雑用をしていれば良かったのに。

 身の程を知らない馬鹿のために、何故自分がこんな目にあうのか!
 腹の虫が収まらないマドラの頭に、ふと、魔王様の怒りを買って殺された堕天使の言葉が蘇る。

『どうあってもカイトシェイドを連れ戻すべきです!』

 あの時は、ついにルシーファのヤツも狂ったか、と思ったのだが、いざ自分がその席に座ってみると、それはとても良い考えのような気がした。

 そうだ。カイトシェイドを無理やり連れ戻してここに縛り付けてでもやらせよう。
 それがいい。

 元々、あの男はダンジョンが無ければ何もできない無能。
 あの時は、シシオウ殿と戦った直後で自分は満身創痍だったのだ。
 だから、あの卑怯者に後れを取ってしまったに過ぎない。

 万全の体勢であり、さらにはダンジョンの外をうろついているであろうカイトシェイドなど敵ではない。

「いままで、さんざん迷惑をかけられたんだ、力ずくで連れて来ればいいだけではないか」

 あんな男、いっその事逃亡防止に足は膝から下を切り落としてやっても問題無い。

 マドラは自分の腕をゆっくりと撫でると残忍な笑みを浮かべた。

 しかし、もし仮に自分が『コアルームここ』を出てカイトシェイドを探し回っていることが魔王に気づかれるのは好ましくない。

 最近の魔王は、常に不機嫌だし、ちょっとした失態でも容赦がない。

 マドラは自慢の翼をもぎ取られ八つ裂きにされ殺された元・同僚を思い出す。
 あ奴も元々は先代魔王の妻の一人を守っていた守護天使だったはずだ。
 魔界に天使が天使のまま存在すること自体が珍しかったからよく記憶している。

 それに目を付けた現魔王様が、先代の死後、直々に手籠めにして無理やり堕天させ、記憶と思考回路を弄り回してまで、自分の部下として使っていたのだから、かなりお気に入りの玩具だったはずだ。

 魔王様の趣味とはいえ、あの陰険な鼻持ちならない口ぶりや、魔龍族である自分を上回る力で『四天王筆頭』などと持ち上げられていたのはいささか不愉快でもあったので、処分された事に対しての不満は無い。

「だが……まぁ、万が一、カイトシェイドのヤツを探すのに時間がかかるようなことが有っても魔王様の怒りの矛先は他のやつに向くようにしておくか……」

 マドラは慣れない手つきでダンジョンコアをつつく。

「シシオウが部屋に戻ったのが原因で魔王様の寝室に雨漏りでもするように設定しておけばいいだろう」

 指定の空間に生き物が入った途端に発動するタイプの罠を設置する。

「その間にカイトシェイドだ。あいつを捕まえてくれさえすればこんな役目を押し付けられずに済む!」

 これで万全の体勢、とばかりにマドラはにんまりと口角を吊り上げた。



 だが、マドラは知らない。
 彼の設置してしまった爆弾は『雨漏り』などという生易しいものでは無かったことを。

 寝室でサキュバス達と戯れる魔王の頭上では、この魔王城中の屎尿の詰まった『排水槽』が、直接流れ込むようにスタンバイされ、その時を刻一刻と待っていることを。


 そして、自室に戻ったシシオウは、どこか遠くで男と女の獣のような悲鳴を聞いた気がした。
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