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31 冒険者を言いくるめよう!
しおりを挟む「やぁ、コギッツ! いつも世話になっているな」
「旦那! いやいや、こっちこそお世話になりっぱなしで、ウサミン姉さんだって子供たちの面倒のために泊まり込ませて貰っちゃってさ」
いや、むしろそれはこっちが助かってます。
シスター・ウサミンは割と料理が得意らしく、こっちの食卓にも、かなり影響を与えている。
正直、ウチの奴隷たちだけで作る食事よりも彼女が監督してくれることで、一気に食事のグレードが上がっているのだ。
俺の分身体が料理をしても良いんだが、人間の常識では主はあまり台所に立たないらしく、女達から「旦那様にお手伝いいただくなんて、とんでもない!」と血相変えて止められてしまった。
そんな訳で俺が台所で料理をするのは、孤児院から30人の子供達が来た時や、本気で手が足りない時に限られている。
「それより、実は一つ、冒険者であるコギッツに頼みが有るんだが……」
「何っスか?」
「ウチの裏庭に見慣れない洞窟が顔を覗かせていてな? もしかしたら、購入する前からあったのかもしれないが、雑草の陰で見えなかったんだ。大分、奥が深いみたいで……」
「ふーん? とりあえず、危険がないか調査依頼って事かい? 旦那」
「ああ。ちなみに、その入り口付近でこんなものを拾ったんだ」
そういって、俺は懐から準備していた『魔法石』を取り出す。
漆黒の闇を押し固め、螺鈿のような虹色の光沢をもつ『魔法石』は、通貨として使えるだけあり、割と見た目は悪くない。
何だ? このミョーに綺麗な石? と、ずぶのシロートが感じても不思議ではない。
「っ!? だ、旦那、これ……ほ、本当にその洞窟の中で拾ったのか!?」
「あ、ああ……そんなに驚かれるとは、思ワナカッタナー……」
おっと、口調が棒読みになってしまった。いかん、いかん。
だが、コギッツくんはそんな俺の変化など気にかける余裕を無くして、食い入るようにその『魔法石』を見つめている。
「ま……まさか……『生きたダンジョン』?」
「やはり、コギッツもそう思うのか?」
「旦那も!?」
俺の言葉に、もふもふのしっぽをぶわわっと逆立てるほど興奮した様子でこちらを見つめてくる。
「いや、俺も不思議には思ってはいたんだ。ウチの畑では、何故か魔素濃度が高いところでしか育たないはずのマンドラニンジンが異様に成長しているし……そこに来て、見慣れない洞窟……もしかして、この畑が異常なのは、近くにダンジョンができたからなのか?……と」
俺は、あくまでも善良な医者っぽい感じで考え込んだふりをする。
「なるほど、その可能性……高いっスね」
「だけど、俺は荒事には向いていなくてね。少し入ってみたんだが、『大粒ゴキーブリ』の群れを見て逃げ帰ってしまったんだよ」
……と、情けなさそうな苦笑の形へと表情筋を酷使する。
ここにアルファが居なくて良かったな。
速攻で「どの口が」と暴露されそうだ。
俺が嬉々として『大粒ゴキーブリ』を素手で引っ掴み、捕獲器へ放り込む姿にちょっと引いてたもんな、アイツ。
なお、朽ちかけた樹のうろに、わしゃわしゃ居たから根こそぎ移住して貰っております。
数匹は『ブラック・コックローチ』に進化していたみたいだから、無事ダンジョンに馴染んでくれたのだろう。
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