四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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113 使者決定戦

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 審判役の人間に変化した鬼術師くんのスタートの合図で、一斉バトルがスタートした。

 ボーギル&カシコちゃん、シスター・ウサミン&コギッツくんはそれぞれタッグを組んで戦うらしい。

 そんなボーギル&カシコちゃんチームにオメガが【強制睡眠ネムレ】を仕掛ける。
 どうやら、二人いっぺんに戦闘不能にしてしまいたいようだ。

 だが、そこはS級。
 魔法抵抗能力を上げる呪文を使っているのか、二人の身体がうっすらと魔力光を放つと、【強制睡眠ネムレ】を弾く。

「あれぇ?」

「【風魔弾ウィンド・バレット】!」

 ぶわっ!!

「ふえっ!?」

 カシコちゃんの放った烈風が、まだ小柄で身体の軽いオメガを吹っ飛ばす。
 闘技場のバトルエリアから吹き飛ばされた体がステージから落下した。

 うーん……オメガのヤツは単体だと眠りの状態異常に抵抗されてしまうと打つ手が無いか。

 そのままボーギルのヤツはアルファに斬りかかる。

「おらっ! ……裁きの炎よ!【煉獄剣エンチャント・ソード】!!」

 がきぃっ!!

 炎を纏った剣を竜化した腕で受け止めるアルファ。

「ハッ! この程度……魔竜のおっさんに比べたら温ぃんだよォ!!」

 ギィン!

「くっ……」

 今度は、アルファが左腕でボーギルをノックアウトしようと拳を振りぬいたのだが、それを寸でのところで、受け止めた腕を弾き飛ばすことでアルファのバランスを崩し、紙一重で躱すボーギル。

 その横ではコギッツくんがドエムンに炎魔法を浴びせかけているが、どうやら効き目がないらしい。

「んんん!! 熱いっ! あついですぞぉぉぉぉ!! もっと、もっと激しくッ!!」

「な、なんなんスか、あの人ぉぉぉっ!?」

「うおおおおおっ!!!」

 涙目のコギッツくんを吹っ飛ばし、超重量級のゴブローさんの槌がドエムンに炸裂した。

 バキっ!! 「うぐぅっン!」
 ごすんっ!! 「ハァんッ!」
 めきょっ!! 「しゅごいのぉっ……!」

 かなり重そうな音を響かせてその半裸の身体を打ち据えるも、快感に悶えように幸せそうな顔で「もっと、もっと」と催促するドエムン。

 あー……コギッツくん、いつの間にやらステージ上から落ちちゃってるね。
 ……どんまい。

 ドエムンを殴り続けるゴブローさんの表情にも焦り……いや、驚愕の色が見える。

「吹っ飛びなさい【風魔弾ウィンド・バレット】!」

「いでよ、【金銭出納帳】ッ!」

 そんなドエムンとゴブローさんに対して、カシコちゃんとベータが同時に攻撃魔法を放った。
 恐らく二人のタイミングは偶然だったのだろうが、それでも共に西方向からの攻撃だ。

 流石のゴブローさんの巨体も、ドエムンも吹っ飛ばされる……かと思いきや

「【月魔法・攻撃魔法反射オカエリ】!!」

「きゃっ!?」

「なんと!?」

 二人の魔法攻撃を受け止めるように体を滑り込ませ、月魔法を展開させて反撃したのはシスター・ウサミンだ。
 どうやら、複数名が・同時に・同方向へ、攻撃魔法を放つ瞬間を待っていたらしい。
 【月魔法】の使い方としては上手い手だ。
 以前に俺が教えたコツを守ってくれている。

 予想外の反撃を喰らい、ステージ上から叩き出されたカシコちゃんとベータ。
 
 だが……

「申し訳ありまセン、シスター・ウサミン様。背中がガラ空きデス」

「へっ!?」

 突如姿を消すシスター・ウサミン。

「えっ? えっ??」

 彼女の姿が現れたのはステージ外のリタイア・スペース。

 どうやら、ネーヴェリクの攻撃が致死ダメージの攻撃と判断されたようだ。
 ゴブローさんの影になっていて、良く見えなかったが、ヴァンパイア・プリンセスは、その姿を霧などに変化できるから、身体の一部を剣などに形状変化させ、シスター・ウサミンを貫いたのかもしれない。


「【出戻移動リターン】! エルフを舐めないでよねっ!!」

 おっとぉ!?

 吹っ飛ばされ、ステージの外に落下したと思われたカシコちゃんが、一番最初に立っていた場所へと戻って来た。
 戦闘スキルや場数においては、比較的経験の無いベータよりも一枚上手だ。
 彼は、ステージの外でやれやれ、と肩をすくめている。

「【攻撃増加パワー・キンニク】、【速度増加スピーディー・キンニク】! 決着つけなさい、ボーギルっ!!」

「うおおおおおっ!」

「何っ!?」

 カシコちゃんの補助魔法のおかげで、一気にアルファを押しまくるボーギル。

「きゃっ!?」

 だが、ボーギルがアルファを押し切る前に、カシコちゃんの姿がシスター・ウサミンと同じリタイア・スペースに移動した。
 見れば、申し訳なさそうな顔のネーヴェリクが立っている。

「カシコ様も、申し訳ありマセん……」

 そう言い残すと、ふわりと世界に溶け込むように姿を消すネーヴェリク。
 おー……どうやらネーヴェリクは暗殺者系の技能が高いらしい。
 姿を消して、死角からの一発必殺タイプだったか。

 しかし、シスター・ウサミン、カシコちゃん、と比較的個人での防御力に劣るタイプしか倒せていない所を見ると、攻撃力そのものはそれほど高く無いのだろう。

「あーーーん、悔しいっ!! ボーギルっ! アタシの補助魔法の効果が切れる前にやっちゃいなさいっ!!」
 
 カシコちゃんの言葉に喝を入れられたのか、突然ボーギルが手にしていた剣を鞘に戻す。
 と、上半身を前に深く傾ける。左手で鞘を押さえ、右手は柄に、息を大きく吐きだした。

 あれは、居合の型……か?
 ボーギルの剣は普通の両刃だったと思うのだが……?

「……ふぅぅぅぅ……秘剣『壱の太刀・死芽切シメキリ』!!」

 一閃。
 ゼロ距離の音速。
 ボーギルが降りぬいたソレは、光の形をした剣……ではなく、切り殺すことに重点をおいた「刀」の形をしていた。
 
 魔法剣ってこんな事もできるのか……! 凄いな。

 目の前に居たはずのアルファの姿が二つに分かれて消えた。

「ぐっ!」「おおっ!?」

 ……と、同時にボーギルの剣圧がゴブローさんとドエムンにも及んだらしい。
 もはや、闘技場の上に立っているように見えるのはボーギル・ゴブローさん・ドエムンだけだ。
 他に、ネーヴェリクも居るはずだが、彼女の姿は空に溶け込んでいる。

「その太刀筋、見事っ! いざ、尋常に勝負ッ!!」

 どうやら、ゴブローさんはドエムンよりも先にボーギルを倒すべきと踏んだらしい。
 
 手にしていた槌を握り締め、ボーギルに向かって連撃を繰り出す。
 あの重そうな槌がまるで綿菓子のように軽々と振り回されている。

「……ふぅぅ、ハァァァ……」

 ボーギルはさっきと同じ、深く腰を落とし、前傾姿勢の居合の構えだ。

「『弐の太刀・黄泉切ヨミキリ』!!」

 斬。

 ゴブローさんの姿がリタイア・スペースへと移動した。

 うわぁ……ボーギル、カシコちゃんの補助が効いているのかもしれないけど、強いなー……

「ふっ、ざ、けんなぁぁぁっ!!」

「何っ!?」

 二つに分かれて消えたと思ったアルファの姿はどうやら幻惑系の魔法だったらしい。
 アルファのヤツ、いつの間にそんな技を覚えていたんだ!?

 まるで、オメガがフォローしたみたいだったのだが、サタナス戦の時に渡したダンジョンポイント5000を使ったのかな?

「うぉぉおおおっ!!!」

「くッ……『参の太刀・宇智切ウチキリ』!!」

「させるかぁぁぁっ!!!」

 アルファの拳がボーギルのみぞおちに、ボーギルの一撃がアルファの首に。
 同時に攻撃を放った二人は、仲良くリタイア・エリアへと移動した。

「んんん? こ、これは、どうしたらよいのですかな?」

 たった一人、闘技場の上に残されたドエムンが困惑の表情を浮かべる。

「ふふふ」

 その時、とろり、と風景の一部が蕩けるように歪むと、ぼんやりした表情の子供が現れた。

「オメガ殿?」

「そうだよぉ~、ボクね、幻覚術で、デコイがリタイアしたように見せていただけだったんだよぉ~」

 ほほう!? そう言われると……確かにオメガの姿はリタイア・エリアには居なかった。

 ……てことは、一番最初にカシコちゃんに突っ込んで行ったのも、攻撃魔法でデコイを場外に飛ばしてもらう為か!
 そして姿を隠していた、と。
 子供と思って侮っていたが、なかなかやるな、オメガ!
 
「んんん! ですが、オメガ殿……果たして、ワタクシめを倒せますかな!?」

 そうなのだ。
 魔王サタナスでもゴブローさんでも倒せないドエムンは、攻撃能力自体かなり低いオメガにとって、鬼門と呼べるような存在だ。

「う~ん? あのね、ボク、考えたんだけど……これでどうかなぁ?」

 てくてく、と。
 戦闘中とは思えないのんびりした足取りでドエムンの近くまで歩いて行くオメガ。
 
「?」

 ……コンコンコンコンコンコン。

 オメガは戦意も闘気も一切無い、ぽやっとした表情でドエムンの胸の竜の紋章をやさしく6回ノックした。

「ふあぁぁぁぁッ! あ、新たな扉が開いてしまいますぞおおおおッ!!!」

 カッ! と、ドエムンの身体が輝いたかと思ったら、その姿をリタイア・ゾーンへと移動させていた。

 あ……そっか、あの謎解き……まだ有効なのね。
 となると、優勝は……

「オメガちゃん、しっかり周りを見て作戦を立てていて偉いデス」

 ふわり、と靄のようなものが集まり、ステージ上にネーヴェリクの姿を取る。

「えへへ~」

「さっきのアルファさんの囮を作ったのもオメガちゃんデスか?」

「ボクだよ~。アルファは気づいてたみたいだけど……ふふふ、ボーギルさんにはバレなかったねぇ」
 
 どうやら優勝決定戦はネーヴェリクVSオメガのカードのようだ。

「では……どうしマスか? オメガちゃん」

「そうだねぇ……うん! ボクの負け~」

 ところが、ここまで残ったオメガがあっさりと白旗を上げ、自らステージを降りる。

「だって、ヴァンパイア・プリンセスに進化してから、ネーヴェリクにはボクの【強制睡眠】が効かないんだもん……アルファが残っててくれたら、分かんなかったけどねぇ~」
 
 結果、一斉バトルを制したのは俺の副官でもあるネーヴェリクだった。
 ……魔王城ではサキュバス達に虐められてコッソリ隠れて泣いていたネーヴェリクが……と、思うと、何かちょっとジーンとするものが有るな……

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