腐女子さんは魔女

花森黒

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魔女会館

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 ラッキーは日が完全に暮れる前に帰宅した。ラッキーは魔女会館に住んでいる。独身魔女が多く住む、魔女のシェアハウスのようなものだ。
 箒から降りると、杖を振ってブドウの木箱を浮遊させ、玄関扉も魔法で開けて屋内に入る。
 魔法が使えると、物ぐさになってしまって困る。それで慌ててダイエットしたり筋トレに励んだりするのだ。
 広い玄関ホールの隅に箒置き場がある。杖を一振りすれば箒がびゅんと飛んで行って定位置に収まった。玄関ホールの隅に、何やら怪しい魔法道具のガラクタが置いてあった。誰かが放置しているようだ。勝手に捨てると揉めるので、放っておく。
 らせん階段を階段を登っていく。2階が住民の共用スペースで、ラッキーの自室は3階にある。ラッキーはひとまず2階のラウンジに向かった。
 2階の中心にあるラウンジには、一般家庭で言うリビング、ダイニング、キッチンの機能が備わっている。ラウンジの周囲には扉がたくさんあり、数人で使える個室のキッチン、ジム、魔法実験室、図書室などがある。何しろ住人全員が魔女なので、欲しい部屋があれば空間拡張魔法で追加したり、いらなくなった部屋を消したりしていた。
 暖炉の前のソファに寝っ転がって本を読んでいるのは、フリーランスのドラゴンスレイヤーのミカである。
「おかえりー」
「ただいまー」
ラッキーはブドウの木箱をダイニングテーブルの上に置いた。
「何それ?」
「ブドウ。とりあえず、食べながら話そう」
ラッキーは杖を振ってブドウを2房洗い、皿に乗せた。
「ブリリアントマスカットじゃん。1房2000ゴールドはしそう。しかも箱いっぱいあるの?!」
「そう。私、これからはブドウフリーパスなの」
ラッキーはブドウの皿をローテーブルに置いて、ソファに座った。ブドウを1粒つまんで口に入れる。甘くて濃厚な果汁が口いっぱいに広がり、幸せな気分になった。
ブドウを食べながら、今日の出来事をミカに話す。
「Aランクドラゴン退治かー。100万ゴールドのクエストじゃん。まあ、手取りは70万ゴールドだけど、それでも相当よ」
「私も退治する気なかったけど、緊急クエストを出す暇もなくてさ。村の真上に出ちゃったんだもん」
「あなた、本当に冒険者側に転職したら?」
「でも、ミカを見てるとフリーランスも大変そうじゃん。何日もかけて魔物退治に行ったりするし。その間に新刊が出たりイベントがあったりしたらどうするの?!  原稿の計画も立てにくいし」
腐女子の活動は主に、小説やマンガを買って読んだり、休日を中心に行われるファンイベントに参加したり、自分で小説やマンガを創作したりすることだ(これを原稿と言う)。中にはプロの腐女子もいるが、ほとんどの腐女子が余暇に活動を行っている。
 その点、本業が事務員ならカレンダー通りの休みが取れるし、有休もとれる。腐女子の活動にはもってこいだ。
 ちなみにミカも腐女子だ。というか、魔法使いたちが鉄の掟で隠しているのだが、どうやら黒魔法の素質はBLに目覚めると同時に発現するので、この世界の腐女子・腐男子は全員魔法使いである。
 ミカはブドウを食べながら、うんうんと頷いた。
「人それぞれね。私はドーンと稼いで、しばらくダラダラするのが好きだけど」
そしてミカは読んでいた本を再び開く。マッチョ受けのBLマンガだった。BLの好みも人それぞれである。
 ブドウを食べながら少し休憩すると、ラッキーは自室に向かった。ミカには悪いが、マッチョ攻めのイラストを描かなければならなかった。
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