好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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 エヴァリーは無事に留学を果たして、慣れない生活に四苦八苦しながらも毎日充実して過ごした。
 
 環境も文化も言葉も違う。
 
 その忙しなさがエヴァリーに感傷に浸る時間も落ち込む時間も与えない。
 
 
 ——だが、手紙はどんどん溜まっていく。
 
 
〝夏のダンスパーティー、先輩は誰と行きましたか?〟
 
〝卒業おめでとうございます。直接、そうお伝えしたかったです……〟



 季節毎、送り主の居ない手紙を書いて封に入れ、お菓子が入っていた缶に入れる。もうそろそろ蓋も閉まらなくなるのに、エヴァリーはそれをやめなかった。
 何度もやめようと思うのに、やめられなかった––––。
 



 エヴァリーが留学を決めて、二度目の雪解けの頃、留学期間の終わりと共にパーベル・アビーへエヴァリーが戻る。
 
 だが戻って早々、学校長に呼び出された。
 勉強しかする事が無かったお陰か、エヴァリーは成績優秀者として留学期間の延長許可が出て、このまま現地の大学に進むことも可能だし推薦すると学校長から告げられた。
 
 
 
 
「なんでぇ!?やっと帰ってきたと思ったら、そもまま向こうに居るですって!?」
 髪を肩まで切ったリリアンが目新しく、その可愛さが堪らなくてエヴァリーは隙あらばリリアンを抱きしめる。
 
 久々の再会のせいか、リリアンも拒絶はしなかった。
 
 
「……まぁでも、エヴァの体質にはそうした方が良いって聞いてたしな」
 オースティンは分かってた、とでも言う様なため息を吐く。
 
「卒業したら、それこそ一回世界中を回ってみようかなーって。せっかく大学生だし、許可が降りたらバイトしながら貯金して……」
 
 快活にそう告げるエヴァリーに、リリアンとオースティンは何とも言えない顔をした。
 
「常に新しい場所に行く事は嫌じゃ無いし、何か、この呪いなのか魔女だかの事も分かるかもしれないしさっ」
 
 エヴァリーは暗い雰囲気を避けるため、あくまで明るくそう言い切る。
 
 
 
 だが、リリアンは何も言わずとも、その目に涙を溜めた。


「……––––俺も、大学そっち行こうかな。
 そしたらエヴァ寂しくないだろ?」
 
 オースティンが優しい笑みをエヴァリーへ向ける。

「私はフェンシングで推薦貰ってるから……もうどうしようも出来ないわ……」
 リリアンはジクジクとした物言いで、オースティンとエヴァリーを見遣る。
 
「二人が居ない生活なんて、私……耐えられない……」
 そんな風に言うリリアンをエヴァリーはキツくキツく抱きしめる。
 
 
「リリにはエメレンスが居るだろ」
 オースティンが揶揄う様にそう言った。

「やめて。本当にやめて」
 リリアンがさっきの泣き顔からギョッとした顔をしてオースティンをバシバシと叩く。
 


 二人とも変わってない––––
 何とも居心地の良い時間に、エヴァリーはずっと浸っていたくなる。
 ここが、私の帰る場所––––そんな風に思うと、自分の決意が揺らいでしまう気がした。
 
 
 
 休日、リリアンとオースティンはたまたま用事があって、エヴァリーは一人でバスに乗りお決まりの街へ向かう。
 
 懐かしい様な、新鮮な様な……––––
 
 確実に時間は流れているとバスから見る街並みからもそれは見て取れた。


 バスから降りると、街にはちょこちょこ目新しいお店があって、エヴァリーもキョロキョロしながら辺りをウロウロとする。
 
 時折道を教えましょうか、とエヴァリーに声をかけて来る男性が居て、エヴァリーもようやく男子生徒から卒業だと苦笑いした。
 
 
 留学先の仲良くなった友人達には、エヴァリーが余りにも女っぽく無いので、服やら化粧品やらを随分押し付けられた。
 
 貰ったのなら身に付けないと悪い気がして、エヴァリーもそれなりに試行錯誤した結果、エヴァリーの手持ちの服はその友人達のお下がりで埋め尽くされいるが大分ファッショナブルになったと言っていい。
 
 そのお陰か、遂に周りから女という認識はしてもらえるようになった。
 
 と言っても髪の毛は相変わらず短く、今日は大きめの白いシャツに、膝下のタイトスカート、そこに黒いブーツを履いてトレンチコートを羽織っているだけだ。
 勿論そっくりそのままこう着なさい、と友人に言われたコーディネートだった。
 
 
 暫くプラプラと歩き回ると、それでもどうしてかエヴァリーの足には向かってしまう場所がある。
 
 古典文学が豊富に揃う古書店……––––
 
 あの時の事を覚えているのはエヴァリーだけだ。その思い出は、アイゼイアと共に残された思い出だが、その記憶はエヴァリーにしか無い。
 あの時話した事も、エヴァリーがどの本を買ったのかも、エヴァリーしか覚えてる人は居ない。
 
 そう分かっていても、その古書店のドアを開ければ、懐かしい香りがした。
 
 
 
 家に図書室がある、そう言ったボンボンが居たな……––––といつか、思い出す日が来るのだろう。
 
 
 
 エヴァリーはそこで一冊本を購入して、また大通りに戻る。
 
 
 そして数え切れぬ程の通った書店の窓に、例の過激な恋愛小説のポスターが貼ってあるのに気付いた……––––
 続編、新刊だ––––

 淡い水色に隠されていた過激さは、遂に隠す事をやめたのか、続編は真っ赤な装丁で出版されたらしい。
 
 
 大ヒット、ベストセラーの謳い文句と共に……––––


 ほらね、大人気には間違い無かった––
 
 ––先見の明があったって事だとエヴァリーは一人ほくそ笑む。
 
 
 堂々としたそのポスターに、エヴァリーはあれだけ好きだった恋愛小説も、ぱったりと読まなくなって数年が経つ事に気付いた。
 
 夢を見るのはやめた、一歩踏み出したあの日から––––……
 
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