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贈り物
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「まさかお召しになられたものまで寄付してくるなんて…」
優秀な侍女も呆れ顔を隠せていなかった。
特殊な熱に魘されながらも、フォーサイス子爵の面々を思い浮かべてマタイ総合病院に連れて行かれたらどうしよう、マタイ総合病院だけはどうか…と祈っていたがいつの間にか馬車は屋敷の前に着いていた。
『レディ』
聞き違いだろうと思い込みたかったが、その後の挨拶を見るに確実にバレている。どこの誰かも含めて。
考えだすとまた余計な熱に浮かされてどこか遠くに逃げ出したくなるので考えないようにした。
屋敷に入るなり、アンナは大変驚いていたが、勘違いしてくれたらそれはそれで都合も良い。
代わりに履いていた紳士用の細めのパンツを見て、ジャケットやスカートも寄付してしまったからと言っても、なぜこれを身につけようと思ったのですかとやんわり叱責された。
ザイラの目は泳いだが、なんとか誤魔化せたので良しとしたい。ただ捻挫だけは誤魔化しが効かなかった。
あれからアイヴァンとは顔を合わせていない。
もしかしたら、と万が一を仄かに期待してちらちらと便りを期待してみたものの、手紙は一つも来なかった。
あの2人があの後どうなったのか、詮索する気も無かった。
あの2人はあの2人だけが築いた世界や過ごした時間がある。
ザイラにはそういったものがないので、何をどうするべきか、アイヴァンが何を考えているのか予想も出来ない。
これからどうするのかは分からないが、ミア嬢に別れる気はさらさら無いのはよく分かった。
永遠の愛を誓いたかったであろう2人からすれば、現実は酷い事この上ないだろう。
妾にするのか、愛人のままにするのか、妻にそれは決められない。
アイヴァンにも幸せになって欲しいと思っていた。アレシアと同じように。
だが皮肉にもザイラと結婚させられて、その幸せは茨の道になってしまったが。
最近ではほんの少し、アイヴァンとの距離が縮まったのかと思った。
だが、それもただの希望的観測、この場合だと勘違いともとれる。
結婚したからには、最低限の信頼関係は築いておきたいとザイラは考えていた。
結婚を望んで無かったのはザイラも同じなのだ。
その点は2人の共通点といえる。
であれば、友人位にはなれたら良い、と僅かな希望を持っている。
愛して欲しい、と烏滸がましく願った事は無い。ただ、もし愛してくれたら、どんな風に愛してくれるのか、を考えてしまった時があった。
考えなくてもそんなの簡単なのに。
ヒロインの相手なのだから。
唯1人を思い続けるだろう。
小説でもそうだったように、その相手がザイラでは無い、ただそれだけだ。
それはそうと、屋敷の主人にも面子はある。こちらが謙る気は全く無いが…
向こうからの連絡を待ってたら、それこそザイラは老婆になってしまう。
老婆になる前に、なんとか自然な理由を付けてアイヴァンに手紙を送ろうと思ったが、理由など探してる時点でペンは進まず目の前の便箋は真っ白なままだ。
こんな風に悶々と白い紙を見つめ続けるなら、もうこのままお飾りの立場の無い妻でも良いような気がしてきた。
それか、離婚、だろうか。
しかし元を辿ればなぜ政略結婚したのかといつもそこに戻ってしまう。
アイヴァンも、恐らく…出来るのであれば円満な離婚を望んでいるはずだ。
アイヴァンとフェルゲイン侯爵の関係は知らないが、今の現実から予想するに侯爵に逆らえるタイプの息子では無い。
婚約指輪の件や屋敷に寄り付かないのはせめてもの結婚への抗議、反抗だろう。
離婚しても構わないが、なぜ結婚したかは知りたい。でなければいつまでも喉に引っかかっているようで、気持ちが悪かった。
ローリー伯爵に聞いても仕方ないとして…コナー叔父さん?フィニアス?
ああ、そうか。いるじゃ無いか。同じような気持ち悪さを感じてる人が
トントンと部屋の扉を叩く音がする。
どうぞ、と言うと、アンナは両手いっぱいの花束を持って部屋に入ってきた。
「奥様、お届け物とお手紙です」
花瓶をお持ちしますね、とアンナは言ったが、両手いっぱいに花束を持った別の使用人達が次から次へと部屋へ入ってくる。
部屋一面が美しい色とりどりの花畑のように彩られ、爽やかな香りが辺り一面に立ちこめたが、ここまで大量だと呆気に取られた。
大体の花束を花瓶へ移したアンナが2通の手紙を載せたサルヴァを差し出す。
なんだかとても嬉しそうだ。
これだけの花を見れば、笑みも溢れるのが女心だろうか。
そして正反対にむっすりとした顔のベロニカは、自身と同じ背丈程の、サテンのリボンが掛けられた立派な長方形の箱を持っていた。
手紙の差出人を見ると、1通目はなんとアイヴァンだった。
これで白い紙を見ながら憂鬱とした時間を消費する必要がなくなると思うと安堵した。
共に食事をしよう、というシンプルな内容だったが、アイヴァンは面子を気にしてザイラを老婆になるまで待たせるような野暮では無かったらしい。
もう1通に差出人は書いて無かった。
だが、緑がかった紺色に、金細工のような緻密な模様が描かれた封筒には同じく金の封蝋がしてある。
一瞬戸惑いながらも、封を開けた。
〝感謝と新しい思い出に〝
ただそれだけ記してある手紙と、同じく緑がかった紺色のサテンのリボンを解くと、そこにはエリス オグマンのドレスがあった。
真珠やサファイヤが施された煌びやかな白いドレスは、どことなく異国風で誰から贈られたかは分からないが、どこの国の人から贈られたかは分かる品物だった。
ザイラは部屋に突如出現した花畑と、絢爛豪華なドレスに圧倒され目を見開いて口を開ける事しか出来ない。
アンナはなんだかとても機嫌が良い。
恐らく彼女は勘違いしている。
最近の彼女の勘は、よく外れる。
「まさかお召しになられたものまで寄付してくるなんて…」
優秀な侍女も呆れ顔を隠せていなかった。
特殊な熱に魘されながらも、フォーサイス子爵の面々を思い浮かべてマタイ総合病院に連れて行かれたらどうしよう、マタイ総合病院だけはどうか…と祈っていたがいつの間にか馬車は屋敷の前に着いていた。
『レディ』
聞き違いだろうと思い込みたかったが、その後の挨拶を見るに確実にバレている。どこの誰かも含めて。
考えだすとまた余計な熱に浮かされてどこか遠くに逃げ出したくなるので考えないようにした。
屋敷に入るなり、アンナは大変驚いていたが、勘違いしてくれたらそれはそれで都合も良い。
代わりに履いていた紳士用の細めのパンツを見て、ジャケットやスカートも寄付してしまったからと言っても、なぜこれを身につけようと思ったのですかとやんわり叱責された。
ザイラの目は泳いだが、なんとか誤魔化せたので良しとしたい。ただ捻挫だけは誤魔化しが効かなかった。
あれからアイヴァンとは顔を合わせていない。
もしかしたら、と万が一を仄かに期待してちらちらと便りを期待してみたものの、手紙は一つも来なかった。
あの2人があの後どうなったのか、詮索する気も無かった。
あの2人はあの2人だけが築いた世界や過ごした時間がある。
ザイラにはそういったものがないので、何をどうするべきか、アイヴァンが何を考えているのか予想も出来ない。
これからどうするのかは分からないが、ミア嬢に別れる気はさらさら無いのはよく分かった。
永遠の愛を誓いたかったであろう2人からすれば、現実は酷い事この上ないだろう。
妾にするのか、愛人のままにするのか、妻にそれは決められない。
アイヴァンにも幸せになって欲しいと思っていた。アレシアと同じように。
だが皮肉にもザイラと結婚させられて、その幸せは茨の道になってしまったが。
最近ではほんの少し、アイヴァンとの距離が縮まったのかと思った。
だが、それもただの希望的観測、この場合だと勘違いともとれる。
結婚したからには、最低限の信頼関係は築いておきたいとザイラは考えていた。
結婚を望んで無かったのはザイラも同じなのだ。
その点は2人の共通点といえる。
であれば、友人位にはなれたら良い、と僅かな希望を持っている。
愛して欲しい、と烏滸がましく願った事は無い。ただ、もし愛してくれたら、どんな風に愛してくれるのか、を考えてしまった時があった。
考えなくてもそんなの簡単なのに。
ヒロインの相手なのだから。
唯1人を思い続けるだろう。
小説でもそうだったように、その相手がザイラでは無い、ただそれだけだ。
それはそうと、屋敷の主人にも面子はある。こちらが謙る気は全く無いが…
向こうからの連絡を待ってたら、それこそザイラは老婆になってしまう。
老婆になる前に、なんとか自然な理由を付けてアイヴァンに手紙を送ろうと思ったが、理由など探してる時点でペンは進まず目の前の便箋は真っ白なままだ。
こんな風に悶々と白い紙を見つめ続けるなら、もうこのままお飾りの立場の無い妻でも良いような気がしてきた。
それか、離婚、だろうか。
しかし元を辿ればなぜ政略結婚したのかといつもそこに戻ってしまう。
アイヴァンも、恐らく…出来るのであれば円満な離婚を望んでいるはずだ。
アイヴァンとフェルゲイン侯爵の関係は知らないが、今の現実から予想するに侯爵に逆らえるタイプの息子では無い。
婚約指輪の件や屋敷に寄り付かないのはせめてもの結婚への抗議、反抗だろう。
離婚しても構わないが、なぜ結婚したかは知りたい。でなければいつまでも喉に引っかかっているようで、気持ちが悪かった。
ローリー伯爵に聞いても仕方ないとして…コナー叔父さん?フィニアス?
ああ、そうか。いるじゃ無いか。同じような気持ち悪さを感じてる人が
トントンと部屋の扉を叩く音がする。
どうぞ、と言うと、アンナは両手いっぱいの花束を持って部屋に入ってきた。
「奥様、お届け物とお手紙です」
花瓶をお持ちしますね、とアンナは言ったが、両手いっぱいに花束を持った別の使用人達が次から次へと部屋へ入ってくる。
部屋一面が美しい色とりどりの花畑のように彩られ、爽やかな香りが辺り一面に立ちこめたが、ここまで大量だと呆気に取られた。
大体の花束を花瓶へ移したアンナが2通の手紙を載せたサルヴァを差し出す。
なんだかとても嬉しそうだ。
これだけの花を見れば、笑みも溢れるのが女心だろうか。
そして正反対にむっすりとした顔のベロニカは、自身と同じ背丈程の、サテンのリボンが掛けられた立派な長方形の箱を持っていた。
手紙の差出人を見ると、1通目はなんとアイヴァンだった。
これで白い紙を見ながら憂鬱とした時間を消費する必要がなくなると思うと安堵した。
共に食事をしよう、というシンプルな内容だったが、アイヴァンは面子を気にしてザイラを老婆になるまで待たせるような野暮では無かったらしい。
もう1通に差出人は書いて無かった。
だが、緑がかった紺色に、金細工のような緻密な模様が描かれた封筒には同じく金の封蝋がしてある。
一瞬戸惑いながらも、封を開けた。
〝感謝と新しい思い出に〝
ただそれだけ記してある手紙と、同じく緑がかった紺色のサテンのリボンを解くと、そこにはエリス オグマンのドレスがあった。
真珠やサファイヤが施された煌びやかな白いドレスは、どことなく異国風で誰から贈られたかは分からないが、どこの国の人から贈られたかは分かる品物だった。
ザイラは部屋に突如出現した花畑と、絢爛豪華なドレスに圧倒され目を見開いて口を開ける事しか出来ない。
アンナはなんだかとても機嫌が良い。
恐らく彼女は勘違いしている。
最近の彼女の勘は、よく外れる。
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