転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
1 / 65

プロローグ

しおりを挟む
 今から100年以上も前の話、世界は滅びの一途を辿った時があった。
 
 人族は魔界を統べる王、俗に魔王と呼ぶ者の支配を拒絶し、戦い、そして世界を自らの手で守った。
 だが、彼らの戦いはそれで終わりではなかったのだ。

 今からそう遠くない過去、歴史上では神界戦争と呼ばれる人族と神族による全面戦争があった。
 突如として神々の世界より現れた無数の使者たち。最初は信じられない出来事で誰もが夢を見ているのだと錯覚していた。

 だがそれは夢でもなんでもない真の地獄への始まりに過ぎなかったのだ。
 
 神族は容赦がなかった。次々と人々の住む村や街を火の海と化し、今まで人族が育んできた国も文化もその生命とともに全てを焼き払った。

『我が崇高なる神の審判に従い』

 彼らが我々に伝えた唯一の言葉であり、最初で最後の言葉でもあった。

 もちろん、人族も決死の抵抗を図った。
 だがその攻撃はことごとく跳ね返され、歴戦の勇者と呼ばれていたものでさえ次々と大地へと送り返されていった。

 次元が違いすぎたのだ。人族は改めて神の存在を再認識し、世界が滅びゆくのをただ見つめることしかできなかった。

 だがそんな時、たった一人だけ人族でありながら神族に対抗する男がいた。

 名をゼナリオ。

 かつての神託によって選ばれた剣聖の一人であり、神殺しの異名を持つ天才剣士。
 剣を抜けばどんな相手も大地へと送り返す最強無敗の存在、それが彼だった。

 ゼナリオは剣聖の中でも突出した能力を持っていた。
 周りの剣聖たちのように聖剣を振り回し、神より授かった能力に頼ることは絶対にしない男だった。
 
 己の力量を誰よりも信じ、毎日の鍛錬を怠らず、自らの剣士道を最後まで信じぬいた彼の力はもはや聖剣に頼らなくても人族を遥かに超越するほどの強大な力を手に入れていた。
 剣を振るうことを愛し、剣に人生を捧げたといっても過言ではなかった。

 そして、彼こそ世界を救ったとされる伝説の英雄。
 
 そう、彼だけは人族の中でもまさしく”異端”とされる存在だったのだ。

 ♦


「……ふっ、さすがは神様ってところだな。今まで戦った奴らとは格が違うわ」

 傷だらけの身体。絶え間なく続く息切れ。
 幾多もの神族との闘いを乗り越えてきた俺は自分の持てる力の限界寸前まで出し切っていた。

「我にここまで盾突くとは。人間にも貴様のようなものがいるのだな」

 目の前には神々の長にして世界の創生者である神族が二刀の神剣を持ち、こちらを睨んでいた。
 図体は俺の何百倍もあり、身に纏う強烈な霊気から神の偉大さってやつが身に染みて伝わってくる。
 
「まぁいい。貴様もこれまでだからな。我に神剣を使わせるまでに追い込んだ貴様の力量だけは評価しよう」
「そりゃありがたい話だ。まさか神様に褒められる日が来るなんてな」

 限界ギリギリの戦い。気を抜けばそのままぶっ倒れてもおかしくはない状況だった。
 ほかの剣聖たちは一瞬にして自分の目の前から塵となって消え、気が付けば俺だけがその地に立っていた。

 世界は荒廃し、緑でいっぱいだった平原は今やその面影すらなくしていた。
 魔王を倒したほんの1年前まで世界滅亡が神話のように思えたのが今や現実になろうとしている。

「ホント、世の中何が起こるか分からないとはよく言ったもんだよな」
 
 はぁ……とため息を一つ。そして目を閉じ、精神統一に入る。
 
 もしかしたらこのまま世界を滅び去る現実は変わらないかもしれない。
 
 でも俺は最後まで諦めたくはなかった。大切な人、お世話になった人、そして俺をここまで育ててくれた恩人の仇を撃つためにも簡単に諦めることはできなかった。

 だからこそ――
 
(最後の最後まで足掻いてやる。たとえこの身に変えても!)

 神殺し。この異名は決してお飾りではない。

 確かに今まで神を喰らった経験なんて一度もない。周りが俺の力をそう呼び、恐れていただけなんだ。

 当時の大司祭はそれさえも可能とする素養があるということを盛んに言っていたけど真相は分からない。
 
 もちろん試したこともないさ。だがもう世界がダメになるかならないかの瀬戸際で迷っている暇なんてない。

 だから俺は喰らう。こいつを……神を。

 そして世界を救うんだ。人類がまたこの素晴らしき世界で平穏に暮らせるように……

「……諦めたか? まぁ、それが賢明な判断だ」

 神はもう余裕をみせる表情で俺をあざ笑う。

 所詮人間は神には勝てない。そう言っているような感じがして気に食わない。
 余計に身体に力が入る。

「ではそろそろ終わりにしよう。さらばだ、人間」

 神は二刀の神剣を握り、そっと振り下ろした。

 その瞬間、俺は目を開くと、自らの聖剣に声をかける。
 
「頼む……一度でいい。だから力を貸してくれ。神喰らいの滅剣ネールガルよ」

 黒い影が一瞬にして俺を包み込み、神もまたその影に飲み込まれていく。
 
「……っ!? なんだ、どうなっている!」

 今まで俺が一度も聖剣を使ってこなかった理由、それはこの神さえも封じる強大な力に危機感を覚えたからだ。
 俺は初めてこれを手にした瞬間からそれに気が付いた。溢れ出る常軌を逸した魔力が俺に危機感を持たせたのだ。

 そして真の力を発揮する代償として自らの生命を差し出す必要があるということも知った。
 だがそれは神殺しをも可能とする力量を持ったものしか発動させることはできない。

 正直、この聖剣の力を使う日が生涯で来ることはないだろうと思っていた。
 でも運命とはよくできたものでそう簡単にはいかない。

 俺と神はネールガルの闇に少しずつ飲み込まれていく。

「バカな! 我が……創造神である我がこんな力に負けるというのか!」

 神をも喰らう力。そんな力を本当に持っていたのだという現実を知ると自分が少し怖くなってきた。
 だがもうそんなことはどうでもいい。
 
 俺も奴と共に飲み込まれていくのだから……

「これで世界は救われる。これでいいんだ」

 こう呟き、俺はそっと目を閉じる。
 だがそれと同時にこの世への未練に近しいものが脳裏を駆け巡った。

 そして完全に闇へと飲み込まれる直前に俺はふとこう思ったのだ。

 もし、もう一度生まれ変われるのなら今度は剣だけに縛られない普通の人生を送りたい、と。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...