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プロローグ
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今から100年以上も前の話、世界は滅びの一途を辿った時があった。
人族は魔界を統べる王、俗に魔王と呼ぶ者の支配を拒絶し、戦い、そして世界を自らの手で守った。
だが、彼らの戦いはそれで終わりではなかったのだ。
今からそう遠くない過去、歴史上では神界戦争と呼ばれる人族と神族による全面戦争があった。
突如として神々の世界より現れた無数の使者たち。最初は信じられない出来事で誰もが夢を見ているのだと錯覚していた。
だがそれは夢でもなんでもない真の地獄への始まりに過ぎなかったのだ。
神族は容赦がなかった。次々と人々の住む村や街を火の海と化し、今まで人族が育んできた国も文化もその生命とともに全てを焼き払った。
『我が崇高なる神の審判に従い』
彼らが我々に伝えた唯一の言葉であり、最初で最後の言葉でもあった。
もちろん、人族も決死の抵抗を図った。
だがその攻撃はことごとく跳ね返され、歴戦の勇者と呼ばれていたものでさえ次々と大地へと送り返されていった。
次元が違いすぎたのだ。人族は改めて神の存在を再認識し、世界が滅びゆくのをただ見つめることしかできなかった。
だがそんな時、たった一人だけ人族でありながら神族に対抗する男がいた。
名をゼナリオ。
かつての神託によって選ばれた剣聖の一人であり、神殺しの異名を持つ天才剣士。
剣を抜けばどんな相手も大地へと送り返す最強無敗の存在、それが彼だった。
ゼナリオは剣聖の中でも突出した能力を持っていた。
周りの剣聖たちのように聖剣を振り回し、神より授かった能力に頼ることは絶対にしない男だった。
己の力量を誰よりも信じ、毎日の鍛錬を怠らず、自らの剣士道を最後まで信じぬいた彼の力はもはや聖剣に頼らなくても人族を遥かに超越するほどの強大な力を手に入れていた。
剣を振るうことを愛し、剣に人生を捧げたといっても過言ではなかった。
そして、彼こそ世界を救ったとされる伝説の英雄。
そう、彼だけは人族の中でもまさしく”異端”とされる存在だったのだ。
♦
「……ふっ、さすがは神様ってところだな。今まで戦った奴らとは格が違うわ」
傷だらけの身体。絶え間なく続く息切れ。
幾多もの神族との闘いを乗り越えてきた俺は自分の持てる力の限界寸前まで出し切っていた。
「我にここまで盾突くとは。人間にも貴様のようなものがいるのだな」
目の前には神々の長にして世界の創生者である神族が二刀の神剣を持ち、こちらを睨んでいた。
図体は俺の何百倍もあり、身に纏う強烈な霊気から神の偉大さってやつが身に染みて伝わってくる。
「まぁいい。貴様もこれまでだからな。我に神剣を使わせるまでに追い込んだ貴様の力量だけは評価しよう」
「そりゃありがたい話だ。まさか神様に褒められる日が来るなんてな」
限界ギリギリの戦い。気を抜けばそのままぶっ倒れてもおかしくはない状況だった。
ほかの剣聖たちは一瞬にして自分の目の前から塵となって消え、気が付けば俺だけがその地に立っていた。
世界は荒廃し、緑でいっぱいだった平原は今やその面影すらなくしていた。
魔王を倒したほんの1年前まで世界滅亡が神話のように思えたのが今や現実になろうとしている。
「ホント、世の中何が起こるか分からないとはよく言ったもんだよな」
はぁ……とため息を一つ。そして目を閉じ、精神統一に入る。
もしかしたらこのまま世界を滅び去る現実は変わらないかもしれない。
でも俺は最後まで諦めたくはなかった。大切な人、お世話になった人、そして俺をここまで育ててくれた恩人の仇を撃つためにも簡単に諦めることはできなかった。
だからこそ――
(最後の最後まで足掻いてやる。たとえこの身に変えても!)
神殺し。この異名は決してお飾りではない。
確かに今まで神を喰らった経験なんて一度もない。周りが俺の力をそう呼び、恐れていただけなんだ。
当時の大司祭はそれさえも可能とする素養があるということを盛んに言っていたけど真相は分からない。
もちろん試したこともないさ。だがもう世界がダメになるかならないかの瀬戸際で迷っている暇なんてない。
だから俺は喰らう。こいつを……神を。
そして世界を救うんだ。人類がまたこの素晴らしき世界で平穏に暮らせるように……
「……諦めたか? まぁ、それが賢明な判断だ」
神はもう余裕をみせる表情で俺をあざ笑う。
所詮人間は神には勝てない。そう言っているような感じがして気に食わない。
余計に身体に力が入る。
「ではそろそろ終わりにしよう。さらばだ、人間」
神は二刀の神剣を握り、そっと振り下ろした。
その瞬間、俺は目を開くと、自らの聖剣に声をかける。
「頼む……一度でいい。だから力を貸してくれ。神喰らいの滅剣ネールガルよ」
黒い影が一瞬にして俺を包み込み、神もまたその影に飲み込まれていく。
「……っ!? なんだ、どうなっている!」
今まで俺が一度も聖剣を使ってこなかった理由、それはこの神さえも封じる強大な力に危機感を覚えたからだ。
俺は初めてこれを手にした瞬間からそれに気が付いた。溢れ出る常軌を逸した魔力が俺に危機感を持たせたのだ。
そして真の力を発揮する代償として自らの生命を差し出す必要があるということも知った。
だがそれは神殺しをも可能とする力量を持ったものしか発動させることはできない。
正直、この聖剣の力を使う日が生涯で来ることはないだろうと思っていた。
でも運命とはよくできたものでそう簡単にはいかない。
俺と神はネールガルの闇に少しずつ飲み込まれていく。
「バカな! 我が……創造神である我がこんな力に負けるというのか!」
神をも喰らう力。そんな力を本当に持っていたのだという現実を知ると自分が少し怖くなってきた。
だがもうそんなことはどうでもいい。
俺も奴と共に飲み込まれていくのだから……
「これで世界は救われる。これでいいんだ」
こう呟き、俺はそっと目を閉じる。
だがそれと同時にこの世への未練に近しいものが脳裏を駆け巡った。
そして完全に闇へと飲み込まれる直前に俺はふとこう思ったのだ。
もし、もう一度生まれ変われるのなら今度は剣だけに縛られない普通の人生を送りたい、と。
人族は魔界を統べる王、俗に魔王と呼ぶ者の支配を拒絶し、戦い、そして世界を自らの手で守った。
だが、彼らの戦いはそれで終わりではなかったのだ。
今からそう遠くない過去、歴史上では神界戦争と呼ばれる人族と神族による全面戦争があった。
突如として神々の世界より現れた無数の使者たち。最初は信じられない出来事で誰もが夢を見ているのだと錯覚していた。
だがそれは夢でもなんでもない真の地獄への始まりに過ぎなかったのだ。
神族は容赦がなかった。次々と人々の住む村や街を火の海と化し、今まで人族が育んできた国も文化もその生命とともに全てを焼き払った。
『我が崇高なる神の審判に従い』
彼らが我々に伝えた唯一の言葉であり、最初で最後の言葉でもあった。
もちろん、人族も決死の抵抗を図った。
だがその攻撃はことごとく跳ね返され、歴戦の勇者と呼ばれていたものでさえ次々と大地へと送り返されていった。
次元が違いすぎたのだ。人族は改めて神の存在を再認識し、世界が滅びゆくのをただ見つめることしかできなかった。
だがそんな時、たった一人だけ人族でありながら神族に対抗する男がいた。
名をゼナリオ。
かつての神託によって選ばれた剣聖の一人であり、神殺しの異名を持つ天才剣士。
剣を抜けばどんな相手も大地へと送り返す最強無敗の存在、それが彼だった。
ゼナリオは剣聖の中でも突出した能力を持っていた。
周りの剣聖たちのように聖剣を振り回し、神より授かった能力に頼ることは絶対にしない男だった。
己の力量を誰よりも信じ、毎日の鍛錬を怠らず、自らの剣士道を最後まで信じぬいた彼の力はもはや聖剣に頼らなくても人族を遥かに超越するほどの強大な力を手に入れていた。
剣を振るうことを愛し、剣に人生を捧げたといっても過言ではなかった。
そして、彼こそ世界を救ったとされる伝説の英雄。
そう、彼だけは人族の中でもまさしく”異端”とされる存在だったのだ。
♦
「……ふっ、さすがは神様ってところだな。今まで戦った奴らとは格が違うわ」
傷だらけの身体。絶え間なく続く息切れ。
幾多もの神族との闘いを乗り越えてきた俺は自分の持てる力の限界寸前まで出し切っていた。
「我にここまで盾突くとは。人間にも貴様のようなものがいるのだな」
目の前には神々の長にして世界の創生者である神族が二刀の神剣を持ち、こちらを睨んでいた。
図体は俺の何百倍もあり、身に纏う強烈な霊気から神の偉大さってやつが身に染みて伝わってくる。
「まぁいい。貴様もこれまでだからな。我に神剣を使わせるまでに追い込んだ貴様の力量だけは評価しよう」
「そりゃありがたい話だ。まさか神様に褒められる日が来るなんてな」
限界ギリギリの戦い。気を抜けばそのままぶっ倒れてもおかしくはない状況だった。
ほかの剣聖たちは一瞬にして自分の目の前から塵となって消え、気が付けば俺だけがその地に立っていた。
世界は荒廃し、緑でいっぱいだった平原は今やその面影すらなくしていた。
魔王を倒したほんの1年前まで世界滅亡が神話のように思えたのが今や現実になろうとしている。
「ホント、世の中何が起こるか分からないとはよく言ったもんだよな」
はぁ……とため息を一つ。そして目を閉じ、精神統一に入る。
もしかしたらこのまま世界を滅び去る現実は変わらないかもしれない。
でも俺は最後まで諦めたくはなかった。大切な人、お世話になった人、そして俺をここまで育ててくれた恩人の仇を撃つためにも簡単に諦めることはできなかった。
だからこそ――
(最後の最後まで足掻いてやる。たとえこの身に変えても!)
神殺し。この異名は決してお飾りではない。
確かに今まで神を喰らった経験なんて一度もない。周りが俺の力をそう呼び、恐れていただけなんだ。
当時の大司祭はそれさえも可能とする素養があるということを盛んに言っていたけど真相は分からない。
もちろん試したこともないさ。だがもう世界がダメになるかならないかの瀬戸際で迷っている暇なんてない。
だから俺は喰らう。こいつを……神を。
そして世界を救うんだ。人類がまたこの素晴らしき世界で平穏に暮らせるように……
「……諦めたか? まぁ、それが賢明な判断だ」
神はもう余裕をみせる表情で俺をあざ笑う。
所詮人間は神には勝てない。そう言っているような感じがして気に食わない。
余計に身体に力が入る。
「ではそろそろ終わりにしよう。さらばだ、人間」
神は二刀の神剣を握り、そっと振り下ろした。
その瞬間、俺は目を開くと、自らの聖剣に声をかける。
「頼む……一度でいい。だから力を貸してくれ。神喰らいの滅剣ネールガルよ」
黒い影が一瞬にして俺を包み込み、神もまたその影に飲み込まれていく。
「……っ!? なんだ、どうなっている!」
今まで俺が一度も聖剣を使ってこなかった理由、それはこの神さえも封じる強大な力に危機感を覚えたからだ。
俺は初めてこれを手にした瞬間からそれに気が付いた。溢れ出る常軌を逸した魔力が俺に危機感を持たせたのだ。
そして真の力を発揮する代償として自らの生命を差し出す必要があるということも知った。
だがそれは神殺しをも可能とする力量を持ったものしか発動させることはできない。
正直、この聖剣の力を使う日が生涯で来ることはないだろうと思っていた。
でも運命とはよくできたものでそう簡単にはいかない。
俺と神はネールガルの闇に少しずつ飲み込まれていく。
「バカな! 我が……創造神である我がこんな力に負けるというのか!」
神をも喰らう力。そんな力を本当に持っていたのだという現実を知ると自分が少し怖くなってきた。
だがもうそんなことはどうでもいい。
俺も奴と共に飲み込まれていくのだから……
「これで世界は救われる。これでいいんだ」
こう呟き、俺はそっと目を閉じる。
だがそれと同時にこの世への未練に近しいものが脳裏を駆け巡った。
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もし、もう一度生まれ変われるのなら今度は剣だけに縛られない普通の人生を送りたい、と。
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