2 / 65
01.最強の復活
しおりを挟む――頭が痛い
ただ感じたのはそれだけだった。
俺は聖剣ネールガルが持つ神喰らいの力を解放し、創生神パルテノを喰らった。
最後の切り札、まさにそう呼べるべきものだ。
最後に見たのは神と呼ばれる異端者の末路と激しい戦争によって荒廃した世界だった。
だが戦争を仕掛けてきた元凶が消えたことで世界は平和を取り戻した……はずだ。
俺はそう信じたい。
自らの死だけでなく、共に散っていった仲間の無念のためにも。
俺はただ、そう願うのみであった。
♦
小鳥の囀りと心地よい風の音が俺を目覚めさせる。
気が付くと俺は大きな樹木の下で仰向けになって寝ていた。
「……ここは」
目覚めて不意に出た言葉がこれだった。
もう見れるはずはないと思っていた緑で覆われた自然溢れる景観。そして青く澄んだ空と白い雲、眩しすぎるほどの太陽光がその景色を映えさせる。
「あの世って下界とよく似ているんだな」
見たところ、俺は地獄ではなく天国へと来たらしい。
だってこんな絶景が見られるなんて地獄であるはずがない。
ここがもし地獄であるのならそれこそ驚きだ。
とはいえ、死んだら絶対に自分は地獄行きだと思っていたのもあってか少しホッとする気持ちもあった。
お世辞にもまっとうな人生を送ってきたとは言いづらい。数多もの魔族を地に返し、紛争の際には人であろうともこの手で切った時もあった。
剣聖という肩書きを持ちながらもただ軍の命令に従い、任務をこなしてきただけの人生がまともなはずがないのだ。
「せめてあの世ではまともな生活を……」
そう思ったときだった。
「あら? あなたこんな所で何をしているの?」
背後から聞こえる声。
澄んだ高い声から女性の声だということをすぐに把握する。
「いや、俺は……」
そう呟き、すぐに背後を振り向く。
そしてその声の主を目視した瞬間だった。
(き、綺麗な人だ……)
大樹の陰に佇むは一人の美女。日の光が当たり、その姿は鮮明に俺の眼球に映し出される。
光に反射し、より一層際立ちを見せる白銀の長髪と淡い紅色の瞳。
まさにキング・オブ・美女って感じの風貌だった。
(て、天界人……?)
その可憐さに目を奪われ、咄嗟に出た思いついた言葉がこれだった。
それにしても天界人にしては天使の羽もわっかもない。
一体この人は……
不思議そうに見つめる俺が気になったのか美女は首を傾げながら、
「あ、あの……私の顔に何か付いてますか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
なんだろう。ていうか俺、完全に怪しまれてないか?
というかなに動揺しているんだよおれ!
思わぬ美女に動揺を隠せなかった俺はふと彼女にこう問いただす。
「あの、あなたは天界人か何かで?」
「へ? テンカイジン? それってどこの国の種族で?」
「種族というより天界からの使者というか……」
「天界? 私は歴とした人間ですが……」
人間? どういうことだ?
(ここは死者の世界じゃないのか?)
でも確かに言われてみればおかしい感じはしたんだ。
感触も嗅覚も現実そのもの。生きていた頃と全く相違がなかった。
心臓の音もしっかりと聞こえる。
胸に手を当てるとトクントクンと動いていることが分かった。
「まさか俺、生きてる?」
でもそれ以外に考えられない。でもそんなことがあり得るのか?
確かに生きていた頃に”転生術”という言葉は耳にしたことがある。
だがそれはいわゆる迷信に近しいもので実際に扱える者なんて聞いたことがなかった。
おとぎ話の中でのワンフレーズに過ぎなかったのだ。
でもこれだけじゃまだ確信には辿りつけない。
なんかこう……もっと刺激が欲しい。
「あ、あのぉ……」
彼女がそっと俺の顔を覗きこもうとする。
(あ、これなら!)
瞬間。俺の脳内で名案が生まれ、即座に顔を上げる美女に一言こう放つ。
「お姉さん! 悪いんだけど俺の顔を抓ってくれないか?」
「え、えぇぇぇ!? ど、どうしたんですかいきなり」
「いいから早く! 頼む、この通りだ」
真実を知りたい俺は彼女の気持ちまでは把握しきれていなかった。
もちろん、美女は困った顔をしながらその頼みを受け入れるのを躊躇する。
だが俺の強い押しに負け、抓ることを渋々了承してくれた。
「じゃ、じゃあ軽く……」
「ああ、頼む」
美女は俺の頬に手を当てると優しい肌触りでそっと抓る。
――ムニュ
「ど、どうでしょう?」
「いや、もっと強く。こう、ぐいってやる感じで」
「で、でも……」
「俺のことなら構わない。さ、どんとやってくれ」
「わ、分かりました……」
美女はさらに困惑した表情を見せながら再度頬に手を当てる。
そして先ほどとは違い、ぎゅっと皮膚を掴むとご所望通りの強い抓りが俺の痛感を刺激する。
「い、いたたたたたっ!」
「す、すみません! 強すぎましたか?」
慌てて頬から手を離す彼女を差し置き、俺は抓られて赤くなった頬に手を当てる。
「やはり、俺は……」
確信した。どうやら俺はおとぎ話を現実にしてしまったらしい。
俺がそうしたのかってのは不明だけど転生したということは紛れもない事実にほかならなかった。
「嘘だろ……」
奇跡のような出来事に直面し、歓喜に満ちるというよりは驚きの方が強かった。
「あの、大丈夫ですか?」
「だがまさかこんなことになるとはな……どうなっているんだ?」
「あ、あのぉ~? もしもし?」
考え込んでしまい、彼女の声は俺の耳元には届かない。
普通に考えれば不可解なことだ。
内心、信じ切れていない自分もいた。
でもそれしか考えられない。
ここが夢の世界だとしたら凄まじいクオリティだ。
目が覚めればこんな美人なお姉さんと遭遇することができて、抓られた時の感触も今もなお身に残っている。
ゆっくりと空を流れる白い雲、静かに吹くそよ風、樹木の匂いや小鳥たちの囀りも。
全てが現実味を帯びていた。
だからこんなのが夢であるはずがないんだ。
俺は内心戸惑いつつも、生きているという実感を肌で感じ、嬉しさが募ってくる。
そう、俺は生き返ったんだ。
前世で培ってきた記憶と共に。
0
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる