転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
31 / 65

29.呼び出し

しおりを挟む
 国家騎士となって初日の活動が終わった。

 俺は午後の鍛錬を終え、身支度を済ませると、とある場所へと足を運んでいた。

「ここが指令室か……一体何を話されるんだか」
 
 数時間前、俺はある人から呼び出しを受けた。
 名をリベルという。

 鍛錬時に他の兵に聞いた話によると、彼女は騎士団幹部の一人だそうで、団の規律や規則といった管理。
 そして緊急時の戦術支援を一挙に担う、いわば団の縁の下の力持ち的な存在とのこと。

 彼女がいるからこそ、由緒正しき騎士団としての在り方が守られているわけで、兵たちからの人望も厚かった。

 ただネックなのはとにかく厳しいこと。ちょっとした規則違反でも容赦がないらしいので一部の兵からは恐れられている存在でもあるらしい。

(ま、それは何となく分かる気がするな)

 俺も初めて会ったときは妙な威圧感を感じたし。
 それに噂によると重大な規則違反を犯した者は、リベルからの監禁説教が待っているらしく、歴代で一週間以上も監禁されて出てこれなかった人もいるらしい。

(こ、こえぇぇぇぇぇーーーーーー!)
 
 で、そんな決まりごとに厳しい御方に呼び出しをくらったとのことで、俺は少々縮こまっていた。
 
「何を言われても平常心だ……平常心を保て」

 静かに深呼吸をして、コンコンとドアをノックする。
 すると、

「どうぞ」

 中から女の声が聞こえてくる。
 おそらくリベル本人だ。

 ドア越しで少し籠ってはいたが、聞き覚えのある声だった。

「し、失礼します!」

 静かに扉を開け、中へ。
 すると視界に入ったのは木製のお洒落な椅子にテーブル。内装は至ってシンプルでごちゃごちゃとせず、棚にある書物や書類はきちんと整理されていた。
 
(確かに、部屋からして既にビシッとしているなぁ……)

 自室は住む人の性格が全面的に表れるというが、この人の限っては部屋からしてそれらを体現しているような感じだった。

「こんな時間に申し訳ありません。ゼナリオさん」
「い、いいえ! 全然大丈夫です!」

 洒落た椅子に座り、紅茶の入ったティーカップを片手に持つ橙色の髪を持つ美人が一人。
 書類を片付けている最中だったのか、テーブルの上には様々な書類が山積みになっていた。

「少々見苦しくて申し訳ございません。すぐに片付けますので……」
「俺は別に気にしないですよ」
「いいえ。これでは人と話す環境としては不適切です。すぐに終わらせます」

 いや……でもそんな大量の書類すぐには……

 と、思っていた時だった。

 突然、目にも止まらぬ速さで書類が片付いていくのを確認。
 そして数秒経った後にはもう書類の存在はなく、綺麗さっぱりになくなっていた。

(う、嘘だろ……なんだよ今の)

 あまりにも作業スピードが速すぎて視認できなかった。
 というか、もうこれ確実に人間を辞めているレベル。

「申し訳ございませんでした。もう片付けましたので、どうぞこちらへ」

 澄ました顔で座るよう誘導するリベル。
 俺はただただポカーンと見つめるだけで、声すらも出せなかった。

「どうかなさいました?」
「……えっ? あーいや……何でもないです」

 何事もなかったように真顔で進めるリベル。
 とりあえず、今は何も考えずに話を聞くことに専念する。

「まずは簡単に自己紹介からさせていただきますね。私はリベル、リベル・フィールドと申します。この団での役職は主に兵たちの規律管理と戦術特務部隊を率いらせてもらっています。以後、お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」

 俺もその後、名前以外に簡単な自己紹介を済ませ、いよいよ話題は本題へと移っていく。

「それで、今回貴方をお呼びしたのはある重要な決定事項を団長より仰せつかったからです」
「決定事項?」
「はい。それはゼナリオさん、貴方の今後の活動方針についてです」
 
(活動方針? どういうことだそれは)

 だがその疑問はリベルの次の言葉で全て解決する。

「ゼナリオさん、貴方は明日から私に変わって戦術特務部隊の部隊長として活動をしていただきます」
「……は?」

 思わず声が驚きの声が漏れてしまう。
 聞き間違いだろうか? 確かにこの人は今、かなり重要なことを言っていた気がする。
 
「あ、あの……それってちょっとした軽い冗談ジョークとかじゃ」
「ないです。全て団長がお決めになられたことです。そして私はその補佐、副部隊長としてゼナリオさんを支えろとの命令を受けました」

 ……ま、マジか。
 
 入ってまだ一日目にして自分の部隊を持つなんて誰が想像したであろうか?
 俺は疑心暗鬼のまま、リベルに問う。

「あの、リベルさん。なぜ団長がそのようなご決断をされたのかはご存じなのですか?」

 リベルは答える。

「それは私にも分かりません。今朝団長室に呼ばれてこう命令をされただけです。貴方の持つ部隊の隊長としてゼナリオさんを迎えてほしいと」
「そ、そうですか……」

(リーリアは一体何を考えているんだ? いきなり部隊長って……)

 でも、あの団長が何も考え無しにこんなことをするとは到底思えない。
 何か意味があるはずだ。

「どうですかゼナリオさん。一応、貴方の意思をお聞かせ願いたいのですが」
「……分かりました。まだまだ未熟者ではありますが、よろしくお願いします」

 同意。
 そしてこの瞬間、俺は一部隊の部隊長として役割を手に入れ、名実共に幹部衆の一員となったわけ。

 だが――

「では、早速明日から部隊を知ってもらうための指導を行いますので早朝4時に指令室ここへ来てください」
「そ、早朝4時!?」

 いくらなんでも早すぎないか!? 側近騎士の仕事でも朝7時頃からなのに……
 
 確かに生前は夜間訓練などで鍛え上げられていたため、どんなに朝が早くとも決まった時間に起床することはできた。

 だがこの身体で同じことをやれと言われても不安が残る。いくら精神は生前の時のままとは言っても身体は子供の時のまま。
 
 それに最近から感じ始めていたことなのだが、朝起きるのが物凄く辛い。

 なんかこう……起きようとしても身体が思うように動かないって感じで。

(少年兵として訓練していた時も朝だけは異常なくらい弱かったからなぁ……オレ)

 と、不安を募らせている中、リベルは一切表情を変えずに、

「あ、ちなみに遅刻は厳禁ですのでその辺ご理解をお願いしますね。では私はまだ雑務が残っていますのでこれにて……」

 それだけ伝えると、リベルは部屋から出ていく。

(ああ……前途多難とはこのことか……)
 
 持つかな……オレの身体。

 仕事とか何より、自分の身体の心配をするゼナリオだった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...