転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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31.手作りの……?

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「うぅ……」

 昼休憩。
 兵たちが揃って食堂へと向かう中、俺は談話室でただ一人、机に突っ伏していた。

「そんな死にそうな顔をして一体何があったのよ」
「アリシア……陛下?」
「昨日も言おうとしたけど、陛下をつけるのはやめて。普通にアリシアと呼びなさい」
「あっ、そう……でしたね。す、すみません……」

 でも今の俺はそれどころではなかった。
 早朝4時起きからの怒涛の書類攻めによって俺の精力は心身共に崩壊寸前。

 かなり危険域まで達していたのだ。

(頭はくらくらするし、眩暈もする。身体も思うように動かん……)

 寝不足と寝起き直後の度を越えた過労、そしてそのまま流れるように側近騎士の仕事へ。
 なんとか気力で切り抜けたものの、椅子に座った途端動けなくなってしまっていた。

「それよりアリシアはなぜここにいるのです? 今日は国務があるのでは?」
「国務なら秘書に全部任せたからいいの。それよりあなたが私の部屋に来た時の顔色があまりにも死人級だったからしんぱ……側近騎士の仕事に支障をきたす恐れを感じて様子を見にきたのよ」
「そう……だったんですか。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 心配……と言いかけたところはあえてスルーしておく。
 後、アリシアの秘書さんごめんなさい……!
 
 別に俺が国務を押し付けたわけでもないのに凄い罪悪感。
 今頃、秘書さんがどんな想いで国務をしているのか目に浮かぶ。

 だがそんなことより今は――

(休みたいからそっとしておいてほしい。心配してくれるのは嬉しいけど……)

 と、その時だ。

「あ、ゼナリオくんいたいた!」

 ……ん?

 こちらの方に駆け寄って来る一人の影。
 意識が朦朧としていて視点が定まらないが、あの圧倒的な胸の大きさからするにあれは……

「もう、ゼナリオくんここにいたのね。探したんだから!」
「ヴェルリール? どうしたのよそんなに慌てて」
「えっ、アリシア陛下!? なぜこんなところに?」
「彼の様子見に来たのよ。さっきからこんな調子だから」

 ああ……やっぱりヴェルリール副団長だったか。
 胸の大きさで何となく察しはついたけど……

「ぜ、ゼナリオくん? どうしたの、顔面蒼白よ?」
「お、お気になさらず……俺はへ、平気ですから……」
「そんな風には見えないけど!?」

 するとヴェルリールは「ちょっと待って」と言いながら、腰に巻いてあるウエストポーチに手をかける。
 そしてゴソゴソとポーチの中から一本の瓶を取り出すと、俺に差し出してくる。

「ゼナリオくん、これを飲みなさい」
「んん……これは?」
「疲労回復に効果のある魔法薬ポーションよ。これを飲めば少しは楽になるはずだわ」
「す、すみません。いただきます……」

 俺はその魔法薬を彼女から貰い、震えた手つきでコルクを抜く。
 そして首元だけゆっくりと上げ、魔法薬を口の中へと流し込む。

「……す、すごい飲み方ね」
「よっぽど疲労困憊だったんですよ。これで少しは良くなるはずです」

 本当にその通りだった。
 貰っておきながらあれだが、初めは気が安らぐ程度かなと思っていた。

 でも違う。この魔法薬を喉に通した瞬間、身体に電撃が走るかのように活力が戻って来る。
 むしろ、みなぎってくるくらいだった。

「うおっ!? これは……!」

 魔法薬を口に含んでまだ数秒くらいしか経っていないのにも関わらず俺の身体はみるみるうちに軽くなっていく。
 そして気が付けば俺の身体は完全に回復され、不安要素は一切無くなっていた。

「す、スゴイ……身体が思うように動く。むしろ軽すぎるくらいだ……」
「良かった。どうやら成功みたいね」
「せ、成功……?」
「そ。実は私、趣味で魔法薬の研究をしていてね。さっきゼナリオ君にあげたのは私の作った魔法薬のプロトタイプの一つってわけ」
「こ、この魔法薬を副団長が……?」
「驚いた?」

 いや、驚いたも何も驚愕だよ。
 今まで戦時で魔法薬を目にすることは多々あったが、こんなに即効性のある魔法薬なんて聞いたことも見たこともない。

 俺の知る魔法薬というのはいわば生命を繋ぎとめるための一時的な処置であり、身体を完全に治したり、回復させたりすることは出来ないものだった。
 
 だがこれは俺の知る常識を遥かに逸脱したもの。
 しかもこの効力で試作品プロトタイプだと?

(……あり得ない)

 最初初めて会った時は少し苦手なタイプな人だなと思ったけど、この人って本当は……

(物凄い能力を持った人なのか?)

「ま、失敗したら逆効果になっていたから本当に良かった良かった!」

 え……?

「あ、あの副団長。今なんて?」
「んー? ああ、さっきの魔法薬がもし失敗作だったらの話よ。魔法薬っていうのは単純でね、失敗すればその逆の効果が表れる仕組みになっているの」

(え。ってことはもし失敗していたら……)

 生命を繋ぐどころか断たれていたかもしれないってことか!?
 
「ごめんなさいねゼナリオくん。でも、絶対成功する確信があったから貴方にあげたのよ。それだけは勘違いしないでね」
「本当ですか?」
「うんうん!」

 なんかふざけているようにも見えるが……まぁどちらにせよ救われたから俺は何も言えない。
 でもやっぱりこの人……俺は苦手だ。

「で、ヴェルリールは一体何をしにここへ来たのよ。ゼナリオを探していたんじゃないの?」
「あっ、そうでした! ゼナリオくん、リーリ……団長が貴方を呼んでいるわよ」
「え、団長がですか?」
「うん。さっき彼女から貴方を探すように言われたの。なんか重要な話があるみたい」

 重要な話……? 一体なんだ?

 ま、でもとにかく行かないことには真相は分からない。
 それに、騎士団に入り立ての俺にいきなり部隊長をやれという意図も聞く必要がある。
 
「分かりました、すぐに行きます。団長室ですか?」
「ええ。彼女ならそこで待っているはずだわ」
「ありがとうございます。あ、アリシア!」

 突然自分の名を呼ばれて、身体がピクっとするアリシア。
 そしてなぜか照れくさそうにしながら、

「な、なによ……」
「心配してくれてありがとうございます。俺はもう大丈夫ですから!」
「あ、あっそ! 別にわたしはあんたの心配なんてしてないし……!」
「は、はぁ……そうですか」

 段々顔が赤くなり、リンゴ色に変化しながらも強気な対応。
 なぜ赤くなっているのかは分からないけど、真正面からそう言われると少し残念に思う。

「と、とにかくっ! 早く行きなさい。リーリアが待っているんでしょ」
「は、はい! お二人ともありがとうございました。失礼します!」

 俺はそう二人に言い、頭を下げると団長室へ向けて走る。
 そんな俺の後ろ姿を見て、ヴェルリールは口を開く。

「ホント、良い子よねぇゼナリオくん。陛下もそうは思いませんか?」
「べ、別に! あんな府抜けたヤツ、何とも思ってないわ!」
「うふふ、そうは見えませんでしたけど」
「は、はぁ? そんなことないし!」

 顔を赤らめながらも、ヴェルリールに歯向かうアリシア。
 
 そんな姿を見てヴェルリールは微笑みながらも、ゼナリオに対する彼女の想いをほのかに応援してあげようと思うのであった。
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