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32.リーリアの頼み
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――バンガード王国国家騎士団
王国直属騎士団最大の規模を誇り、王都フォルガナを拠点としている。
国家騎士団には複数の部隊によって組織内での役割が決められており、セシアの率いる前衛騎馬隊やキャスター部隊などの戦闘を主とする部隊やベールの指揮する工作部隊、ヴェルリール副団長を中心とする運営業務部隊などといった直接的な戦闘には関わらない部隊もある。
その部隊数は10を超え、そのそれぞれが自分たちの役割を全うすることでこの騎士団は一つの組織として成り立っているのだ。
で、現在の俺はその国家騎士団の一員であるとともに、その中の戦術特務という一部隊の部隊長をリベルに変わって担うこととなった。
そして戦術特務部の仕事内容としては大まかに二つほど分けることができる。
一つは兵士たちの管理だ。管理と言っても四六時中兵士たちを監視するというのではなく、規律違反や騎士条項に従わない者の処罰や修正、そして注意喚起などが主な仕事になる。
まぁいわば組織内の秩序を守るための仕事と言った方が適切だろう。
それともう一つ、戦術特務部にはある仕事があり、これが我が部隊にとって主となる仕事。
それが組織内のあらゆる分野においての改変企画の立案、そして実行だ。
分かりやすく言えば組織内で欠陥している思うところを変えていくという、いわば組織改革みたいな仕事のことを指す。
それはあらゆる分野においてこの戦術特務部が権利を持ち、企画も俺たちが練り、改変すべきところはどんどん変えていくという。
ちなみに戦時の際の作戦立案も我々戦術特務が考案することになっている。
だがこの前の巨人事件では部隊長のリベル含め、戦術特務部の兵たち諸共遠征中だったため、代わりに団長であるリーリアが戦術立案兼指揮を執るということになったわけだ。
今朝の仕事内容を大雑把に説明するとこんな感じだろう。
他にも色々と細かいことはあるが、話すと丸一日かかるので省力。
てかそんな膨大な仕事量をたった二時間で網羅した俺って一体……
今でも考えるだけで悪夢のようだ。
しかも同じことをしているはずなのにリベルは表情一つ変えずに教えきっていたし……
(超人か何かなのか? あの人は……)
で、今俺はどこにいるかというと団長室だ。
何だかリーリアが俺に話があるみたいですぐに駆けつけたのはいいものの――
――zzz……
「……って、寝てんじゃんっ!」
部屋に入る前、しっかりとノックしたはずなのに返事がなかった。
その上、部屋も鍵がかかっていないようだったので無礼を承知の上で中に入ったら机に突っ伏して寝ているリーリアが目に入った。
さっきようやく起きたという情報を聞いたのにまた寝ているのかこの人は……
とにかく起こさないことには話は進まない。
出直すという手もあったが、他の仕事のこともあってそれは止めた。
ぐっすりと寝ているところ悪いけど――
「団長、リーリア団長起きてください」
肩に手を乗せ、ゆっくりと揺さぶってみる。
だがリーリアは「んん……」と言って目を覚まさない。
(困ったなぁ……あんまり手荒な真似はしたくないし)
と、少々困惑しながらすやすやと眠るリーリアの寝顔を見る。
(……にしても、本当に美人だよなこの人)
間近でみると改めてそう思う。
純白の肌に部屋に差し込む光が反射してキラキラと輝く銀色の髪。
睫毛はかなり長く、薄化粧であまり自分を主張し過ぎないのも好感が持てる。
手足は細いし、スタイルも抜群。
容姿に関しては文句のつけどころを探す方が大変なくらいな人だ。
(こんな人が一組織のリーダーか……)
やはり未だに自分の中では違和感がある。
理由はともあれ、本当にこんな人が武器を取っていいものなのかと。
「ん、んん……あれ、ゼナリオさん?」
「あ、起きた……」
俺はすぐにその場を離れ、制服を整えるフリをする。
乱れた髪をセットし、団長の机の前に少しだけ距離を開けて立つ。
「いつの間にか寝てしまって……あっ、ゼナリオさんがいるということは!」
「……え、ええ。自分を呼んでいるとヴェルリール副団長から聞いたもので駆けつけてきた所存です」
「す、すみませんでした! まさかまた寝てしまうなんて思ってもいなくて……」
「だ、大丈夫ですよ! 俺も今来たところなんで!」
と、軽く嘘を言っておく。
さすがに数十分前からここにいてずっと貴女の寝顔を拝見させてもらいましたなんて言えないしね。
「本当、ごめんなさい。ダメダメですね、わたし……」
「仕方ないですよ。聞けば徹夜で仕事をしていたとのことだったので、疲れが溜まるのは当然のことです」
「でも団長としては失格です……」
暗い表情で俯くリーリア。
慰めようとはしたが、なかなか言葉が見つからず一気に空気が重くなる。
(責任感は強い人だからな……こうなったら)
「あ、あの! それよりお話とは何でしょうか? 大事な話を聞いているので気になってしまって」
強行突破。俺はすぐに話を本題へと変わるように仕向ける。
するとリーリアは、
「あ……そ、そうでしたね。ごめんなさい、取り乱してしまって……」
作戦成功。何とか悪い空気を戻し、話は本題へと移る。
「今日呼んだのはゼナリオさん、貴方に頼みたいことがあったからです」
「頼みたいこと?」
「はい。こんなことの後で人にものを頼むこと自体恐縮なのですが、聞いてはくれませんか?」
「もちろんです! 団長の頼みならたとえ火の中水の中、ご期待に応えさせていただきますよ!」
「ありがとうございます。では……」
そう言うと、リーリアは奥の部屋から大量の書類を持ち、机の上に広げる。
また書類か……と思ったが、今回のものはただの書類ではないようだった。
「ゼナリオさん、貴方に一つ頼みます」
大量の書類を前にしてリーリアはそう言う。
彼女のその潤った紅の瞳、そして真剣な目つきに変わったところで何か大きなことを言おうとしているのが分かる。
――ゴクリ……
何を言われてもいいように身構え、じっと団長を見つめる。
そして少し間があき、先ほどとは空気がガラリと変わった所でリーリアは口を開いた。
「ゼナリオさん、私は貴方にこの騎士団を……立て直していただきたいと思っています」
王国直属騎士団最大の規模を誇り、王都フォルガナを拠点としている。
国家騎士団には複数の部隊によって組織内での役割が決められており、セシアの率いる前衛騎馬隊やキャスター部隊などの戦闘を主とする部隊やベールの指揮する工作部隊、ヴェルリール副団長を中心とする運営業務部隊などといった直接的な戦闘には関わらない部隊もある。
その部隊数は10を超え、そのそれぞれが自分たちの役割を全うすることでこの騎士団は一つの組織として成り立っているのだ。
で、現在の俺はその国家騎士団の一員であるとともに、その中の戦術特務という一部隊の部隊長をリベルに変わって担うこととなった。
そして戦術特務部の仕事内容としては大まかに二つほど分けることができる。
一つは兵士たちの管理だ。管理と言っても四六時中兵士たちを監視するというのではなく、規律違反や騎士条項に従わない者の処罰や修正、そして注意喚起などが主な仕事になる。
まぁいわば組織内の秩序を守るための仕事と言った方が適切だろう。
それともう一つ、戦術特務部にはある仕事があり、これが我が部隊にとって主となる仕事。
それが組織内のあらゆる分野においての改変企画の立案、そして実行だ。
分かりやすく言えば組織内で欠陥している思うところを変えていくという、いわば組織改革みたいな仕事のことを指す。
それはあらゆる分野においてこの戦術特務部が権利を持ち、企画も俺たちが練り、改変すべきところはどんどん変えていくという。
ちなみに戦時の際の作戦立案も我々戦術特務が考案することになっている。
だがこの前の巨人事件では部隊長のリベル含め、戦術特務部の兵たち諸共遠征中だったため、代わりに団長であるリーリアが戦術立案兼指揮を執るということになったわけだ。
今朝の仕事内容を大雑把に説明するとこんな感じだろう。
他にも色々と細かいことはあるが、話すと丸一日かかるので省力。
てかそんな膨大な仕事量をたった二時間で網羅した俺って一体……
今でも考えるだけで悪夢のようだ。
しかも同じことをしているはずなのにリベルは表情一つ変えずに教えきっていたし……
(超人か何かなのか? あの人は……)
で、今俺はどこにいるかというと団長室だ。
何だかリーリアが俺に話があるみたいですぐに駆けつけたのはいいものの――
――zzz……
「……って、寝てんじゃんっ!」
部屋に入る前、しっかりとノックしたはずなのに返事がなかった。
その上、部屋も鍵がかかっていないようだったので無礼を承知の上で中に入ったら机に突っ伏して寝ているリーリアが目に入った。
さっきようやく起きたという情報を聞いたのにまた寝ているのかこの人は……
とにかく起こさないことには話は進まない。
出直すという手もあったが、他の仕事のこともあってそれは止めた。
ぐっすりと寝ているところ悪いけど――
「団長、リーリア団長起きてください」
肩に手を乗せ、ゆっくりと揺さぶってみる。
だがリーリアは「んん……」と言って目を覚まさない。
(困ったなぁ……あんまり手荒な真似はしたくないし)
と、少々困惑しながらすやすやと眠るリーリアの寝顔を見る。
(……にしても、本当に美人だよなこの人)
間近でみると改めてそう思う。
純白の肌に部屋に差し込む光が反射してキラキラと輝く銀色の髪。
睫毛はかなり長く、薄化粧であまり自分を主張し過ぎないのも好感が持てる。
手足は細いし、スタイルも抜群。
容姿に関しては文句のつけどころを探す方が大変なくらいな人だ。
(こんな人が一組織のリーダーか……)
やはり未だに自分の中では違和感がある。
理由はともあれ、本当にこんな人が武器を取っていいものなのかと。
「ん、んん……あれ、ゼナリオさん?」
「あ、起きた……」
俺はすぐにその場を離れ、制服を整えるフリをする。
乱れた髪をセットし、団長の机の前に少しだけ距離を開けて立つ。
「いつの間にか寝てしまって……あっ、ゼナリオさんがいるということは!」
「……え、ええ。自分を呼んでいるとヴェルリール副団長から聞いたもので駆けつけてきた所存です」
「す、すみませんでした! まさかまた寝てしまうなんて思ってもいなくて……」
「だ、大丈夫ですよ! 俺も今来たところなんで!」
と、軽く嘘を言っておく。
さすがに数十分前からここにいてずっと貴女の寝顔を拝見させてもらいましたなんて言えないしね。
「本当、ごめんなさい。ダメダメですね、わたし……」
「仕方ないですよ。聞けば徹夜で仕事をしていたとのことだったので、疲れが溜まるのは当然のことです」
「でも団長としては失格です……」
暗い表情で俯くリーリア。
慰めようとはしたが、なかなか言葉が見つからず一気に空気が重くなる。
(責任感は強い人だからな……こうなったら)
「あ、あの! それよりお話とは何でしょうか? 大事な話を聞いているので気になってしまって」
強行突破。俺はすぐに話を本題へと変わるように仕向ける。
するとリーリアは、
「あ……そ、そうでしたね。ごめんなさい、取り乱してしまって……」
作戦成功。何とか悪い空気を戻し、話は本題へと移る。
「今日呼んだのはゼナリオさん、貴方に頼みたいことがあったからです」
「頼みたいこと?」
「はい。こんなことの後で人にものを頼むこと自体恐縮なのですが、聞いてはくれませんか?」
「もちろんです! 団長の頼みならたとえ火の中水の中、ご期待に応えさせていただきますよ!」
「ありがとうございます。では……」
そう言うと、リーリアは奥の部屋から大量の書類を持ち、机の上に広げる。
また書類か……と思ったが、今回のものはただの書類ではないようだった。
「ゼナリオさん、貴方に一つ頼みます」
大量の書類を前にしてリーリアはそう言う。
彼女のその潤った紅の瞳、そして真剣な目つきに変わったところで何か大きなことを言おうとしているのが分かる。
――ゴクリ……
何を言われてもいいように身構え、じっと団長を見つめる。
そして少し間があき、先ほどとは空気がガラリと変わった所でリーリアは口を開いた。
「ゼナリオさん、私は貴方にこの騎士団を……立て直していただきたいと思っています」
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