転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
34 / 65

32.リーリアの頼み

しおりを挟む
 ――バンガード王国国家騎士団

 王国直属騎士団最大の規模を誇り、王都フォルガナを拠点としている。

 国家騎士団には複数の部隊によって組織内での役割が決められており、セシアの率いる前衛騎馬隊やキャスター部隊などの戦闘を主とする部隊やベールの指揮する工作部隊、ヴェルリール副団長を中心とする運営業務部隊などといった直接的な戦闘には関わらない部隊もある。

 その部隊数は10を超え、そのそれぞれが自分たちの役割を全うすることでこの騎士団は一つの組織として成り立っているのだ。

 で、現在の俺はその国家騎士団の一員であるとともに、その中の戦術特務という一部隊の部隊長をリベルに変わって担うこととなった。
 
 そして戦術特務部の仕事内容としては大まかに二つほど分けることができる。
 一つは兵士たちの管理だ。管理と言っても四六時中兵士たちを監視するというのではなく、規律違反や騎士条項に従わない者の処罰や修正、そして注意喚起などが主な仕事になる。

 まぁいわば組織内の秩序を守るための仕事と言った方が適切だろう。

 それともう一つ、戦術特務部にはある仕事があり、これが我が部隊にとって主となる仕事。
 
 それが組織内のあらゆる分野においての改変企画の立案、そして実行だ。
 
 分かりやすく言えば組織内で欠陥している思うところを変えていくという、いわば組織改革みたいな仕事のことを指す。

 それはあらゆる分野においてこの戦術特務部が権利を持ち、企画も俺たちが練り、改変すべきところはどんどん変えていくという。
 
 ちなみに戦時の際の作戦立案も我々戦術特務が考案することになっている。
 だがこの前の巨人事件では部隊長のリベル含め、戦術特務部の兵たち諸共遠征中だったため、代わりに団長であるリーリアが戦術立案兼指揮を執るということになったわけだ。

 今朝の仕事内容を大雑把に説明するとこんな感じだろう。
 他にも色々と細かいことはあるが、話すと丸一日かかるので省力。

 てかそんな膨大な仕事量をたった二時間で網羅した俺って一体……

 今でも考えるだけで悪夢のようだ。
 しかも同じことをしているはずなのにリベルは表情一つ変えずに教えきっていたし……

(超人か何かなのか? あの人は……)
 
 で、今俺はどこにいるかというと団長室だ。
 何だかリーリアが俺に話があるみたいですぐに駆けつけたのはいいものの――

 ――zzz……

「……って、寝てんじゃんっ!」

 部屋に入る前、しっかりとノックしたはずなのに返事がなかった。
 その上、部屋も鍵がかかっていないようだったので無礼を承知の上で中に入ったら机に突っ伏して寝ているリーリアが目に入った。

 さっきようやく起きたという情報を聞いたのにまた寝ているのかこの人は……

 とにかく起こさないことには話は進まない。
 出直すという手もあったが、他の仕事のこともあってそれは止めた。

 ぐっすりと寝ているところ悪いけど――

「団長、リーリア団長起きてください」

 肩に手を乗せ、ゆっくりと揺さぶってみる。
 だがリーリアは「んん……」と言って目を覚まさない。

(困ったなぁ……あんまり手荒な真似はしたくないし)

 と、少々困惑しながらすやすやと眠るリーリアの寝顔を見る。

(……にしても、本当に美人だよなこの人)
 
 間近でみると改めてそう思う。

 純白の肌に部屋に差し込む光が反射してキラキラと輝く銀色の髪。
 睫毛はかなり長く、薄化粧であまり自分を主張し過ぎないのも好感が持てる。

 手足は細いし、スタイルも抜群。
 容姿に関しては文句のつけどころを探す方が大変なくらいな人だ。

(こんな人が一組織のリーダーか……)

 やはり未だに自分の中では違和感がある。
 理由はともあれ、本当にこんな人が武器を取っていいものなのかと。

「ん、んん……あれ、ゼナリオさん?」
「あ、起きた……」

 俺はすぐにその場を離れ、制服を整えるフリをする。
 乱れた髪をセットし、団長の机の前に少しだけ距離を開けて立つ。
 
「いつの間にか寝てしまって……あっ、ゼナリオさんがいるということは!」
「……え、ええ。自分を呼んでいるとヴェルリール副団長から聞いたもので駆けつけてきた所存です」
「す、すみませんでした! まさかまた寝てしまうなんて思ってもいなくて……」
「だ、大丈夫ですよ! 俺も今来たところなんで!」

 と、軽く嘘を言っておく。
 さすがに数十分前からここにいてずっと貴女の寝顔を拝見させてもらいましたなんて言えないしね。

「本当、ごめんなさい。ダメダメですね、わたし……」
「仕方ないですよ。聞けば徹夜で仕事をしていたとのことだったので、疲れが溜まるのは当然のことです」
「でも団長としては失格です……」

 暗い表情で俯くリーリア。
 慰めようとはしたが、なかなか言葉が見つからず一気に空気が重くなる。

(責任感は強い人だからな……こうなったら)

「あ、あの! それよりお話とは何でしょうか? 大事な話を聞いているので気になってしまって」

 強行突破。俺はすぐに話を本題へと変わるように仕向ける。
 するとリーリアは、

「あ……そ、そうでしたね。ごめんなさい、取り乱してしまって……」

 作戦成功。何とか悪い空気を戻し、話は本題へと移る。

「今日呼んだのはゼナリオさん、貴方に頼みたいことがあったからです」
「頼みたいこと?」
「はい。こんなことの後で人にものを頼むこと自体恐縮なのですが、聞いてはくれませんか?」
「もちろんです! 団長の頼みならたとえ火の中水の中、ご期待に応えさせていただきますよ!」
「ありがとうございます。では……」

 そう言うと、リーリアは奥の部屋から大量の書類を持ち、机の上に広げる。
 また書類か……と思ったが、今回のものはただの書類ではないようだった。

「ゼナリオさん、貴方に一つ頼みます」

 大量の書類を前にしてリーリアはそう言う。
 彼女のその潤った紅の瞳、そして真剣な目つきに変わったところで何か大きなことを言おうとしているのが分かる。

 ――ゴクリ……

 何を言われてもいいように身構え、じっと団長を見つめる。
 そして少し間があき、先ほどとは空気がガラリと変わった所でリーリアは口を開いた。

「ゼナリオさん、私は貴方にこの騎士団を……立て直していただきたいと思っています」
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...