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36.団内視察2
しおりを挟む「ここがトレーニングルームか……」
次に俺が向かったのは別棟にあるもう一つの訓練施設。
最近この別棟に別の訓練施設あるということを知り、どんなところなのか前々から気になっていたので視察も兼ねて来ようと思っていたわけだ。
「なんかよく分からないけど、すごい音がするな……」
中からはガシャンガシャンという金属音が外まで漏れてきており、それと同時に男たちの唸り声も聞こえてくる。
恐らく訓練の真っ最中なのだろう。
「お、お邪魔しまーす」
訓練の邪魔をしないよう静かに中へ入る。
すると、
「な、なんだよこれ……」
視界に入ったのは、広々とした空間に見たこともないような機器の数々。
両側に複数の重りをつけた棒を汗水垂らしながら持ち上げていたり、両手をゴムで縛って上下左右に動かしていたりして身体を鍛えている男たちの姿があった。
(ここって一体……)
「お、そこにいるのはいつぞやの少年じゃないか!」
俺が呆然と辺りを見渡していると、いきなり何者かに呼び止められる。
その声は太く、低くて振り向くとそこにはゴリゴリな身体をムチムチな服で身を包んだ男の姿が目に映った。
「ジョージさ……ジョージじゃないですか」
「おうよ! 貴様は確か……マックスだったか?」
「いえ、ゼナリオです……」
息をするように名前を間違えられる。
しかも一文字を掠ってないし。
あれだけファミリー精神を語っていた人が昨日会ったばかりの人の名前を忘れるのかよ。
俺はしっかりと言われたことを思いだしてあえて敬称で呼ばなかったのに……。
「それはそうとジョージ、ここは一体何をする場所なんですか?」
「ん? それはもちろん、肉体強化だ」
「肉体……強化?」
「そうだ。騎士たるもの、貧弱な肉体で最前線に立っても使い物にならん。そこで作ったのが、このジムという訓練施設だ」
「じ、じむ……?」
初めて聞くワードだ。
じむと聞くと書類作業とかする方の事務しか思いつかないが、ここでは関連性はないように見える。
「まぁオレもなぜジムと言うのかは知らんが、ここを作ってくれたフクが言うには”筋肉を鍛えるためだけに特化した訓練施設”のことを指すらしいぞ」
「筋肉を鍛えるためだけの訓練施設……ですか」
珍しいコンセプトを持った施設だ、今まで聞いたことがない。
大まかに言い換えれば筋肉をつける、または育てることを前提とした訓練が出来るということなのだろうか。
確かに訓練中の兵たちを見てみると、どれもこれも筋肉に直接負荷をかけているような訓練が多いようにも見える。
少なくとも演習場で行うようなこととは全く別次元の訓練がここでは行われていた。
(こんな訓練方法もあるのか……)
初めてみる光景に少々違和感を覚える。
それに”フク”って名前、どこかで聞いたような……
「そんなことより、少年」
「はい?」
「どうだ、折角来たのだからトレーニングでもしていったらどうだ? 貴様のその貧弱な身体は見るに堪えん」
「い、いや俺は……」
いいかなぁ……というかはっきり言えばやりたくない。
見るからに辛そうだし、周りの人たちもムキムキでゴリゴリな人しかいないし。
どう考えても俺みたいな人間は場違い感が……
「まぁ、そう遠慮するな少年。ここで鍛えれば貴様もその貧弱な身体ともおさらばできるのだぞ」
「いや俺は別にこの身体とおさらばしたいわけじゃ……」
「いいからこっちへ来い。オレがみっちり鍛えてやる!」
「え、えぇぇぇ……」
全く人の話を聞いていないよこの人……
俺はそのまま強引に腕を引っ張られ、ある機器の前へと連れてこられる。
どうやら本気で俺を鍛えさせるご様子。
(なんか面倒なことになったなぁ……)
とりあえず、最初は適当に付き合っておいて隙を見て抜け出そう。
「よーし、じゃあまず貴様にはこのベンチプレスという機器でトレーニングを行ってもらう」
「べ、べんちぷれす……?」
そのように呼ぶ機器は人が横たわれるほどの細長いベンチとその上には先ほども他の人が使っていた横棒の両端に円盤型の重りがついた謎の器具がドンと置かれていた。
「じゃあレックス、そこにあるベンチに横たわれ」
「この椅子に寝ればいいのですか? あと俺の名前はゼナリオです、ジョージ」
そう言いつつ俺は指示通りにそこにある長椅子に横たわる。
「横たわりました」
「よし、じゃあ後は簡単だ。目の前にある金属棒を寝ながら両手で持ち上げてみろ」
「こ、これをですか……?」
「そうだ。さぁ、やってみろ」
「は、はい……」
俺は指示された通り、目の前にある金属棒を両手で持ち、持ち上げようとする。
……が。
「お、重っ!」
全然持ち上がらない。というかビクともしなかった。
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
再度力を入れ試みるが、やはり持ち上がる気配がない。
むしろ両手の方が先にヒリヒリとしてきたくらいだ。
「ふん、情けないな少年。それでも”付いてるのか”?」
「うっ……」
何か悔しい。こうなったら意地でも上げてやる。
――発動、《筋力強化》
「はぁぁっ!」
強化魔法を発動させ、自らの筋力を底上げ。
先ほどとは見違えるほどのパワーをジョージに見せつける。
すると、
「おい、少年」
「な、何でしょう?」
さっきまで盛り上がっていた空気が一変。
少し重苦しい空気へと変わっていく。
ジョージの顔も険しくなり、なんか雰囲気がガラリと変化した。
(さ、さすがに魔法を使ったのはまずかったか?)
バレないように魔力量を抑えて配慮したつもりだったけど、やはり無理が――
「やるじゃないかぁぁぁ!」
……へ?
「少年よ、貴様やればできるではないか! 最初はこの程度もできんのかと心配していたが、無用な心配だったようだな!」
「え……あ、その……ありがとうございます」
まさかの褒められていくパターン。
バレるどころか疑いもされなかった。
(この人、前も思ったけど結構な脳筋?)
いや、初対面の時の印象でも賢そうとは微塵も思わなかったが、まさかここまで酷いとは思わなかった。
怒られるかと思って身構えたのがバカみたいだ。
「よぉーし! じゃあ次行くぞ少年! 今日はとことん貴様の肉体強化に付き合ってやる!」
「いや俺はもう――」
「そう遠慮するな! 人に教えるのは慣れている、心配ご無用だ」
「いや、俺はそういうことを言いたいわけでは……」
「次はラットプルダウンだ。ついてこい少年! がっはっはっは!」
あーもうダメだ。全然話を聞いていない。
というか聞く耳すら持っていない。
(あぁ……俺はここから生きて出られるのだろうか)
誰か、助けてくれ……
そんな悲痛な叫びも空しく、俺はこの後、数時間にも及んでジョージと共にただひたすら筋肉だけを鍛える謎の訓練を受けた(受けさせられた)のだった。
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