転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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37.最高の料理人?

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「あぁ……死にそう」

 夕暮れ時、俺はようやくジョージの呪縛から解放され、談話室で休憩を取っていた。

「うーーー、身体が痛い」

 しかも魔力の使いすぎて力も入らない。
 なんか普段使わないような筋肉を無理矢理に鍛えたためか、身体が思うように動かなかった。

「はぁ……こんな時、ヴェルリール副団長の作る魔法薬ポーションがあれば一発で回復するんだろうけどな……」
「私がどうかしたの~?」
「いや~副団長の魔法薬があればこんな疲れなんて吹っ飛ぶんだろうなぁ……って、ヴェルリール副団長!?」

 いつの間にって感じに突如現れる金色の髪と蒼き瞳を持つ美女。
 その正体はバンガード国家騎士団副団長にして団の経理や運営を任されているヴェルリールだった。

「お、驚かさないでくださいよ……」
「うふふ、ごめんなさいね。仕事中で部屋に戻る時に死にそうな顔をしているゼナリオくんを発見したからつい驚かせたくなっちゃった」
「死にそうな顔してるって分かっていたのなら尚更ですって」

 相変わらずこの人の弄り癖には困ったものだ。悪い人じゃないってのは分かるんだけど、少々俺は苦手意識を持っている。
 特に苦手だと思うところはこの人の色気攻めに関してのこととかだ。
 
 男が食いつきそうな色気全開の言動や仕草をこの人は十二分に理解している。
 しかも俺に対してはそういうことに積極的な面があるのでこの人といると、調子が狂うのだ。

 前にあった見学日初日での色気パジャマ事件もそうだったしね……

「そういえばゼナリオくん、そんなに疲れてどうしたの? 側近騎士の仕事に手を焼いているとか?」
「いや、仕事じゃなくてちょーっとある先輩に騎士としての洗礼を受けまして……」

 俺はさっきまでのことをヴェルリールに話す。
 すると、

「あっはっはっは! それは災難だったわね」
「わ、笑いごとじゃないですよ。ホントにきつかったんですから」
「まぁ、でもジョージ衛生管理長はそういうことに関しては熱い人だから仕方ないわ。誰よりも自分と兵を鍛えることに熱意を持っているお方ですから」
「それでも限度がありますって。熱すぎてその情熱の炎で消し炭にされるところでしたよ……」

 でもヴェルリールの話を聞く限り、裏を返せば兵想いの人であるとも捉えられる。
 最初はふざけた人だなとは思っていたけど、結構人望も厚いみたいで、頼られることが多いらしい。

 でも……

「あの副団長、前々から気になっていたんですけど、衛生管理長ってどういう立ち位置の人なんですか? リベルさんもそう呼んでいたので気になっちゃって」
「え? ああ……確かに想像がつかないわよね」

 割と前から気になっていたことだ。衛生管理と言ってもパッと思いつくものが出てこなかったし、ましてはあのジョージが長となるとどのような仕事なのか皆目見当がつかない。
 
 もうジョージ=筋肉の定義式が出来上がっていたのもあったためか、結構心の片隅で突っかかっていたことだった。

 と、いう理由で俺がそんな感じで質問してみると、ヴェルリールは解説を始めた。
 
「端的に言えばこの騎士団には衛生管理部っていう部隊があってね。主な仕事としては兵士たちの栄養管理と食生活の管理が挙げられるわ」
「栄養管理と食生活の管理ですか……」
「そう。ちなみに食堂にある献立はぜーんぶ衛生管理部が考えたメニューなのよ」
「え、えぇ!? そうだったんですか!」

 俺はてっきりキッチンメイドが考えたメニューなのかと思っていた。
 まぁ確かに初めて食堂を利用した時は、栄養素をきちんと考慮したメニューが多いなとは思ったが、まさかそんな仕組みになっていたとは驚きだ。

(ん? でも待てよ。ということはジョージって一体……)

 その疑問が浮かんだ時、ヴェルリールがそれに答えるかのように回答してくれた。

「あ、言い忘れてたけど、ジョージは元々騎士じゃなくて料理人だったのよ」
「……は? 料理人?」
「そっ! だから栄養に詳しかったり、食生活を管理するまでの力量があるのはそういった過去があるから。そう言えば、衛生管理部の部隊長を務めているのも納得がいくでしょ?」
「え、ええ……まぁ」

(そ、そんなバカな……あの人が元コックだって?)
 
 にわかには信じられないことだ。でも、副団長が嘘を言っているとも思えない。
 あの筋肉だぞ? 俺からすればフライパンを振るほうじゃなくて折るほうにしかイメージが湧かない。

 たとえあの人が料理しているところを無理に想像してみても……

(ま、まったく想像がつかん……)

「ま、想像はつかないわよね。私も初めて聞いた時は声をあげて驚いたわ」
「そ、そりゃあそうですよ。俺も今、とんでもなく驚いていますから」
「でも腕前は一級品、いや特級品ね。前に一回だけ彼の料理を食べたことがあるけど、とんでもなかったわ」
「と、とんでもない……とは?」
「うふふ、それは食べてみないと分からないわ。何せ言葉にできないほどの味だったもの」

 言葉に出来ないほどの味だと? そりゃあどういうことだ?

 物凄くおいしいということは伝わってくるが、あえてその言葉を使わないことに疑問を覚える。
 もうそんなレベルではないということか? 次元が違うほどってことなのか?

 考えても考えてもその真意にはたどり着けない。
 そしてそれと同時に湧き上がってくるのは気になるという探求心と食べてみたいという欲求だけだった。

「食べてみたくなったでしょ?」
「は、はい! 物凄く!」

 気が付けば俺は気力を取り戻していた。
 さっきまでの身体の痛みなんてもう忘れ、俺の頭の中はもうジョージの料理のことでいっぱいだった。

「じゃあ、今度彼にもう一度作ってくれるよう話してみようかしら。彼は今、”筋トレ”っていう訓練にご執心のようだから私やリーリア辺りの権力者が命令しないと作ってくれないのよね」
「ま、まぁそうですよね……」

(権力って一体……)

 でも、それで作ってくれるならヴェルリールに頼むほかない。
 多分、俺が頼んでも作ってはくれないだろうし、逆にまた勘違いされて鬼の訓練を受けさせられたらたまったもんじゃないからな。

「じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「ええ、言っておくわ。それよりゼナリオくん、今ちょっと空いているかしら?」
「え? ああ、はい。俺なら大丈夫ですが……」
「良かった。ちょっと手伝ってほしい仕事があるの。一緒に来てもらってもいい?」

 副団長の頼み。
 もちろん、否定する理由はない。

 俺は何も考えることなく返答する。
 
「分かりました。俺でよければ手伝いますよ」

 そういう俺にヴェルリールはニコッと笑う。

「ありがとう、じゃあいこっか」
「はい!」

 俺は威勢よく返事をすると、彼女についてくるよう言われ、ヴェルリールに案内される。
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