転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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44.リーリア・グレースレイド4

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「はぁぁぁぁっ!!」

 振り下ろすことによって発動するリーリアの剣技。

 覇気を感じるその一振りは先ほどとはまるで桁違いの威力を生んでいた。

 もう身体は限界のはずなのに……

「くっ……!」

 見えない刃が更に早く、鋭く、俺に襲いかかる。

「うっ……!」

 速さが増したことで音を感じ取る余裕すら与えられなくなった。
 
 そして一撃だけ。
 斬撃が俺の頬を掠め、血が吹き出す。

「くそっ……」

 だがリーリアの攻撃は留まることを知らない。
 さらに速さが増し、攻撃を回避するための手がかりであった音すらも聞こえなくなる。
 
(どこから来る……?)

 もう頼りになるのは己の直感のみ。
 いつどこから来るか分からない攻撃に緊張感を覚えながら、五感を張り巡らせ、剣を構える。

「……そこかっ!」

 身体を一回転させ、背後を向き、剣を振り下ろす。

 直感は見事的中。背後からの一撃を凌ぎ、すぐさま立て続けに左右から挟むように迫る斬撃を高速剣術で素早く捌いた。

(まだ……来るか!)

 また速さが一段階上がった。
 しかも今度は……全方位からか!?
 
 だが完全に移動予測と軌道は読めている。
 俺は身体を回転させ、勢いよく剣を振り回す。

「ここだっ!」
「……!?」

 少し態勢を崩すも、一斉に襲う刃を全て弾き飛ばし、再度剣をリーリアの方へと向ける。
 そして攻撃が途端に止むと、リーリアに隙が出来る。

(今だっ!)

 剣を垂直に構え、抉れるほど地を蹴り飛ばす。
 そしてそのままリーリアの元へと突進し、一気に懐へ入り込んだ。

「これで、勝負ありです。団長!!」
「んっ……!」

 俺は剣を下から上へと思いっきり振り上げ、剣先でリーリアの持つ剣を弾き飛ばす。
 そしてその剣先を彼女の目の前に突き付けると、俺はこう言った。

「……俺の勝ちです。団長」

 ♦

「か、完敗です……」

 そう言ってその場に座り込むリーリア。

 決闘は終了。
 俺はリーリアとの熾烈な争いに勝利を得た。

 そして決闘後、俺はすぐにリーリアの元へと駆け寄り、手を差し伸べる。

「団長、立てますか?」
「だ、大丈夫です。少し身体に力が入らなかっただけです」

 そう言って俺の手に自分の手を添えるリーリアに俺は「はっ」とあることに気が付く。

「あ、そうだ。団長、少し待っていただけますか?」
「はい?」

 俺は一旦リーリアを座らせると、腰につけた小物入れに手を伸ばし、中から青色の液体の入った小瓶を取り出す。
 前にヴェルリールの仕事の手伝いをした際にお礼として貰ったものだ。
 そしてそれを団長に差し出し、

「団長、これを飲んでください」
「こ、これは……魔法薬ポーションですか?」
「そうです。しかもヴェルリール副団長の手作りなんですよ」
「ヴェ、ヴェルちゃんの……?」
「ヴェルちゃん?」
「あ、い、いいえ! 何でもないです! ありがとうございます、ゼナリオさん!」

 リーリアは慌てながら俺の持つ小瓶を手に取ると、コルクを取り、物凄い勢いで魔法薬を飲み始める。
 
(す、すごい飲みっぷりだ……)

 あまり見ないリーリアの慌てふためく姿に少し驚く。

 そして、

「す、すごい。少しずつですが、疲れが癒されていきます……」
「どうやらまともなものを渡してくれたようですね」
「えっ? まともって……」
「あ……いえ! 何でもないです! こっちの話です」

 そういうのも前、俺に渡してきたやつはプロトタイプだったらしいからな。
 本人は完成品とは言っていたけど、もし今回も未完成品を渡されていて失敗しようもんなら最悪だ。

 全く信用していないわけじゃないが、少し心配な面もある。
 たまに常識ハズレな時があるからな……特にヴェルリールは。

「ふぅ……」
「落ち着きましたか?」
「はい。何だかさっきと比べて気分が良いです。落ち込んでいたはずなのに……」
「落ち込んでいた?」
「……」

 目を少し潤わせ、俯くリーリア。

 そうだ。俺がここに来てリーリアに最初に抱いた疑問、それはなぜここに彼女がいるのか。
 最初は前にヴェルリールと約束した例の事を探るために、決闘を挑んだのだが、なぜここにいるのかはまだ聞いていなかった。

 気持ちを探るも何もまずはそこから聞かないとな……

「団長、そういえばまだ負けた時の罰ゲームを決めていませんでしたね」
「ば、罰ゲーム?」
「そうです。例えば負けたら相手の言うことを何でも一つ聞く……とか」
「なん、でも……」

 リーリアはぼーっと空を見上げながら、何かを考えている様子。
 だがその直後、リーリアは何かに気が付いたのか、段々と顔を赤く染めながら……

「もっ、もしかしてそ、それって……ハレンチなことですか!?」
「え」
「だ、ダメですよそんなっ! しかもこんなところで……! やるならせめてもっと雰囲気があるところで」

 ……あれ、なんでそうなるんだ?
 まさか俺、なんかやばいこと言ったか? 別にそんなつもりでいったわけじゃ……

 状況が一気にあらぬ方向へ。
 それに最後、しれっとなんか誘うような一言を言われたような気が……

 俺はすぐに彼女の方を向き弁解する。

「い、いやいや! そういうことじゃないですって! 単純に俺は――」
「単純にハレンチなことをしたいだけ……なの?」
「ち、ちがーう!!」

 何だろうか、このかみ合わない感じ。
 今までこんなことなかったのに……それにリーリアも何だかいつもよりなんだか……

(あっ……)

 ふと湧き上がって来るかのようにある記憶が蘇る。
 そして記憶とは前にヴェルリールにこの魔法薬を渡された時、最後に彼女が言っていた一言だ。

 確かあの人最後に……

『あっ、ゼナリオくん。最後に言っておくけどその魔法薬は一応完成はしているんだけど、たまぁーーーーに副作用で相手の人格を変えることがあるから注意してね』


 ってなことを言っていた気が……

 ということはこれってまさか……

「ゼナリオさん、わたし……別にゼナリオさんなら……」

 迫りくるリーリア。もう完全に彼女の中にある別の人格が浮き出てしまっている。
 
 ど、どうやって止めれば……

「なんでそっち向いちゃうんですか、ゼナリオさん。こっちを向いてくださいよぉ」
「い、いや俺は……」

 目をそらす俺を無理矢理正面へ向かせようと、俺の顔を掴む。

(し、しまった!)

 そしてそのまま押し倒され、完全に身動きの取れない状況まで追い込まれる。
 
(くそ、なんて力だ……)

 身体はホールドされ、ピクリとも動かない。 
 
「ゼナリオ……さん」
「や、やめ……やめてくれぇーーーーー!!」

 この数分後、リーリア自身は自然消火で正気を取り戻した。
 が、逆に俺の心には……まぁ、ある意味深い傷が残されたのだった。
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