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43.リーリア・グレースレイド3
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両手で剣を構え、目を瞑る銀色の女騎士。
彼女の精神統一によってこの場に緊張感が走る。
『本気で来てください』
彼女が俺にそう言った一言。
恐らくリーリアはこの一瞬、この一撃に全てをかけている。
自身の持つ最強の剣技……前世の言葉を借りるなら秘奥義ってやつで勝負をかけてくるつもりなのだろう。
今のリーリアは確かに肉体的に不利な状況にある。
さっきの俺が繰り出した『無極連斬』の影響で一気に彼女のスタミナをそぎ落としたからだ。
最強とまではいかないが、俺の持つ剣技の中でもかなり強力な『無極連斬』を耐え凌いだ彼女の身体はほぼ限界点に近いところまで来ているだろう。
こうして立って剣を構えていられるだけでも驚きなのに、リーリアはまだ技を出す気力が残っている。
まさに強靭なメンタルで自分の身体を奮起させているというわけだ。
(なるほど、剣聖の末裔というのは伊達じゃないってことか)
でもだからと言って手を抜く気はさらさらない。
むしろその逆。
相手が弱っているのなら一気に畳みかける。
もちろん、彼女のその”全力”ってやつを身体全体で受け止めてからね。
「ゼナリオさん、貴方にこの技を見せるのは私の師であった祖父に続いて二人目です。いくら貴方でも、容易にこの技を防ぐことはできませんよ」
「それは楽しみです。俺も全身全霊を持って団長のその一撃を受け止めて見せます!」
お互いの間に生まれる騎士としてのプライドのぶつけ合い。
静かな火花を散らし、俺たちは剣を構え、睨み合う。
「覚悟はよろしいですね? 行きますよ!」
「いつでもどうぞ!」
俺が勢いのある返事をした瞬間、辺りにあった木々たちがガサガサと揺れ動きだす。
それから数秒後に地面が揺れ出し、リーリアの周りには薄い紫色の膜が張られる。
(……なんだ、どうなっている?)
先ほどとはまるで様子が違う。
この心中のざわつきとさっきから手にピリピリと伝わってくるこの感覚。
そして、今までに感じたことない威圧感……
その上何だ、俺の手が……震えているだと!?
これは恐怖を感じた震えなのか体内の神経伝達物質が活性化していることによる震えなのかは分からない。
でもとにかく言えるのは、こっちも全力でいかないとこの空気に呑まれてしまうということ。
この只ならぬ霊気はまさに異端、人の枠を超えた非人道的なものだ。
「これが、本当にリーリアの力なのか?」
場の空気を一瞬にして支配し、かつ彼女の眼差しはまるで別人のように変貌する。
いつものような優しい瞳ではない。あれは……勝負師の瞳だ。
俺は剣を構え、ただひたすら彼女だけを見つめる。
そして――
「フェキール流、第10階梯剣術奥義……重力支配の一閃、『グラヴィティ―・ウォーレイス』!」
リーリアが技名を叫ぶのと当時に発生する激しい衝撃波。
振りかざした剣先からは肉眼では到底捉えきれないほどの凄まじい一閃が、見えない刃となって次々と飛んでくる。
「……なんだ、この剣技は!」
神速一閃の如く襲い掛かる無数の刃。
ただ聞こえてくるのは衝撃と共に生まれた刃の飛ぶ音だけ。
俺は音だけを頼りに瞬時に移動予測をし、その片手に持った剣を振り下ろした。
「ここだっ!」
歯を食いしばりながらも、初撃を何とか剣先で弾いて回避。
続く第二波、第三波の攻撃も音と自身の直感だけを頼りに次々と攻撃を弾き飛ばす。
でも、まだリーリアの表情には余裕があった。
悉く攻撃をかわした俺を見て、少しばかり笑みを浮かべたのだ。
(まだ、何かを隠しているのか?)
そう思ったすぐ直後、リーリアは口を開き、
「流石はゼナリオさんですね、私の中では最強の剣技である『グラヴィティー・ウォーレイス』を全て防ぎきるなんて」
「いや……俺だって余裕なんかなかったですよ。まさか自由自在に見えない刃を飛ばせる剣技を使えるなんて……」
そう、彼女の使った剣技はただ見えない刃を飛ばしているだけのものではなかった。
ただ素直に真っ直ぐ飛ばすのではなく、右往左往と重力を無視したような動きを意図的に操作することが可能な剣技。
少なくとも生前の時は一度も見たことがない剣技だった。
まだ音という明確なヒントがあったから回避できたものの、あの剣技は今まで見た数々の剣技の中では五本の指に入るほどの技なのは確かだ。
(こんなに神経を使ったのは久々だな)
滴る汗を拭い、剣をしっかりと握り、ただ目の前の勝負にだけ集中する。
この纏わりついてくるような凄まじいオーラと人には視認できないほどの強力な剣技。
少しでも集中力を切らせば、立場は一気に逆転することだろう。
俺は息を整え、次なる攻撃に備える。
リーリアもまた、剣を縦でなく横に構えを変えて、腰を少し落とした。
そして彼女は溜まる疲労を隠しながらも、
「本当はさっきの一撃に全てをかけていたのですが、貴方には通用しなかった。正直なところ、身体も限界寸前だし、「完敗です」と言って今すぐ剣を地に置きたいくらいです」
リーリアは続ける。
「でも、私もなんだかんだ言って剣を握って生きてきた身です。貴方みたいにお強い方と出会ってしまうと、やはり悔しいのです。自分が今まで磨いてきた力が通用しないって思うと尚更……」
「……」
無言で見つめる俺にリーリアはさらに話を続けた。
「だからこそ、今の勝負はすごく楽しいです。こういうのを何と言うのでしょうか? ”血が騒ぐ”ってやつですかね?」
「団長……」
血が騒ぐ……か。
剣聖になって、戦うのが義務になってからそうは思わなくなったけど、俺も昔はそんな気持ちを抱いていた時があった。
ただひたすら剣を振り回すのが好きで、強い奴と戦うのが好きで。
遥か昔のことだから、すっかり忘れていたけど……
「ゼナリオさん、まだ勝負は終わってません。ですが、私が振れるのはもう後一撃だけ。これに全ての力を結集します」
そういうとリーリアは剣を振り上げ、そのままピタリと止まる。
彼女の手はすごく震えていた。
振り上げた剣がプルプルと動いていたのですぐにわかった。
本当に限界ギリギリの状態なのだろう。
でも、覚悟をもって剣をふるう相手に手を抜くことはできない。
恐らくこれがラストバトル。
俺も次の攻撃で一気に決める……!
先ほどと同じように場の雰囲気が変わる。
そしてリーリアは今までにない闘志溢れた眼差しをこちらへ向けると、こう言った。
「行きますよゼナリオさん。これが私の全てです!」
彼女の精神統一によってこの場に緊張感が走る。
『本気で来てください』
彼女が俺にそう言った一言。
恐らくリーリアはこの一瞬、この一撃に全てをかけている。
自身の持つ最強の剣技……前世の言葉を借りるなら秘奥義ってやつで勝負をかけてくるつもりなのだろう。
今のリーリアは確かに肉体的に不利な状況にある。
さっきの俺が繰り出した『無極連斬』の影響で一気に彼女のスタミナをそぎ落としたからだ。
最強とまではいかないが、俺の持つ剣技の中でもかなり強力な『無極連斬』を耐え凌いだ彼女の身体はほぼ限界点に近いところまで来ているだろう。
こうして立って剣を構えていられるだけでも驚きなのに、リーリアはまだ技を出す気力が残っている。
まさに強靭なメンタルで自分の身体を奮起させているというわけだ。
(なるほど、剣聖の末裔というのは伊達じゃないってことか)
でもだからと言って手を抜く気はさらさらない。
むしろその逆。
相手が弱っているのなら一気に畳みかける。
もちろん、彼女のその”全力”ってやつを身体全体で受け止めてからね。
「ゼナリオさん、貴方にこの技を見せるのは私の師であった祖父に続いて二人目です。いくら貴方でも、容易にこの技を防ぐことはできませんよ」
「それは楽しみです。俺も全身全霊を持って団長のその一撃を受け止めて見せます!」
お互いの間に生まれる騎士としてのプライドのぶつけ合い。
静かな火花を散らし、俺たちは剣を構え、睨み合う。
「覚悟はよろしいですね? 行きますよ!」
「いつでもどうぞ!」
俺が勢いのある返事をした瞬間、辺りにあった木々たちがガサガサと揺れ動きだす。
それから数秒後に地面が揺れ出し、リーリアの周りには薄い紫色の膜が張られる。
(……なんだ、どうなっている?)
先ほどとはまるで様子が違う。
この心中のざわつきとさっきから手にピリピリと伝わってくるこの感覚。
そして、今までに感じたことない威圧感……
その上何だ、俺の手が……震えているだと!?
これは恐怖を感じた震えなのか体内の神経伝達物質が活性化していることによる震えなのかは分からない。
でもとにかく言えるのは、こっちも全力でいかないとこの空気に呑まれてしまうということ。
この只ならぬ霊気はまさに異端、人の枠を超えた非人道的なものだ。
「これが、本当にリーリアの力なのか?」
場の空気を一瞬にして支配し、かつ彼女の眼差しはまるで別人のように変貌する。
いつものような優しい瞳ではない。あれは……勝負師の瞳だ。
俺は剣を構え、ただひたすら彼女だけを見つめる。
そして――
「フェキール流、第10階梯剣術奥義……重力支配の一閃、『グラヴィティ―・ウォーレイス』!」
リーリアが技名を叫ぶのと当時に発生する激しい衝撃波。
振りかざした剣先からは肉眼では到底捉えきれないほどの凄まじい一閃が、見えない刃となって次々と飛んでくる。
「……なんだ、この剣技は!」
神速一閃の如く襲い掛かる無数の刃。
ただ聞こえてくるのは衝撃と共に生まれた刃の飛ぶ音だけ。
俺は音だけを頼りに瞬時に移動予測をし、その片手に持った剣を振り下ろした。
「ここだっ!」
歯を食いしばりながらも、初撃を何とか剣先で弾いて回避。
続く第二波、第三波の攻撃も音と自身の直感だけを頼りに次々と攻撃を弾き飛ばす。
でも、まだリーリアの表情には余裕があった。
悉く攻撃をかわした俺を見て、少しばかり笑みを浮かべたのだ。
(まだ、何かを隠しているのか?)
そう思ったすぐ直後、リーリアは口を開き、
「流石はゼナリオさんですね、私の中では最強の剣技である『グラヴィティー・ウォーレイス』を全て防ぎきるなんて」
「いや……俺だって余裕なんかなかったですよ。まさか自由自在に見えない刃を飛ばせる剣技を使えるなんて……」
そう、彼女の使った剣技はただ見えない刃を飛ばしているだけのものではなかった。
ただ素直に真っ直ぐ飛ばすのではなく、右往左往と重力を無視したような動きを意図的に操作することが可能な剣技。
少なくとも生前の時は一度も見たことがない剣技だった。
まだ音という明確なヒントがあったから回避できたものの、あの剣技は今まで見た数々の剣技の中では五本の指に入るほどの技なのは確かだ。
(こんなに神経を使ったのは久々だな)
滴る汗を拭い、剣をしっかりと握り、ただ目の前の勝負にだけ集中する。
この纏わりついてくるような凄まじいオーラと人には視認できないほどの強力な剣技。
少しでも集中力を切らせば、立場は一気に逆転することだろう。
俺は息を整え、次なる攻撃に備える。
リーリアもまた、剣を縦でなく横に構えを変えて、腰を少し落とした。
そして彼女は溜まる疲労を隠しながらも、
「本当はさっきの一撃に全てをかけていたのですが、貴方には通用しなかった。正直なところ、身体も限界寸前だし、「完敗です」と言って今すぐ剣を地に置きたいくらいです」
リーリアは続ける。
「でも、私もなんだかんだ言って剣を握って生きてきた身です。貴方みたいにお強い方と出会ってしまうと、やはり悔しいのです。自分が今まで磨いてきた力が通用しないって思うと尚更……」
「……」
無言で見つめる俺にリーリアはさらに話を続けた。
「だからこそ、今の勝負はすごく楽しいです。こういうのを何と言うのでしょうか? ”血が騒ぐ”ってやつですかね?」
「団長……」
血が騒ぐ……か。
剣聖になって、戦うのが義務になってからそうは思わなくなったけど、俺も昔はそんな気持ちを抱いていた時があった。
ただひたすら剣を振り回すのが好きで、強い奴と戦うのが好きで。
遥か昔のことだから、すっかり忘れていたけど……
「ゼナリオさん、まだ勝負は終わってません。ですが、私が振れるのはもう後一撃だけ。これに全ての力を結集します」
そういうとリーリアは剣を振り上げ、そのままピタリと止まる。
彼女の手はすごく震えていた。
振り上げた剣がプルプルと動いていたのですぐにわかった。
本当に限界ギリギリの状態なのだろう。
でも、覚悟をもって剣をふるう相手に手を抜くことはできない。
恐らくこれがラストバトル。
俺も次の攻撃で一気に決める……!
先ほどと同じように場の雰囲気が変わる。
そしてリーリアは今までにない闘志溢れた眼差しをこちらへ向けると、こう言った。
「行きますよゼナリオさん。これが私の全てです!」
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