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42.リーリア・グレースレイド2
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緊迫した空気が辺り一帯を包み込む。
目の前には模造剣を持ち、構える一人の女騎士がいた。
「じゃあ、演習を始めましょう。団長」
「私はいつでも準備Okです。ゼナリオさんは剣を持っていないとお見受けしますがそれは……?」
「すみません。こんなことになろうとは予想もしていなかったもので何も持ってきてないんですよ。でも、心配は無用です。今すぐ”造り”ますので」
「造る……?」
発動、創造――ソードエディション!
「なっ!?」
瞬間。俺の右手に宿る大量の魔力が放出され、一つの光を生み出す。
その光は次第に形状を変化させ、数秒後には剣の形へと変貌。
何もなかったところから一本の模造剣が生成される。
「……せ、生成魔法?」
「ちょっと違いますが、似たようなものですかね。もちろんこれは実体のあるものではなく、魔力を具現化させて剣に変えたものです」
「具現化させるって、そんな高度な魔法を……」
まぁリーリアが驚くのも無理はない。
具現化の魔法はひょんなことから生前の時に出会った一人の老人から教わったものだ。
最初はその者の正体が分からなかったが、後から知った話によればその老人は聖者と呼ばれる存在だったらしい。
聖者というのは人族の中で最も神に近い者だと言われ、魔法を始めとして世に蔓延るあらゆる知識を知る人族最高にして至高の存在。
一部の学者は人族を統べる神とまで呼んでいる人もいるとのこと。
俺はそんな人からこの具現化の魔法を賜った。
要するに、正真正銘の”神業”ってやつだ。
あ、ちなみに言っておくとこの魔法はかなり魔力を消費するので基本的には使わないようにしている。
まぁ、緊急事態用ってとこだ。
そしてそれを見て驚くリーリアに俺は一言付け加えた。
「あ、安心してください。性能は普通の模造剣と変わりありませんから。本当は城へ帰って剣を取りに行きたいところなのですが、自分で勝負をふっかけた以上、相手に背を見せるわけにはいきませんからね。一人の騎士として」
「別にそんなこと気にしてませんよ。ゼナリオさんは筋の通ったお方です。卑怯な真似は絶対にしないと、心から信じています」
「そ、そうですか……」
いきなりベタ褒めされて少し困惑。
だってこんな緊張感のある雰囲気の中そんなこと言われたら誰だって戸惑うもんだろ?
それに、あんなに真剣な顔をして言われたら返答に困る。
でも……
(俺をそこまで信じてくれていたのは少し嬉しいな)
内心ちょっと照れる。
俺も同じようにリーリアを信じているから尚のことだ。
だからなのかもしれない。
こうして俺が今、本気で人の為に何かをしようとしているのは。
例えば再建計画のこととかね。
前までは助けようとはしても人の為に本気で何かをしようなんてことはなかった。
このたった数週間で、俺の心内が変わったってことなのだろうか?
……不思議だ。
「準備はできましたか? ゼナリオさん」
「はい。お待たせしました。いつでも始めて大丈夫ですよ」
先ほどまでの空気から一変。さらに緊張感の増した雰囲気へと変わる。
息が詰まりそうってほどではないが、少々息苦しさのあるこの感じ。
そして、リーリアが今見せているあの表情……
(これはもしかしてすると……)
「……では、行きますよ。ゼナリオさんっ!」
最初に仕掛けてきたのは向こうからだった。
リーリアは剣を両手で構えながら、こちらへと向かってくる。
「はぁぁっ!」
「……ッ!」
一回転しながら繰り出される強烈な一撃。
俺はそれを真っ向から剣で受け止め、そのまま弾き飛ばす。
そして俺はその一撃を受けてあることを感じた。
(間違いない、この人は……本気だ)
確かに手加減無用とは言ったが、あのリーリアがここまで力を出してくるとは思わなかった。
言い方を悪くすれば見くびっていた。
最初は様子見から入ろうなんて思っていた自分がバカみたいだ。
彼女は最初から、俺を本気でぶっ倒しに来ている。
(ふっ、そうか。今のリーリアはリーリアであってリーリアじゃないってわけか)
なら、俺もその気持ちに応えなければならない。
彼女の苦悩を取り払う布石を作るためにも、俺も真摯に向き合った剣士道とやらを見せてやらないとな。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
二回目のリーリアの攻撃。
今度は身体を二回転させて重心ごと剣に力を加えながら剣技を繰り出す。
剣ごとそのまま吹き飛ばそうって考えなのか、さっきの攻撃とは桁違いの覇気を放っていた。
確かにこの人はすごい。見た目だけなら想像もつかないが、彼女は生粋の剣士だ。
剣筋も素直で無駄がない。
大抵の者はまず間違いなく、彼女のこの剣筋の前にひれ伏すことになるだろう。
でも、俺は――
「覚悟してください、ゼナリオさん!」
「……いえ、それはできません。団長」
「……!?」
振りかざされるリーリアの博打の一撃。
だが俺はそれを片手に持ち替えた剣で受け止め、そのままホールドする。
「う、うそ……私の剣技を片手で……」
驚く表情を見せるリーリア。
そして俺はニヤリと笑い、
「次はこちらの番です。行きますよ、団長!」
「……!」
俺はホールドしたリーリアの剣を弾き、そのまま絶え間なく連撃を繰り出す。
一瞬の休みも与えない怒涛の剣技。
まさに疾風迅雷の如く。
これは俺が昔から使っている守りを捨てて全てを攻撃に投与する剣技。
名を『無極連斬』という。
「う、うっ、う……」
相手からすれば一本の剣が何十本もあるように見えるのだろう。
それほど早く、凄まじい剣技なのだ。
だが、リーリアも負けてはいない。
対処するには一瞬の判断が必要とされるこの剣技を悉く弾き返し、身を守り抜いた。
「流石ですね、団長」
俺は一度態勢を立て直し、距離を置く。
「はぁ……はぁ……はぁ……。いえ……ゼナリオさんこそ……物凄い……剣技でした」
息切れの激しいのか、言葉が途切れ途切れになっている。
彼女の額からは大量の汗が噴き出ており、身体も少し震えていた。
(少しやり過ぎたか……だが、まさかあの『無極連斬』を耐え抜くとは……)
こんなの初めてだ。大体はこれで決着がつけられたはずなのに彼女は見事に耐えた。
しかも結構本気に近いレベルで繰り出したはずなのに、疲労と身体痙攣だけで済むとは……
やはり、只者じゃない。
「やはりお強いですね、ゼナリオさんは……私もここまで追い込まれたのは剣を握ってから生まれて初めてです」
だろうな。
こう見えても俺は元剣聖だ。
その攻撃を耐え抜くほどなんだから、今まで敵なしだったのも納得がいく。
だがリーリアの表情は徐々に険しくなっていき、
「でも、まだ私は負けてはいません。最初は出そうか迷っていた技ですが、剣を交えて分かりました。貴方になら、迷うことなくこの技を繰り出すことができます」
「……技?」
首を傾げる俺に、リーリアは答える。
「今私の持つ、全てを力を使って繰り出す自身最強の剣技です。もっと言えば、私が今まで積み上げてきた鍛錬の結晶とも呼べるものでしょう」
「鍛錬の結晶……」
そしてリーリアは剣をギュッと強く握り締めながら、話を続けた。
「だからゼナリオさんも本気で来てください。私の持つ力全てを、貴方に……ぶつけます!」
目の前には模造剣を持ち、構える一人の女騎士がいた。
「じゃあ、演習を始めましょう。団長」
「私はいつでも準備Okです。ゼナリオさんは剣を持っていないとお見受けしますがそれは……?」
「すみません。こんなことになろうとは予想もしていなかったもので何も持ってきてないんですよ。でも、心配は無用です。今すぐ”造り”ますので」
「造る……?」
発動、創造――ソードエディション!
「なっ!?」
瞬間。俺の右手に宿る大量の魔力が放出され、一つの光を生み出す。
その光は次第に形状を変化させ、数秒後には剣の形へと変貌。
何もなかったところから一本の模造剣が生成される。
「……せ、生成魔法?」
「ちょっと違いますが、似たようなものですかね。もちろんこれは実体のあるものではなく、魔力を具現化させて剣に変えたものです」
「具現化させるって、そんな高度な魔法を……」
まぁリーリアが驚くのも無理はない。
具現化の魔法はひょんなことから生前の時に出会った一人の老人から教わったものだ。
最初はその者の正体が分からなかったが、後から知った話によればその老人は聖者と呼ばれる存在だったらしい。
聖者というのは人族の中で最も神に近い者だと言われ、魔法を始めとして世に蔓延るあらゆる知識を知る人族最高にして至高の存在。
一部の学者は人族を統べる神とまで呼んでいる人もいるとのこと。
俺はそんな人からこの具現化の魔法を賜った。
要するに、正真正銘の”神業”ってやつだ。
あ、ちなみに言っておくとこの魔法はかなり魔力を消費するので基本的には使わないようにしている。
まぁ、緊急事態用ってとこだ。
そしてそれを見て驚くリーリアに俺は一言付け加えた。
「あ、安心してください。性能は普通の模造剣と変わりありませんから。本当は城へ帰って剣を取りに行きたいところなのですが、自分で勝負をふっかけた以上、相手に背を見せるわけにはいきませんからね。一人の騎士として」
「別にそんなこと気にしてませんよ。ゼナリオさんは筋の通ったお方です。卑怯な真似は絶対にしないと、心から信じています」
「そ、そうですか……」
いきなりベタ褒めされて少し困惑。
だってこんな緊張感のある雰囲気の中そんなこと言われたら誰だって戸惑うもんだろ?
それに、あんなに真剣な顔をして言われたら返答に困る。
でも……
(俺をそこまで信じてくれていたのは少し嬉しいな)
内心ちょっと照れる。
俺も同じようにリーリアを信じているから尚のことだ。
だからなのかもしれない。
こうして俺が今、本気で人の為に何かをしようとしているのは。
例えば再建計画のこととかね。
前までは助けようとはしても人の為に本気で何かをしようなんてことはなかった。
このたった数週間で、俺の心内が変わったってことなのだろうか?
……不思議だ。
「準備はできましたか? ゼナリオさん」
「はい。お待たせしました。いつでも始めて大丈夫ですよ」
先ほどまでの空気から一変。さらに緊張感の増した雰囲気へと変わる。
息が詰まりそうってほどではないが、少々息苦しさのあるこの感じ。
そして、リーリアが今見せているあの表情……
(これはもしかしてすると……)
「……では、行きますよ。ゼナリオさんっ!」
最初に仕掛けてきたのは向こうからだった。
リーリアは剣を両手で構えながら、こちらへと向かってくる。
「はぁぁっ!」
「……ッ!」
一回転しながら繰り出される強烈な一撃。
俺はそれを真っ向から剣で受け止め、そのまま弾き飛ばす。
そして俺はその一撃を受けてあることを感じた。
(間違いない、この人は……本気だ)
確かに手加減無用とは言ったが、あのリーリアがここまで力を出してくるとは思わなかった。
言い方を悪くすれば見くびっていた。
最初は様子見から入ろうなんて思っていた自分がバカみたいだ。
彼女は最初から、俺を本気でぶっ倒しに来ている。
(ふっ、そうか。今のリーリアはリーリアであってリーリアじゃないってわけか)
なら、俺もその気持ちに応えなければならない。
彼女の苦悩を取り払う布石を作るためにも、俺も真摯に向き合った剣士道とやらを見せてやらないとな。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
二回目のリーリアの攻撃。
今度は身体を二回転させて重心ごと剣に力を加えながら剣技を繰り出す。
剣ごとそのまま吹き飛ばそうって考えなのか、さっきの攻撃とは桁違いの覇気を放っていた。
確かにこの人はすごい。見た目だけなら想像もつかないが、彼女は生粋の剣士だ。
剣筋も素直で無駄がない。
大抵の者はまず間違いなく、彼女のこの剣筋の前にひれ伏すことになるだろう。
でも、俺は――
「覚悟してください、ゼナリオさん!」
「……いえ、それはできません。団長」
「……!?」
振りかざされるリーリアの博打の一撃。
だが俺はそれを片手に持ち替えた剣で受け止め、そのままホールドする。
「う、うそ……私の剣技を片手で……」
驚く表情を見せるリーリア。
そして俺はニヤリと笑い、
「次はこちらの番です。行きますよ、団長!」
「……!」
俺はホールドしたリーリアの剣を弾き、そのまま絶え間なく連撃を繰り出す。
一瞬の休みも与えない怒涛の剣技。
まさに疾風迅雷の如く。
これは俺が昔から使っている守りを捨てて全てを攻撃に投与する剣技。
名を『無極連斬』という。
「う、うっ、う……」
相手からすれば一本の剣が何十本もあるように見えるのだろう。
それほど早く、凄まじい剣技なのだ。
だが、リーリアも負けてはいない。
対処するには一瞬の判断が必要とされるこの剣技を悉く弾き返し、身を守り抜いた。
「流石ですね、団長」
俺は一度態勢を立て直し、距離を置く。
「はぁ……はぁ……はぁ……。いえ……ゼナリオさんこそ……物凄い……剣技でした」
息切れの激しいのか、言葉が途切れ途切れになっている。
彼女の額からは大量の汗が噴き出ており、身体も少し震えていた。
(少しやり過ぎたか……だが、まさかあの『無極連斬』を耐え抜くとは……)
こんなの初めてだ。大体はこれで決着がつけられたはずなのに彼女は見事に耐えた。
しかも結構本気に近いレベルで繰り出したはずなのに、疲労と身体痙攣だけで済むとは……
やはり、只者じゃない。
「やはりお強いですね、ゼナリオさんは……私もここまで追い込まれたのは剣を握ってから生まれて初めてです」
だろうな。
こう見えても俺は元剣聖だ。
その攻撃を耐え抜くほどなんだから、今まで敵なしだったのも納得がいく。
だがリーリアの表情は徐々に険しくなっていき、
「でも、まだ私は負けてはいません。最初は出そうか迷っていた技ですが、剣を交えて分かりました。貴方になら、迷うことなくこの技を繰り出すことができます」
「……技?」
首を傾げる俺に、リーリアは答える。
「今私の持つ、全てを力を使って繰り出す自身最強の剣技です。もっと言えば、私が今まで積み上げてきた鍛錬の結晶とも呼べるものでしょう」
「鍛錬の結晶……」
そしてリーリアは剣をギュッと強く握り締めながら、話を続けた。
「だからゼナリオさんも本気で来てください。私の持つ力全てを、貴方に……ぶつけます!」
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