43 / 65
41.リーリア・グレースレイド1
しおりを挟む
「り、リーリア団長……貴女はまだ出張中だったはずじゃ……」
「……」
少し俯き、虚ろな目で違う方向を見つめるリーリア。
俺の問いにも一言も発することなく、ただ無言を貫くだけだった。
「どうしてですか団長! 出張の話は嘘だったんですか!」
少し強めに問いただしてみると、リーリアは小さく口を動かし、
「……ごめんなさいゼナリオさん。全て、嘘なんです。ここに私がいることもあなた以外、城内誰一人として知る者はいません」
「……」
他にも問いただしたいことが山ほどある。でも、今のリーリアの表情から察するに精神的に追い込まれた状態である可能性が高い。
ここで質問攻めをしてしまっては恐らく逆効果だ。
彼女は今、何かを迷い、そして苦悩している。
あの顔は……かつて俺の戦友が見せた時の表情にそっくりだった。
結局そいつはその苦悩を取り払うことができず、自殺にまで追い込まれた。俺はそいつの近くに居ながら救うことが出来なかった。
周りの者たちも必死に元気づけようと奮闘したが、逆にそれが仇となり、聞き詰めたことによってさらにそいつを追い込んでしまった。
だからこそ、この状況は極めて危険なんだ。
少しでもその人が抱く苦しみの片鱗を傷つけてしまえば、人は簡単に壊れてしまう。
そう、かつての戦友のように。
これはあくまで俺の経験談だが、苦悩を取り払うか取り払えないかは結局のところ、己の心次第なんだと思う。
待っていれば誰かが助けてくれるわけでもないし、助けてくれたとしても何の解決にもならない時だってある。
己の道は己で決める。俺は今までそうやって生きてきたから苦悩に侵される日々なんてそうそうなかった。
でも今は……彼女のあの表情を見るだけで胸が痛む。
何故かはわからない。恐らくは過去に起きたことと照らし合わせて情を抱いているだけなのかもしれない。
本当は助けてあげたい、相談に乗ってあげたい。でもそれだけで全てが解決するのかと言えばそうでもない。
であるなら、今俺に出来ることは……
「……団長、いきなりですが剣を構えてはくれませんか?」
「えっ? それはどういうこと?」
「これから稽古をしましょう。俺と一対一の、手加減なしの決闘です」
「け、決闘……?」
突然の提案に戸惑うリーリア。
もちろん、意味もなくこんなことを言っているのではない。
結局自分の今後を決めるのは自分次第。崩れようがなんだろうが、それは自己責任になる。
要は自分自らの力で解決法を見つけなければならないわけだ。
でも、人って言うのは至って単純で何かのきっかけさえ掴めば、解決法なんて溢れるように出てくる。
他人がその人物の今後を決定的な形で左右することはできない。
だがそのきっかけを生む手伝いは、他人でもできる。
もちろん、今の俺にだってできることだ。
だからこそ、俺は彼女の手伝いをしたい。
”助ける”のではなく、”手伝う”という形で……
「ルールはこうしましょう。先に自分の手から剣が離れたらその時点で決闘終了、強化魔法を含む魔法は一切無しの”剣技のみ”での真剣勝負ということで」
「……なぜ、ですか?」
「えっ?」
「なぜ、貴方はそこまでしてわたしを……」
なぜ……か。正直自分でもよく分かっていないなんて言えない。
でも直感的に俺がそうしたいと願っているのは分かる。
今起こしているアクションも、その一つだ。
「別に大それた理由があるわけじゃないですよ。一度剣を交えてみたいなと思っていただけです。そう……”あの時”からね」
「……あの時?」
巨人と戦い、国と民を二人で救ったあの日。
俺は、リーリア・グレースレイドが今まで見せたことのなかった大きな一面を見た。
あの動き、隙の無い剣捌き、力強い剣技。
今でも強く印象に残っている。
だから一度戦ってみたかったというのは本当の話だ。
剣士は剣を交えることで互いを知ることができる。
もし彼女も俺と同じように剣士道を歩んできたのなら……
「判断は任せますよ。やりたくないのなら無理にとは言いません。俺もそれ以上は望みませんから」
「……」
沈黙が続く。
リーリアは俯き、じっと一点だけを見つめて何かを考えているような素振りを見せる。
そして、しばらくしてリーリアは顔をフッと上げると、俺にこう言い放った。
「……分かりました、その勝負受けてたちましょう。誇り高きグレースレイドの家訓を背負う騎士として、そして一組織を纏める者として勝負を挑まれたからには逃げるわけにはいきませんからね」
「そうですか。なら、早速始めましょうか」
「望むところです」
この決闘で全てが変わるとは思っていない。
でも、きっかけさえ作れればリーリアが本来あるべき姿に戻るための布石にはなるはずだ。
俺に彼女を頼んできたヴェルリールや彼女を心から信頼する団のみんなのためにも……
この勝負、負けるわけにはいかない!
「……」
少し俯き、虚ろな目で違う方向を見つめるリーリア。
俺の問いにも一言も発することなく、ただ無言を貫くだけだった。
「どうしてですか団長! 出張の話は嘘だったんですか!」
少し強めに問いただしてみると、リーリアは小さく口を動かし、
「……ごめんなさいゼナリオさん。全て、嘘なんです。ここに私がいることもあなた以外、城内誰一人として知る者はいません」
「……」
他にも問いただしたいことが山ほどある。でも、今のリーリアの表情から察するに精神的に追い込まれた状態である可能性が高い。
ここで質問攻めをしてしまっては恐らく逆効果だ。
彼女は今、何かを迷い、そして苦悩している。
あの顔は……かつて俺の戦友が見せた時の表情にそっくりだった。
結局そいつはその苦悩を取り払うことができず、自殺にまで追い込まれた。俺はそいつの近くに居ながら救うことが出来なかった。
周りの者たちも必死に元気づけようと奮闘したが、逆にそれが仇となり、聞き詰めたことによってさらにそいつを追い込んでしまった。
だからこそ、この状況は極めて危険なんだ。
少しでもその人が抱く苦しみの片鱗を傷つけてしまえば、人は簡単に壊れてしまう。
そう、かつての戦友のように。
これはあくまで俺の経験談だが、苦悩を取り払うか取り払えないかは結局のところ、己の心次第なんだと思う。
待っていれば誰かが助けてくれるわけでもないし、助けてくれたとしても何の解決にもならない時だってある。
己の道は己で決める。俺は今までそうやって生きてきたから苦悩に侵される日々なんてそうそうなかった。
でも今は……彼女のあの表情を見るだけで胸が痛む。
何故かはわからない。恐らくは過去に起きたことと照らし合わせて情を抱いているだけなのかもしれない。
本当は助けてあげたい、相談に乗ってあげたい。でもそれだけで全てが解決するのかと言えばそうでもない。
であるなら、今俺に出来ることは……
「……団長、いきなりですが剣を構えてはくれませんか?」
「えっ? それはどういうこと?」
「これから稽古をしましょう。俺と一対一の、手加減なしの決闘です」
「け、決闘……?」
突然の提案に戸惑うリーリア。
もちろん、意味もなくこんなことを言っているのではない。
結局自分の今後を決めるのは自分次第。崩れようがなんだろうが、それは自己責任になる。
要は自分自らの力で解決法を見つけなければならないわけだ。
でも、人って言うのは至って単純で何かのきっかけさえ掴めば、解決法なんて溢れるように出てくる。
他人がその人物の今後を決定的な形で左右することはできない。
だがそのきっかけを生む手伝いは、他人でもできる。
もちろん、今の俺にだってできることだ。
だからこそ、俺は彼女の手伝いをしたい。
”助ける”のではなく、”手伝う”という形で……
「ルールはこうしましょう。先に自分の手から剣が離れたらその時点で決闘終了、強化魔法を含む魔法は一切無しの”剣技のみ”での真剣勝負ということで」
「……なぜ、ですか?」
「えっ?」
「なぜ、貴方はそこまでしてわたしを……」
なぜ……か。正直自分でもよく分かっていないなんて言えない。
でも直感的に俺がそうしたいと願っているのは分かる。
今起こしているアクションも、その一つだ。
「別に大それた理由があるわけじゃないですよ。一度剣を交えてみたいなと思っていただけです。そう……”あの時”からね」
「……あの時?」
巨人と戦い、国と民を二人で救ったあの日。
俺は、リーリア・グレースレイドが今まで見せたことのなかった大きな一面を見た。
あの動き、隙の無い剣捌き、力強い剣技。
今でも強く印象に残っている。
だから一度戦ってみたかったというのは本当の話だ。
剣士は剣を交えることで互いを知ることができる。
もし彼女も俺と同じように剣士道を歩んできたのなら……
「判断は任せますよ。やりたくないのなら無理にとは言いません。俺もそれ以上は望みませんから」
「……」
沈黙が続く。
リーリアは俯き、じっと一点だけを見つめて何かを考えているような素振りを見せる。
そして、しばらくしてリーリアは顔をフッと上げると、俺にこう言い放った。
「……分かりました、その勝負受けてたちましょう。誇り高きグレースレイドの家訓を背負う騎士として、そして一組織を纏める者として勝負を挑まれたからには逃げるわけにはいきませんからね」
「そうですか。なら、早速始めましょうか」
「望むところです」
この決闘で全てが変わるとは思っていない。
でも、きっかけさえ作れればリーリアが本来あるべき姿に戻るための布石にはなるはずだ。
俺に彼女を頼んできたヴェルリールや彼女を心から信頼する団のみんなのためにも……
この勝負、負けるわけにはいかない!
0
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる