転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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40.裏庭

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 とある日の早朝、俺はいつもより早くに目を覚ました。

「……朝、か」

 カーテンの隙間から差し込んだ光が俺の目に当たる。

「ん、しょっと」

 ベッドから出て、俺は部屋のカーテンを全開に開き、バルコニーに繋がる扉を少しだけ開ける。
 まだ日は完全に昇っておらず、薄暗かった。

「ここへ来てもう二週間以上が経つのか……」

 気が付けば、俺がこの世界に来てから三週間以上、国家騎士になって二週間以上が経過していた。
 
 そして、ヴェルリールにリーリアのことを頼まれてから一週間、結局俺は何もできず、苦悩する日々を過ごしていた。

「はぁ……あれから全然リーリアとの波長が合わないな。会いに行こうとしたらよりにもよって総会が入るなんて……」

 ヴェルリールの話を聞いた日の翌日、俺は早速リーリアの本心を探るべく行動を始めていた。
 もちろん、側近騎士や部隊長の仕事も同時進行で行い、隙間時間を見つけてはリーリアに接触をしようと試みた。

 のだが……

「まさか、あの日から一度も顔を会わせることがないなんてな……」
 
 世の中とは上手く出来ている。
 俺はあの日、騎士団再建計画への参加をリーリアから頼まれた時から一度も顔を会わせられずにいた。

 神の悪戯なのか何なのかは知らないが、悉くすれ違ってリーリアと会う機会を逃し、終いには国内の騎士団の団長のみが集まる定例会議、騎士団総会への参加の為、現在は出張中とのこと。
 しかも帰城予定日はまさかの一週間後。場所が辺境の小都市で行われるため、移動だけでも二日はかかるのだそうだ。

 ホント、不運すぎるのもほどがある。

「もういっそ帰ってくるまで城の門前で待機してやろうかな……」

 捨て台詞の吐きながらも、俺はバルコニーへ出る。
 今日は早朝ながら気温は温かく、肌寒さは一切なかった。

 むしろ温かい風が心地よく吹き、気分が落ち着くほど最高の朝だった。
 
「朝鍛錬にはもってこいの日だな」

 最近、多忙の影響もあってか朝鍛錬が出来ない日が続いていた。
 朝は早く、夜は遅いという環境下で働く日が多かったため、朝鍛錬なんてやっている暇がなかったのだ。

 というか、朝鍛錬をやるほど早く起きられないという理由が大きい。

 でも今日は珍しく早く起床し、その上気分も良い。
 天気も良好だ。

(今日は朝鍛錬が出来そうだな)

 今日くらいは……と思いながら俺はふと庭を見つめる。

 ……と、

「……ん、なんだ?」

 バルコニーから見える城の裏庭に一人の人間の影。その者は何やら模造剣のようなものを振っているようでちょうど庭木に隠れて見えない位置にいた。

「こんな時間に……一体誰だ?」

 一般兵はまだみんな寝ている時間帯だ。それに、木刀であろうが武器を用いた鍛錬をするのであれば演習場でやらなければならないというルールがある。
 俺も朝鍛錬を行う時は必ず演習場へと足を運ばせていた。

 ま、言ってみればあそこで鍛錬している輩はルール違反を犯していることになる。

 でも誰なんだろうか? セシアやベールは規則に忠実だからあり得ないし、ライドも同様だ。
 ヴェルリールやリベルは非戦闘者だから関係ないし、ジョージは木刀を用いて鍛錬をするような人じゃないから可能性は低い。

(なら……誰だ?)

 かなり気になる。

「まだ側近騎士の仕事までだいぶ時間があるし、少し覗いてみるか」

 と、いうことで俺はすぐに裏庭の方へと向かうことに。
 
 この城の裏庭はあまり人目につかず、人が立ち寄ることは少ない。
 俺は仕事の合間に外の空気を吸うために、裏庭に行く時があったが、その時も人がいたところを見たことはなかった。

「えーっと、こっちのほうだったかな」

 しかもこの裏庭はとんでもなく分かりにくい場所にあり、経路もごちゃごちゃと迷路のようになっているためか迷子になりやすい。
 初めはあんなところに庭が……って感じだった。
 
 俺の場合はたまたま部屋から裏庭を覗くことができたため、発見できたが、もしかするとみんなは裏庭があるってことに気が付いていないのかもしれない。

 だからこの裏庭に人がいるという時点で珍しいことなのだ。しかもこんな早朝に。

「もう少し奥だったか……ん?」

 俺は足を止め、耳を澄ます。
 すると、ブンブンと何かを振るような音がかすかに聞こえてきた。

 距離は少しだけあるが、間違いない。

 恐らく、さっきバルコニーから見た木刀らしきものを振り回していた謎の人物だろう。
 
(近いな……)

 気が付かれないよう、念のため足音を殺しながら進む。
 そして少しだけ進むと、二つの分岐点が現れた。
 
 一つは狭く、もう一方は広い道へと繋がっていた。

「どっちだ……?」

 音を聞く限り、広い道のある方向っぽい。
 それに狭い方の道は足場が歩く、人が通るにしては酷な道だった。

「俺が行くとしたら、こっちだな」

 俺は迷わず、広い方の道を選び、さらに奥へと進んでいく。
 すると――

「なんだ、この音は? 水が流れる音?」

 その音に引き寄せられるように歩くペースを上げる。
 と、目の前に見えてきたのは見たこともないような大きな噴水だった。

 そこは広場のようになっており、奥には一軒の小屋らしきものも見えた。

(噴水広場か。まさかこんなところにこんな場所があったなんてな)

 あまりにも大きな噴水に目を奪わそうになるが、俺はある”存在”を見逃さなかった。

「ん、なんだ? 誰かいる!?」

 すぐに近くの物陰に隠れ、目を凝らす。
 すると噴水の裏側に確かに見える人の影。恐らく後姿なのだろうが、振っているのは間違いなく城の武器庫に保管されている訓練用の模造剣だった。

「一体誰なんだ?」

 とりあえず、城内の人間であることは間違いない。
 と、なれば今の目の前にいる輩はルール破りの違反者だ。

 しかもこんな人が絶対に立ち寄らない場所でコソコソと模造剣を振り回している。
 大抵のことは慈悲で見逃してやりたいところだが、ルールを作ったのは我らの団長。その団長に背くことは許されることではない。

 俺は今まで団員に叱責をくらわしたことはないが、たまにはそういうこともしないといけないだろう。
 それは下の者を育てるための上に立つ者としての責務だ。

「……ふぅ、よし」

 だったらもう隠れる必要なんてなし。
 俺は堂々と噴水の裏側まで歩いていく。

 そしてその人物の姿が眼球に入って来る寸前に俺は声をかけようとした。

「おい、お前そこでなに―――をっっ!?」

 俺は姿が鮮明に見えた瞬間、自分の目を疑った。
 何故ならその人物の正体が、意外というか絶対に予想もつかないような人物だったからだ。
 
 しかも、コソコソと何かをやる人とも思っていなかった。
 いつもマジメで真摯に人と向き合うようなそんな人が……なぜ?
 
「リーリア……団長?」
「……ゼナリオくん?」

 ふと出た言葉に反応し、彼女もこちらの方へ身体を向ける。

 そう。その正体とは我らが団長、リーリア・グレースレイドだったのだ。
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