転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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60.覚悟

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 久々の更新となります。

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「こりゃマズイな。まさか森にこんな奴らが潜んでいたとは……」

 男が冷や汗を流し、そう呟く。

「おいおいおい、冗談だろこれ!」

 レオスも同じくいきなりのことで動揺していた。
 この中で唯一何とも思わなかったのは俺だけだろうか。
 
 まぁ正直な所、魔物なんて今まで何度も相手にしてきたし任務中に乱入されたこともよくあった。
 もちろん、その時はソロだったので俺が全部纏めて相手にしたけど。

 だが今回は……

(数が少し多いな。夜行性の魔物にしては珍しい)

 周りを見渡しても逃げ道は見つからない。
 どうやら完全に囲い込まれたようだ。

「……戦うしか、ないな」
「ま、マジかよゼナリオ! この数だぞ!?」

 俺の一言に驚くレオス。
 だが俺は何一つ表情を変えずに、

「だけど逃げ道は完全に塞がれた。逃げるにせよ、その道を開くためにはこいつらと戦う以外に方法はない」
「だ、だけどよ……!」
「坊主の言う通りだ。今は戦う以外に方法はない」
「お、おっさんまで……」

 戸惑うレオス。確かにその気持ちはよく分かる。
 俺も新兵の頃はそうだった。

 どうしようもない状況だとしても勝てる見込みの薄い戦いを避けたがる習性。
 命に関わることで人が本能的に起こす行動だ。

 だけどなレオス。そんな様じゃ俺たちの世界は生きていけないんだ。
 逃げてばかりじゃ……いつか喰われてしまう。

 だが俺も新兵に無理矢理戦えと鞭を打てるほど人を厳しくすることはできない。
 だからこそ、一応レオスに戦う意思があるかを聞いてみることにした。

「別にお前は無理して戦う必要はないんだ。俺の傍で隠れていてもいいんだぞ」
「……お、お前それ本気で言っているのか? ただでさえこの数を相手にするだけでも大変だろうに俺を守りながらなんて……」
「俺はそれでも全然構わないが?」
「ま、マジかよ……」

 心配してくれるのはあり難い。
 だけど残念ながら俺の経験からすれば今の状況は修羅場にすらなり得ない些細なこと。
 
 守りながら戦えばちょうどいいくらいじゃないかとまで思っている。
 
 それに、相手は人じゃなく魔物だからな。
 躊躇なく思いっきり暴れられるから尚更のことだ。

「どうする? 戦うか身を潜めて戦わないか。早く選べ」
「……」
 
 あまりこういう選択を強制したくはないんだが、ここは戦場。
 一瞬の気の迷いが死に直結する。
 そして今がその典型的な状況だ。

 レオスは額に汗を滴らせ、顔を強張らせる。
 
 そして数秒経った後――

「いや、俺も戦うよ。ゼナリオ」
「……本当に戦う意思があるのか?」
「ああ。俺だけ隠れてコソコソしろなんて納得がいかねぇ。俺にだってプライドってもんがあるんだ」

 レオスの表情は激変。
 先まで険しさを見せていた表情が一気に柔軟になり、覚悟を感じるような面構えとなっていた。
 
(なんだ、俺は戦わないっていうかと思ったけど)

 結構やる気で安心したよ。

「そうか。なら、一緒に戦おうぜ。親友」
「おうっ!」

 気合いの入ったレオスの返答。これですることは決まった。
 
 とりあえずはこの包囲網を何とかして逃げ道を作る。
 まずはそれからだ。

「……二人とも、もう覚悟はできたのか?」
「大丈夫ですよ」
「俺も大丈夫だ!」
「ふっ、そうか。頼もしい新兵さんたちで安心したよ」
「へっ、だろ?」

 調子に乗ってきたのかレオスは自信で満ち溢れているようだった。
 
 てかおじさんや、俺は新兵じゃないんだが?

 ……というツッコミをしたいがそれはひとまず心の中にしまっておく。
 
 指揮は経験の関係から敵軍の男が執ることになった。
 
「よし……総員、戦闘準備!」

 俺とレオスは武器を構え、姿勢を低くする。
 魔物たちは依然としてこちらを睨み、その鋭い牙をギシギシとさせながら威嚇してくる。

 向こうも向こうで俺たちのことを警戒しているようだ。
 その辺の阿呆なモンスターと違ってバカではないらしい。

(一応、気を引き締めておくか)

 夜風でカサカサと揺れる木の葉の音が緊張感をかきたたせる。
 周りは真っ暗で見えるのは魔物たちの紅い眼光のみ。
 
 頼れるのはテントの中でぶら下げていた小さなランタンのみだ。
 魔法は出来る限り、使いたくないからな。

「……お前たち、準備はいいな?」
「いつでも」
「右に同じだ」

 覚悟は決まった。
 そして男の指示によって遂にその時が来る。
 
「よし、では……総員、戦闘開始だッッ!」

 こうして、俺たちの生き残りをかけた戦いが始まったのだった。
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