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第1章 おっさん、魔術講師になる
第11話 名誉をかけて
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俺、レイナード・アーバンクルスは講師室でレーナと共に雑務をしていた。
「はぁ……」
「また溜息ですか? あまり溜息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」
「どこの国の言い伝えだよ、それ」
止まらない溜息、そしてこの資料の山。
新任講師のくせに仕事量がかなり多かった。
身体が蝕まれていることを実感できるくらい辛い日々を送っていたのだ。
助手としてレーナをつけてくれていなかったらと考えただけでも恐ろしい。
彼女は魔術講師という名目でこの学園に勤務し始めたのだが、去年は事務員として働いていたためこのような雑務の作業スピードは並大抵のものではなかった。
俺が1個終わらせれば、彼女は10個終わっているような感覚だ。
そういう点では元英雄の俺をはるかに凌駕していると言える。
職人技のように処理していくのでみるみる大量の資料がデスクから無くなっていく。
それでもまだこれだけの山になっているわけなのだが……
「……まったく終わる気配がない。その上、放課後には……」
「そんな顔しないでくださいレイナード。私もサポートしますから!」
沈んだ顔をする俺を全力で励ますレーナ。
いつものことではあるのだが、こういう時に一番感じるのは年の差だ。
若い頃だとやる気がなくてもやればこなせることが多いが、年を取るとそれができなくなる。
年を重ねるのに比例して活力が無くなってくるのだ。
俺の場合は特にやる気がないので余計辛い。
「レーナ、放課後はどこにいけばいいんだ?」
「確か、地下演習場だった気がします」
放課後というのは先ほどいきなり勝負を挑んできたラルゴ・ノートリウムの件だ。
正直やるべきことが終わったら帰りたい。明日も仕事があるし、無駄な寄り道は極力避けたいのだ。
最初は黙って帰ろうと思ったが、それをやると後々面倒なことになるということが予想できるのでやめることにした。
「まぁ……勝負なんてさっさと終わらせて帰るがな」
「でもあまり油断しない方がいいですよ。ラルゴ先生はああ見えて現役の宮廷魔術師ですからね」
「宮廷魔術師?」
「はい。王国直属の魔術師団『白王の陣』の若き実力者として結構有名なんですよ。その力量は現団長のシュバイト様にも引けを取らない実力だとか」
「ほー」
なるほど、人気に執着する理由は宮廷魔術師としての顔もあるからなのか。
魔術師志望なら誰もが憧れ、目標とする宮廷魔術師。
現役でやっている人間で講師として招かれれば憧れを持つ者なんか歓喜に湧く事だろう。人気が出ないはずがない。
ちなみに俺は宮廷魔術師だろうが王国騎士団だろうが全く興味を示さなかった。むしろ下に見ていたくらいだ。
レーナから情報を貰った後、ひたすら雑務をし、気が付けば放課後になっていた。
「ふぅ……やっと終わった……」
「お疲れ様です。レイナード」
「ああ、レーナも長々とありがとうな」
「い、いいえ! 私はレイナードの助手ですから当たり前のことですよ」
お礼を言われて嬉しかったのかレーナの猫耳がピクピク動いている。
(怒っていた時といい、面白いなこの猫耳。なんでこんなもの付けているのか未だに知らんけど)
「それよりそろそろ行かないとじゃないですか?」
レーナが記憶していた集合時間だともうそろそろだった。
俺はあの時テキトーに話を流していたため、いつ、どこでやるのかを全く聞いていなかった。
とりあえずレーナの情報を頼りに集合場所へと行ってみる。
「ここって地下にも演習場があるのか?」
「あ、はい。地下演習場はコロシアムのようになっていて授業での実戦練習や決闘などをする時に用いられますね」
「なるほどな」
地下演習場に続く階段を下り、進んでいくと入り口であろう巨大な扉が姿を現した。
扉の前に立つと何もすることもなく勝手に開き始める。
そして中に入ると、
「―――レイナードせんせー!」
「―――ラルゴ先生!」
「……なんだこれは」
「これは……すごいですね」
入った途端、コロシアム内は熱狂の渦に巻き込まれた。
客席は超満員。360度どこを見ても人が視界に入る。
そして奥の方から先ほど俺に勝負を挑んできた愚か者、ラルゴの姿が見えた。
「ようこそお越しくださいました。レイナード先生、レーナ先生」
「おい、これは一体どういうことなんだ」
ラルゴは微少な笑みを浮かべながら、
「勝負をするからにはギャラリーがいないと楽しくないでしょう? こんなにも広いステージで二人だけというのも寂しいではないですか」
「ああ、そうかい」
(ますます愚かな奴だ。ここまでお膳立てしといて負けたらどうするつもりなんだろうか)
だが、そんなことはもはやどうでもいい。俺はとにかく早く終えて帰ることばかり考えていた。
こんな大観衆に囲まれでもしたら帰るどころか命が危ない。
「で、何をやるんだ?」
「もちろん、決闘ですよ」
「分かった。じゃあ、はよ構えろ」
俺が戦闘モードの姿勢に入ると、ラルゴは慌てて俺を止める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。こういうのは前置きが重要なんですから!」
「っ……!」
とことん面倒な奴である。なぜそんなくだらないことに趣を求めるのか理解に苦しむ。
だが、ここまで来てしまったらもう相手のペースに乗っかるしかない。
俺は面倒くさそうな表情を必死に押し殺して相手の思い通りに動く。
『それではこれより、魔術専攻の1年A組担任、レイナード先生と同じく1年B組担任、ラルゴ先生による決闘を開催したいと思います』
アナウンスが流れ、音楽隊が盛大に演奏を奏でる。
たかが、決闘ごときに凄い演出だ。
演奏が終わると、決闘の勝敗を決めるジャッジが姿を現す。
だが、オレはそのジャッジにすぐ違和感を感じた。
「おい、お前そこで何をしている?」
「あ……ばれちった?」
変装をしているが、すぐに分かった。
学園長のフィーネだ。
「変装をしてごまかせるほど俺は甘くない。というか学園長たるお前がこんな所で遊んでいていいのか?」
「別にいいじゃない! なんか面白そうなことやるって聞いたから飛んできたのよ」
「ちっ……他人事のように」
「まっ、殺さない程度にね~」
「黙れ。引っ込んでいろ」
いつものように煽られた所でいよいよ決闘が始まる。
「それでは両者前へ」
ジャッジに扮したフィーネが判定の白旗を揚げる。
「ワタクシは一瞬たりとも手を抜くつもりはないので……お覚悟を、レイナード先生」
「好きにしろ」
(はぁ……しんどい)
俺は怠くて重い身体を支えながら、始まりの時を待つ。
「はぁ……」
「また溜息ですか? あまり溜息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」
「どこの国の言い伝えだよ、それ」
止まらない溜息、そしてこの資料の山。
新任講師のくせに仕事量がかなり多かった。
身体が蝕まれていることを実感できるくらい辛い日々を送っていたのだ。
助手としてレーナをつけてくれていなかったらと考えただけでも恐ろしい。
彼女は魔術講師という名目でこの学園に勤務し始めたのだが、去年は事務員として働いていたためこのような雑務の作業スピードは並大抵のものではなかった。
俺が1個終わらせれば、彼女は10個終わっているような感覚だ。
そういう点では元英雄の俺をはるかに凌駕していると言える。
職人技のように処理していくのでみるみる大量の資料がデスクから無くなっていく。
それでもまだこれだけの山になっているわけなのだが……
「……まったく終わる気配がない。その上、放課後には……」
「そんな顔しないでくださいレイナード。私もサポートしますから!」
沈んだ顔をする俺を全力で励ますレーナ。
いつものことではあるのだが、こういう時に一番感じるのは年の差だ。
若い頃だとやる気がなくてもやればこなせることが多いが、年を取るとそれができなくなる。
年を重ねるのに比例して活力が無くなってくるのだ。
俺の場合は特にやる気がないので余計辛い。
「レーナ、放課後はどこにいけばいいんだ?」
「確か、地下演習場だった気がします」
放課後というのは先ほどいきなり勝負を挑んできたラルゴ・ノートリウムの件だ。
正直やるべきことが終わったら帰りたい。明日も仕事があるし、無駄な寄り道は極力避けたいのだ。
最初は黙って帰ろうと思ったが、それをやると後々面倒なことになるということが予想できるのでやめることにした。
「まぁ……勝負なんてさっさと終わらせて帰るがな」
「でもあまり油断しない方がいいですよ。ラルゴ先生はああ見えて現役の宮廷魔術師ですからね」
「宮廷魔術師?」
「はい。王国直属の魔術師団『白王の陣』の若き実力者として結構有名なんですよ。その力量は現団長のシュバイト様にも引けを取らない実力だとか」
「ほー」
なるほど、人気に執着する理由は宮廷魔術師としての顔もあるからなのか。
魔術師志望なら誰もが憧れ、目標とする宮廷魔術師。
現役でやっている人間で講師として招かれれば憧れを持つ者なんか歓喜に湧く事だろう。人気が出ないはずがない。
ちなみに俺は宮廷魔術師だろうが王国騎士団だろうが全く興味を示さなかった。むしろ下に見ていたくらいだ。
レーナから情報を貰った後、ひたすら雑務をし、気が付けば放課後になっていた。
「ふぅ……やっと終わった……」
「お疲れ様です。レイナード」
「ああ、レーナも長々とありがとうな」
「い、いいえ! 私はレイナードの助手ですから当たり前のことですよ」
お礼を言われて嬉しかったのかレーナの猫耳がピクピク動いている。
(怒っていた時といい、面白いなこの猫耳。なんでこんなもの付けているのか未だに知らんけど)
「それよりそろそろ行かないとじゃないですか?」
レーナが記憶していた集合時間だともうそろそろだった。
俺はあの時テキトーに話を流していたため、いつ、どこでやるのかを全く聞いていなかった。
とりあえずレーナの情報を頼りに集合場所へと行ってみる。
「ここって地下にも演習場があるのか?」
「あ、はい。地下演習場はコロシアムのようになっていて授業での実戦練習や決闘などをする時に用いられますね」
「なるほどな」
地下演習場に続く階段を下り、進んでいくと入り口であろう巨大な扉が姿を現した。
扉の前に立つと何もすることもなく勝手に開き始める。
そして中に入ると、
「―――レイナードせんせー!」
「―――ラルゴ先生!」
「……なんだこれは」
「これは……すごいですね」
入った途端、コロシアム内は熱狂の渦に巻き込まれた。
客席は超満員。360度どこを見ても人が視界に入る。
そして奥の方から先ほど俺に勝負を挑んできた愚か者、ラルゴの姿が見えた。
「ようこそお越しくださいました。レイナード先生、レーナ先生」
「おい、これは一体どういうことなんだ」
ラルゴは微少な笑みを浮かべながら、
「勝負をするからにはギャラリーがいないと楽しくないでしょう? こんなにも広いステージで二人だけというのも寂しいではないですか」
「ああ、そうかい」
(ますます愚かな奴だ。ここまでお膳立てしといて負けたらどうするつもりなんだろうか)
だが、そんなことはもはやどうでもいい。俺はとにかく早く終えて帰ることばかり考えていた。
こんな大観衆に囲まれでもしたら帰るどころか命が危ない。
「で、何をやるんだ?」
「もちろん、決闘ですよ」
「分かった。じゃあ、はよ構えろ」
俺が戦闘モードの姿勢に入ると、ラルゴは慌てて俺を止める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。こういうのは前置きが重要なんですから!」
「っ……!」
とことん面倒な奴である。なぜそんなくだらないことに趣を求めるのか理解に苦しむ。
だが、ここまで来てしまったらもう相手のペースに乗っかるしかない。
俺は面倒くさそうな表情を必死に押し殺して相手の思い通りに動く。
『それではこれより、魔術専攻の1年A組担任、レイナード先生と同じく1年B組担任、ラルゴ先生による決闘を開催したいと思います』
アナウンスが流れ、音楽隊が盛大に演奏を奏でる。
たかが、決闘ごときに凄い演出だ。
演奏が終わると、決闘の勝敗を決めるジャッジが姿を現す。
だが、オレはそのジャッジにすぐ違和感を感じた。
「おい、お前そこで何をしている?」
「あ……ばれちった?」
変装をしているが、すぐに分かった。
学園長のフィーネだ。
「変装をしてごまかせるほど俺は甘くない。というか学園長たるお前がこんな所で遊んでいていいのか?」
「別にいいじゃない! なんか面白そうなことやるって聞いたから飛んできたのよ」
「ちっ……他人事のように」
「まっ、殺さない程度にね~」
「黙れ。引っ込んでいろ」
いつものように煽られた所でいよいよ決闘が始まる。
「それでは両者前へ」
ジャッジに扮したフィーネが判定の白旗を揚げる。
「ワタクシは一瞬たりとも手を抜くつもりはないので……お覚悟を、レイナード先生」
「好きにしろ」
(はぁ……しんどい)
俺は怠くて重い身体を支えながら、始まりの時を待つ。
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