元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第1章 おっさん、魔術講師になる

第14話 レーナの過去


「昔、私には感情がなかったんです」

 癒しのそよ風が吹くとある森の木陰でレーナは自分の過去を語る。

「感情がない……?」
「はい、私には喜怒哀楽というものがありませんでした。これは生まれつきではなくてとあることがきっかけでそうなってしまったんです」
「とあること?」

 レーナはいつもの明るい表情から一転、何か悲しみを感じる表情に変わった。
 話を聞くとレーナの家系は先祖代々伝わる魔剣作りの名家だった。
 彼女の本名はレーナ・マグルリュート。魔剣使いの冒険者からすれば知らない者はいないくらい有名だった。


 ―――マグルリュート家。
 
 何百年もの歴史を持つ鍛冶師の名家である。
 特に魔剣は一種のブランドとして世に定着していた。
 この世にいくつもの有能な魔剣を生み出し、実力のある魔剣使いが使う魔剣は大体マグルリュート製の物だった。

 だが、数十年前に事件は起こった。
 それはレーナの父である、マークス・マグルリュートの夜逃げだった。
  まだレーナが10の年にも満たなかった時だ。
 
 家主の失踪はマグルリュート家に大ダメージを負わせた。

 それもそのはず、家主のマークスは魔剣を作るための設計図や素材のレシピを全て持ちさって消えたのである。
 雇われていた鍛冶師たちも魔剣の作り方の詳細を知らず、知っているのは彼ただ一人だったのだ。

 これにより魔剣を作れなくなったマグルリュート家は魔剣作りを依頼されていた者たちや発注先の他の国から猛反発を受けるようになった。
 本家にも毎日のように依頼主が訪れ、金を返すように要求する。
 当然、硬貨もマークスに持ち去られたため払える金など残っていなかった。
 毎日のように訪れる来客に必死に頭を下げる母親。その姿をレーナはずっと見てきたのだ。
 終いにはその怒りの矛先が自分にも向くようになり、母親同様ひどい扱いを受けてきたらしい。

 どこへ逃げても追いかけてくる。自分たちは何も悪くないのに……
 捕まれば母親と同様に奴隷のように扱われ、かの有名なマグルリュートという名家の面影は無くなっていた。
 奴隷として扱われるにつれてレーナは感情と言葉を失っていった。
 笑いもせず、泣きもせず、怒りもしない。
 まるで言葉を発しない機械人形のように生きていたのだ。

「それで……その後どうなったんだ?」
「拾われたんです。命の恩人に」
「恩人?」





 それから半年ほどの歳月が過ぎた。
 母親は過労で他界。とうとう自分一人になってしまった。
 かくいう自分も身体に限界がきており、いつ死んでもおかしくない状態だったのだ。
 奴隷が休む場所なんてない。毎回外で寝泊まりしていた。
 それが彼女にとっては当たり前だったのだ。

 逃げ出す気力もなく、ただひたすらに生きていたのだ。

 そしてとある大雨の日の夜。
 彼女は薄い布切れ一枚を羽織り、うなだれていた。

 雨の日は大幅に気温が下がる。
 ようやく10の年を越えた小さな身体に雨の日の寒さは極寒に等しかった。
 今すぐにでも死者の世界にいける。そんな勢いだった。

 そのときであった。

「おい、どうした。しっかりするんだ」

 残る気力で首を上げると一人の若い男がこちらを見ていた。
 背丈は高く、年は20代後半くらいだった。

「かなり冷えている……このままでは」

 するとその男はレーナを担ぎ、町の外れにある小さな小屋まで運んだ。

「おい、これでも飲んで元気を出せ」

 彼はそっとレーナの前に温かいスープを差し出す。
 だが彼女は全くもって微動だにしない。
 ずっと俯き、表情は一切変えず、身体は死人のように血色が悪かった。

 ただひたすらに身震いして寒いということしか伝わらなかった。

「お前、なぜあんなところに一人でいた?」

 若い男は質問をする。
 だが、レーナは黙り続け一向に口を開く気配がない。

「ま、まぁ言いたくないなら無理にとは言わん。とりあえず食え。そのままじゃ確実に死ぬぞ」

 すると彼女はようやくスプーンを持ち、スープをすくう。
 そしてガタガタと震えた腕で口にまで持っていく。

「……!」

 温かい。こんなに温かい物を食べたのはいつぶりだろう。
 今まで封をしてきた感情がじわじわと込み上げてくる。
 気が付けば目からは大量の涙で溢れていた。

「おいしいか?」

 若い男はレーナにそっと聞く。

「……おい……しい……です……」

 死人のようだったレーナの口から言葉が戻ってくる。

 嬉しかった。まだ自分は生きていていいんだ。
 そう思った。

「そうか、それは良かった」

 若い男は僅かな笑みを浮かべる。

 
 * * *



「そうか、そんなことが……」
「はい、そしてこの猫耳は感情が乏しかった当時の私に恩人の方から頂いたものなんです。微量の魔力が込められていて感情の変化で形状が変わるマジックアイテムです」
「それを今でも付けていると……」
「はい、手放せなくて……私にとってはお守りみたいなものなんです」
「なるほどな……」

 彼女の壮絶な過去を聞き、言葉選びに迷う。
 こういう時はなんて言ったらよいのか……

「……良かったな」
「え……?」
「恩人に出会えて」

 こう言うと彼女は控えめな笑みを浮かべ、

「はい……あの方があの場所に来なければ今の私はいませんでした。本当に感謝しています」

 昼下がり。時間が進むに連れてだんだんと涼しくなっていく。
 薫風を匂わせる風が俺たちを包む。

(……やばい眠たくなってきた)

 あまりの居心地の良さに睡魔が襲ってくる。
 最近よく寝れていなかったのもあってか耐えるほどの気力を持っていなかった。

(くそっ、耐えられん……)

 

 俺はそのまま目を瞑ってしまい、夢の世界へと誘(いざな)われた。
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