14 / 127
第1章 おっさん、魔術講師になる
第14話 レーナの過去
「昔、私には感情がなかったんです」
癒しのそよ風が吹くとある森の木陰でレーナは自分の過去を語る。
「感情がない……?」
「はい、私には喜怒哀楽というものがありませんでした。これは生まれつきではなくてとあることがきっかけでそうなってしまったんです」
「とあること?」
レーナはいつもの明るい表情から一転、何か悲しみを感じる表情に変わった。
話を聞くとレーナの家系は先祖代々伝わる魔剣作りの名家だった。
彼女の本名はレーナ・マグルリュート。魔剣使いの冒険者からすれば知らない者はいないくらい有名だった。
―――マグルリュート家。
何百年もの歴史を持つ鍛冶師の名家である。
特に魔剣は一種のブランドとして世に定着していた。
この世にいくつもの有能な魔剣を生み出し、実力のある魔剣使いが使う魔剣は大体マグルリュート製の物だった。
だが、数十年前に事件は起こった。
それはレーナの父である、マークス・マグルリュートの夜逃げだった。
まだレーナが10の年にも満たなかった時だ。
家主の失踪はマグルリュート家に大ダメージを負わせた。
それもそのはず、家主のマークスは魔剣を作るための設計図や素材のレシピを全て持ちさって消えたのである。
雇われていた鍛冶師たちも魔剣の作り方の詳細を知らず、知っているのは彼ただ一人だったのだ。
これにより魔剣を作れなくなったマグルリュート家は魔剣作りを依頼されていた者たちや発注先の他の国から猛反発を受けるようになった。
本家にも毎日のように依頼主が訪れ、金を返すように要求する。
当然、硬貨もマークスに持ち去られたため払える金など残っていなかった。
毎日のように訪れる来客に必死に頭を下げる母親。その姿をレーナはずっと見てきたのだ。
終いにはその怒りの矛先が自分にも向くようになり、母親同様ひどい扱いを受けてきたらしい。
どこへ逃げても追いかけてくる。自分たちは何も悪くないのに……
捕まれば母親と同様に奴隷のように扱われ、かの有名なマグルリュートという名家の面影は無くなっていた。
奴隷として扱われるにつれてレーナは感情と言葉を失っていった。
笑いもせず、泣きもせず、怒りもしない。
まるで言葉を発しない機械人形のように生きていたのだ。
「それで……その後どうなったんだ?」
「拾われたんです。命の恩人に」
「恩人?」
それから半年ほどの歳月が過ぎた。
母親は過労で他界。とうとう自分一人になってしまった。
かくいう自分も身体に限界がきており、いつ死んでもおかしくない状態だったのだ。
奴隷が休む場所なんてない。毎回外で寝泊まりしていた。
それが彼女にとっては当たり前だったのだ。
逃げ出す気力もなく、ただひたすらに生きていたのだ。
そしてとある大雨の日の夜。
彼女は薄い布切れ一枚を羽織り、うなだれていた。
雨の日は大幅に気温が下がる。
ようやく10の年を越えた小さな身体に雨の日の寒さは極寒に等しかった。
今すぐにでも死者の世界にいける。そんな勢いだった。
そのときであった。
「おい、どうした。しっかりするんだ」
残る気力で首を上げると一人の若い男がこちらを見ていた。
背丈は高く、年は20代後半くらいだった。
「かなり冷えている……このままでは」
するとその男はレーナを担ぎ、町の外れにある小さな小屋まで運んだ。
「おい、これでも飲んで元気を出せ」
彼はそっとレーナの前に温かいスープを差し出す。
だが彼女は全くもって微動だにしない。
ずっと俯き、表情は一切変えず、身体は死人のように血色が悪かった。
ただひたすらに身震いして寒いということしか伝わらなかった。
「お前、なぜあんなところに一人でいた?」
若い男は質問をする。
だが、レーナは黙り続け一向に口を開く気配がない。
「ま、まぁ言いたくないなら無理にとは言わん。とりあえず食え。そのままじゃ確実に死ぬぞ」
すると彼女はようやくスプーンを持ち、スープをすくう。
そしてガタガタと震えた腕で口にまで持っていく。
「……!」
温かい。こんなに温かい物を食べたのはいつぶりだろう。
今まで封をしてきた感情がじわじわと込み上げてくる。
気が付けば目からは大量の涙で溢れていた。
「おいしいか?」
若い男はレーナにそっと聞く。
「……おい……しい……です……」
死人のようだったレーナの口から言葉が戻ってくる。
嬉しかった。まだ自分は生きていていいんだ。
そう思った。
「そうか、それは良かった」
若い男は僅かな笑みを浮かべる。
* * *
「そうか、そんなことが……」
「はい、そしてこの猫耳は感情が乏しかった当時の私に恩人の方から頂いたものなんです。微量の魔力が込められていて感情の変化で形状が変わるマジックアイテムです」
「それを今でも付けていると……」
「はい、手放せなくて……私にとってはお守りみたいなものなんです」
「なるほどな……」
彼女の壮絶な過去を聞き、言葉選びに迷う。
こういう時はなんて言ったらよいのか……
「……良かったな」
「え……?」
「恩人に出会えて」
こう言うと彼女は控えめな笑みを浮かべ、
「はい……あの方があの場所に来なければ今の私はいませんでした。本当に感謝しています」
昼下がり。時間が進むに連れてだんだんと涼しくなっていく。
薫風を匂わせる風が俺たちを包む。
(……やばい眠たくなってきた)
あまりの居心地の良さに睡魔が襲ってくる。
最近よく寝れていなかったのもあってか耐えるほどの気力を持っていなかった。
(くそっ、耐えられん……)
俺はそのまま目を瞑ってしまい、夢の世界へと誘(いざな)われた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )