元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第3章 おっさん、冒険をする

第35話 勝利への布石

「レイナード、昨日は一体何を買っていたんですか?」
「ん? ああ、これだ」

 時は次の日の朝を迎えていた。
 俺たちは捕らわれたハルカの救出と奴らの怪しげな動向を暴くべく、作戦会議を行おうとしていた。
 
 そして俺が手に持ってたのは二つの小瓶であった。

「これは……なんですか?」

 小さい子が初めて物を見るような目で小瓶を見つめる。

「これは変幻薬って言って一定時間、自身をあらゆる物ものへと変化させることができる秘薬だ」
「変化……ということは生物ならなんにでも変化させることができるんですか?」
「ああ、そうだ。ただ……人間から人間に変化させることは少し面倒でな」
「自分以外の誰かにカモフラージュする、ということですか?」
「そうだ。動物とかなら今すぐにでもできるんだが、人への変化にはその人物だと特定できるものがなくてはならないのだ」

 そう。この変幻薬という秘薬は一部の国で少数しか出回らない骨董品だ。
 その歴史を辿れば、何千年も昔にまで遡る。
 昔は幅広い用途で使われていたみたいだが、今では一部のマニアがこっそりと裏取引をするシークレットアイテムとしてごくわずかで流通している。

「それでこれを何に?」とレーナ。

 そして俺はこの問いに、

「潜入だ。俺たちはこれを使ってスメラギ家の屋敷の従人として入り込む」

 詳しくは後で説明すると彼女に言う。

 まさかとは思ったが、こんな所で出会えるとは思ってもいなかった。
 ひと際目立つ繁華街から少し離れた細い路地でひっそりと密売人が売っていた物だった。
 査定魔術で調べた結果、本物であるということを知りすぐさま購入した。
 しかもちょうど残り二つしかなく、運が良かった。
 まぁ……その分、資産がとんでもないくらい飛んでいったのだが……

 だがそれは仕方がない。
 全てが終わった時に全額還元してもらう予定だ。

 じっくりと小瓶を見つめるレーナに俺は、

「レーナ、今日の夕方までに男の髪やらツメアカでもいい。持ってくるんだ」
「え……?」

 イマイチな反応。
 俺はもう一度、彼女に説明をした。

「いいか? 作戦は明日から決行する。時間が経てば経つほど不利になるからな」
「ちょ、ちょっと待ってください! どういうことですか説明してください」
「ん? さっき説明しただろ人の一部が必要なんだ」
「一部って髪の毛とかツメアカじゃないといけないのですか?」
「別にそれじゃなくてもいい。だが、相手の細胞……いわゆるDNAが変化する際に必要なのだ」
「細胞……DNA?」

 ああ……そこから説明しなきゃならんのか。
 無知っていうのは面倒だなホント。
 しかしながら知らないんじゃ意味がない。
 俺は簡潔に説明をする。

「つ、つまりDNAは人によって違ってその人だと識別するいい材料になると」
「そういうことだ。全く同じDNAを持つ者など滅多にいない。自分とまったく同じ人間が存在しないのと同じことだ」

 なるほどとレーナは頷き、何やら魔法印紙を取り出し始めた。

「何をやっている?」
「あ、はい。知らない言葉を後で見返せるように記憶しておくんです。昔からの癖で……」

 こういう真面目な所がさすがレーナという感じだ。
 知らない知識を積極的に吸収しようとする、成長が早い人間の典型的な例と言えるだろう。

「よし、じゃあ後は別行動だ。今日の夜までに宿に戻ってこい」
「えっと……その……」
「今度は何だ?」
「さすがに……ハードルが高すぎないですか? レイナードならともかく他の人の髪の毛とかを取ってこいだなんて……」

 俺ならともかくとはどういうことだ? 逆に俺ならいいのか。
 レーナはたまによく分からない所がある。
 俺の理解不足なのかもしれないが、思考が追い付かない。

「いいかレーナ。これは作戦だ。そういうことを言っていては決して成功しないぞ」
「そ、それは……」

 項垂れるレーナ。
 不安しかないと言わんばかりの表情におもわず溜息が出てしまう。

「……分かった。オレも一緒に行こう。やり方を教える」
「えっ!? 本当ですか?」
「ああ、だが俺たちは奴らに顔を見られている。おそらくだが警戒対象になっていることだろう。いつどこで監視されているか分からない」

 俺は彼女に顔まで覆う大きな黒ローブを手渡す。

「これを着ろ。決して脱ぐな」
「わ、分かりました!」

 話が決まった。
 俺たちは再び外の世界へ足を踏み入れる。

 日差しが強い。
 密かに雨の降らないギリギリな天候を期待していたのだが叶わなかった。
 ま、その代わりたくさんの人間が外を出歩くので細胞採取はしやすい。
 すっげぇ暑いけど。

「朝の王都は夜よりも落ち着いた感じなんですね」
「そうだな。俺はこっちの方が居心地がいい」
「奇遇ですね。私もそうです」

 二人は大きな黒ローブを着て並んで歩く。
 やっぱり目立つな。別行動にしたかったのは不自然だと思われる可能性があったからだ。
 こんな猛暑に顔まで覆う黒ローブを着る奴なんて滅多にいない。

 ヘイトが集まればその分、奴らに見つかる可能性も高くなる。
 時間帯を朝にしておいて良かった。
 正直な所、昼までには決着をつけたい。

 そう思っていると、俺は一人の標的ターゲットを見つけた。

「レーナ、止まれ」
「は、はい」

 俺が標的にしたのは20代半ばくらいの女だ。
 身体は細身、黒髪でロングヘア。世間一般ではそこそこの美人と言われるくらいだ。
 隣は恋人だろうか? 男と楽しそうに会話をしていた。

「いいか、今から手本を見せる。よく見ておくんだ」
「分かりました」

 俺は二人に近づいていく。
 そして、

「ぐおっ……しまった!」

 俺は突然転倒……する振りをして盛大に転ぶ。

 その瞬間、転んだ先にいた標的の女の髪を一本引っこ抜く。

「いたっ……!」

 ―――ドスっ!

 痛々しい光景だ。
 実際はギリギリの所で身体を浮かせているのだが、周りからすれば思いっきり顔面に地面を叩きつけたように見える。

「いってぇ……す、すみません。お怪我はありませんか?」
「あ、い、いえ……あなたこそ大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫っす! お騒がせしました。では!」

 こういって俺は即座にレーナの所へと戻る。

「どうだ? これならお前もできるだろう」
「そ、そうです……ね」

 ん? どうしたんだ?

 何やら微妙な表情をするレーナ。
 せっかく魔術を使わないやり方を教えたのになぜだ。
 
「おい、レーナ。どうした?」
「え、えっと……あれは私にはできないかなーって」

 できないだと。あんなこともできないのか。
 
 俺がどうするかと頭を悩ませていた時、レーナは、

「その……魔術は使ってはダメですか?」
「ん? 使えるのか?」
「あ、はい。高速移動スキルと迷彩魔術なら……」

 なんだ。それが使えるなら早く言ってくれ。
 俺がわざわざあんなことをしなくて済んだのに。

 心の中で愚痴を言う。

「じゃあ、それをあの男に使え」

 こう言うとレーナは、

「えっ……あの、男の人じゃないとダメですか?」

 こう俺に言った。

 なるほど、そういうことか。
 男のそういうものを触るのが苦手なんだな。
 そこは考えてはいなかった。
 
「分かった、女でもいい。とにかく早急に取って来るんだ。できるな?」
「は、はい! 分かりました」

 

 コックリと頷き、レーナはすぐさま行動に移した。
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