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第27話 勇者と護衛2
しおりを挟むこれはほんの3年前の話、私がサーシャと初めて顔を合わせた時のこと。
その日朝、私はいつものように屋敷で父上と朝食を済ませていた。
「セレスよ、お前に伝えておきたいことがある」
「なんでしょうか、お父様」
「今日の昼頃、お客様がお越しになるのは知っているな?」
「はい。王国を介してお越しになるとても重要なお客様だと聞いています」
「そうだ。それでセレスよ、お前にとある仕事を依頼したい」
「仕事……ですか?」
私の実の父、ジョージ・グラムレートはかつては剣聖とまで謳われた大冒険者だった。
冒険家家業を辞め、王国の近衛兵となってから当時の国王陛下に溺愛されるようになり今のような地位を得た、いわゆる成り上がり貴族だ。
父は元々平民であったため、周りの貴族の人たちとは考え方も生活スタイルも違った。
どちらかというと生活は庶民的、考え方は大雑把。そして屋敷はある一定の権力者を示すお飾りみたいなものだった。
そしてこの日、父から頼まれた仕事とは……
「ゆ、勇者候補の護衛ですか!?」
「うむ。お前ももう仕事ができる年頃となった。私のような老体がやるよりずっといいだろう」
仕事内容は初仕事にして勇者候補の護衛、しかも王国直々に頼み込んできた案件だという。
(家の仕事が特殊だってことは前々から知っていたけどまさか……)
やっと真実を知ったのは12の年の頃。ホルン王立魔術学園に入学するちょうど三年前のことだった。
「そ、そんな……私なんかがそんな大役、務まるわけないです! お父様の方がよっぽど……」
だが父は首を静かに横に振り、
「セレス、お前は近い将来この家の跡取りとなる身だ。そろそろ世代交代をせねばならない時がやってきている。この世を旅立ったマリィもきっとお前が立派に仕事をこなしている姿を見たいと、そう思っているはずだ」
「そ、そうでしょうか……」
「ああそうとも。だからこそお前にはグラムレート家の仕事とはどういうものかを知ってもらいたい。大丈夫、お前は私の娘だ。剣の才能も私以上にある逸材だ。きっとセレスならやり遂げられるだろう」
「お、お父様……」
母、マリィ・グラムレートは私がまだ物心つく前に他界し男手一つで父は私を育ててくれた。
剣の扱い方や戦い方も父親譲りのもので小さい頃から教育の一環として剣を握ってきた。
そんな父の英才教育もあってか剣の腕はそれなりにまで成長しで今でもその実力は伸び続けている。
父も頃合いだと思っていたのだろう。だが当時の私はまだ心の弱さが残っていた。
「どうだセレス、やってくれるか?」
「……分かりました。やらせていただきます」
かなり溜めを作り、よく考えもしないまま首を縦に振る。
私の中にはこれ以上、父を困らせたくないという想いもあったからだ。
そしてその日、私は初めてサーシャと会った。
「あなたが私の護衛さん?」
「……は、はい。セレス・グラムレートと申します。何卒未熟もの故、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
初めて会話したのはサーシャが家に訪問してきてすぐのことだった。
当時からサーシャは私と年が近いのにも関わらずしっかりとしており、魔術師としての能力もピカイチだった。
芯が強く、決してぶれない心を持ち同い年とは思えないほどの異次元さが彼女にはあったのだ。
(こんな人の護衛だなんて無理だよ……)
最初はそう思った。だがある事件をきっかけに私は彼女を守るという自覚が芽生えるようになった。
それはサーシャが家に訪問し、ちょうど一か月ほどが経ったある日のことだ。
「ねぇねぇセレス、今からミトン山に探検しに行ってみない?」
「み、ミトン山……ですか?」
「そー、あそこにある地下墳墓にはたっくさんお宝が眠っているって知り合いが言っていたのを思い出したの」
「お、お宝がですか?」
「うん、でも冒険者組合やら協会やらが冒険者にそこだけは近づくなって念入りに言っているっぽくて……正規ルートではミトン山まで行けないの」
「行けないって……そこまで言われているのなら行かない方がよろしいのでは……?」
だがサーシャはどうしても行きたいと言って聞かなかった。
理由はごく単純で宝探しという名目の探検をしたかったからという子供的発想だった。
なんでもサーシャは半年もの間、王国側で重要人物として厳重に管理され外に出ることさえも許されなかったという。
外に出れるのは本当に特例の理由がある場合のみ。勇者候補の情報漏洩を回避するための考えであるとされるが実際は監禁に近いようなもの。
徐々にストレスを蓄積させていったサーシャは久しぶりに外に出れて非常に嬉しかったという。
ミトン山という組合も協会も冒険者立ち入り禁止とする場に行きたいと言ったのも刺激がほしいという理由だけ。ただそれだけだったのだ。
「ねぇ、いいでしょ? 行こうよセレス!」
「は、はい……わ、分かりました」
この時、私は断っておけば良かったと今でも思う。当時の自分がいかに自分の意見を主張できない女だったということがよく分かる。
もしこの時に「止めましょう」の一言があればミトン山へは行かなかったと思う。
そう……あんな思いをしなくて済んだのだ。
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