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16.お互いに
しおりを挟む魔法職と物理職。
冒険者には大まかにこの二つの職が存在する。
魔法職は言わずもがな魔法を主体とした戦闘をする職業のこと。
対して物理職は剣や鈍器を用いて戦う職業のことを指す。
両者は互いのメリットを共有し、デメリットを補完し合う関係だ。
特に大規模なパーティーを組んでいるところはそれが顕著に現れるだろう。
ま、俺はパーティーなんか生まれて一度も組んだことがないからはっきりとしたことは言えないけど。
二つの職は当然ながら武器も違えば防具も違う。
重さ、伸縮性、機能性……と違いは色々だ。
そして今回、ソフィアは魔法職用の防具を買おうとしているらしい。
ギルドカードを見てもバリバリの魔法職寄りのステータスだった。
一番驚いたのは魔法査定Sってところだけど、他のステータスは大体CかB相当。
総合等級はBで一般的には中堅冒険者になる。
とはいっても全部Gの俺よりかは遥かにマシだが。
で、大まかな職柄が決まったのだが、問題はここからだった。
「自分の戦闘スタイルに合致した防具選びですか?」
「そうだ。魔法職は物理職と違ってタイプというものが存在する。攻撃特化の複合魔術師、防御・強化付与特化の盾魔術師、回復特化の治癒術師がある」
「ま、魔法職だけでも三つもあるんですね」
「ああ。この三つは同じ魔法職であっても実戦での立ち回りは全然違う。だから必然と武器や防具のチョイスも変わってくるんだ。例えば攻撃特化の複合魔術師だったら前線に出て戦うから物理職並に堅牢で耐久に優れた防具になるってこと。逆に完全支援の治癒術師はすぐにでも前線支援が出来るように身軽さを重要視するから、軽い防具を選んだ方がいいってことだ」
「な、なるほど……」
うんうんと頷くソフィア。
しかもどこから出してきたのか、手帳にさっき言ったことを黙々と書き記していた。
(めっちゃマジメだな、おい!)
ちなみに俺は複合魔術師タイプの魔法職だ。
だから防具も安物といえどそれなりの強度は備えている。
「それで、ソフィアはどのタイプの魔法職になりたいんだ?」
防具を決めるに当たってまずそこから。
自分がどのタイプの魔法職になりたいかである。
「う~ん……どれも魅力的ではありますが、やはりわたしは癒し手になりたいですね」
「癒し手? ということは治癒術師か……」
俺は陳列されている防具を見渡し、ソフィアに合いそうなものを探す。
と、その時。
たまたま店の上部にあった白装束が目に入る。
そしてその下には小さな文字で”治癒術師特化の新商品”と書かれていた。
「ソフィア、あれなんかどうだ?」
早速俺はソフィアに進めてみることに。
色合いも白色のローブと合っているし、個人的にはバッチリ。
後はソフィアがどう思うかだが……
「い、いいですね! あの防具! 見た目もいいし、何より可愛いです!」
確かにデザインも可愛いな。
ということは女性向けの商品だろうか?
一応、機能性等の記載もあったので見てみることに。
すると、
「おお、お客様! その商品にお目をつけられるとは中々の鑑識力をお持ちで」
そう言いながら、工房の店員が寄って来る。
どうやら俺たちは結構良いものに目をつけたようで……
「そんなに良いモノなんですか? この防具は」
「はい。実はこちらの商品、今月に入荷したばかりのものでしてカールトン製では初の治癒術師特化の防具なんですよ。実は治癒術師の方々に色々と要望を受けましてね。専用の防具のバリエーションが少なすぎると」
「ああ……確かに言われてみれば」
治癒術師の防具は他のタイプに比べて種類が少ないように思う。
「そこで、カールトンの技術を結集させて作ったのがこの防具なんです。特殊加工を施し、治癒術師が実戦でより快適に動けかつ迅速な対応ができるよう、繊維に特別な術式を込めてあるんです」
「なるほど、特殊加工の防具……か」
防具にも普通仕様と特殊仕様をしたものと区分されることがある。
特殊仕様とはその防具に特別な術式を施して着用しているだけで自身に恩恵が与えられる。
速度上昇、防御向上、詠唱スピードの短縮化など、効果はものによって変わる。
要は常時バフ魔法が発動していると考えてもらうと早いだろう。
で、今目の前にある防具はその特殊仕様ってわけ。
効果は……回復力上昇、物理・魔法耐性向上、詠唱スピードの短縮化、その他諸々。
(おお、治癒術師にとってはこの上ないほど優秀な恩恵を貰えるじゃないか)
機能性は申し分ない。
後はソフィアの判断次第だが……
「どうする? 結構いいものだと思うが……」
「わたしはランスの判断にお任せしたいと思っています。正直、わたしにはよく分からないので」
「そうか?」
「はい。それに……選んでいただいた方がその……逆に嬉しいというか……」
「えっ? 嬉しい?」
「い、いえ! その方がわたしが選ぶよりかは全然いいかなぁ~なんて……」
慌てて言い直すソフィア。
理由はよく分からないが、彼女の防具は俺の判断に委ねられたらしい。
「じゃ、じゃあこれにしようか」
「は、はいっ!」
「お買い上げありがとうございます。料金は金貨3000枚となっております」
さすがはカールトン製の特殊仕様型防具。
アホみたいに高いな。
「んじゃ、そうと決まれば清算だな。俺が払っておくからソフィアはここで――」
「そ、それは流石に悪いです! これくらいわたしが自分でお支払いをします!」
俺が払うといった途端、ソフィアは声を少し張り上げてそう言ってきた。
流石にそこまでお世話になるわけにはいかないと思ったのだろう。
「いや、俺は別に構わないんだが……」
「わたしが気にしちゃうんです! ずっとお世話になりっぱなしなので……」
マジメ故の回答。
それが彼女の優しさであるとも言える。
でも……
「あまり気にするな。プレゼント程度だと思ってくれればそれでいい。俺はソフィアと一緒にいるという証をつくりたいんだよ」
「わたしとの……証?」
って、俺はなにを言っているんだか。
自分で言うのもあれだけど、最近変なことを口走ることがあるんだよな……
だがソフィアはこの言葉がひどく心に響いたようで、
「な、ならわたしもランスとの証をつくりたいです!」
「……へ?」
ソフィアはそういうとタタタッと別のフロアへ。
数分後、帰ってきた時には彼女の手元に一着の防具があった。
しかもその防具……さっき俺が気になって見ていたやつじゃないか。
「こ、これをわたしがランスにプレゼントします! いえ、させてください!」
「は、はい?」
確かにちょっと目をつけていたものだけど……てか、ソフィアのやつ見ていたのか。
しかもさせてくださいって……
「い、いや……俺は……」
「遠慮なさらないでください。それに、まだ昨日助けてもらったお礼もしてなかったですし……」
ああ、そうか。
昨日のことを気にしてたんだな。
(それにソフィアの様子を見る限り、これは引き下がりそうもないな……)
「分かった。じゃあ、それをソフィアに買ってもらっちゃおうかな」
「は、はいっ!」
ソフィアは花が咲いたかのようにぱぁぁっとした笑みを浮かべる。
(なんかプレゼントという感じじゃなくなっちゃったけど、まぁいいか)
と、いうわけで。
俺たちはお互いに防具をプレゼントし合うことになったのでした。
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