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第十五話 住居改革
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「それでは、私はこれで。この度は本当にありがとうございました、ユーリ様、カトレア様」
「気をつけて帰れよ」
「はい! では、また後日……」
フィアットはそう言って軽く会釈するとそのまま背を向け、その場を去っていく。
ここは産業都市フィンラードの馬車停留所。
俺たちはもう既にフィンラードに無事到着し、次なる行動に移そうとしていた。
「ふぅ、やっと着いたか」
「お疲れ様です、ユーリ様。早速ですが、これから我々の拠点となる場所へ行こうと思うのですが、よろしいですか?」
「ああ、構わない。どんな場所かも知りたいしな」
……と、いうわけで俺たちはこれから二人で住むこととなる住居へ足を運ぶことに。
だが……
「お、おい……嘘だろこれ」
「……ふむ、中々にきていますねこれは」
「いや、これはきていますねってレベルじゃないだろ……」
入った瞬間、ぶわっと舞う埃と共にこれでもかというほどのボロ部屋が姿を現した。
見た感じ天井は今にも落ちてきそうなくらいガタガタで床は歩けば歩くほどギシギシと音を立てる。
所々に蜘蛛の巣が張っており、虫が飛び交っている。
壁は一発拳を入れたら吹き飛びそうなくらいの貧弱設計で異様に部屋の中が薄暗いってのも驚愕ポイントだった。
「こ、これからこんなところに住まなきゃいけないのか……」
一歩間違えれば前世の時に住んでいた借家よりも酷い。
(誤算だった。住居の節約に走ること自体が良くなかったな……)
正直、資金は潤沢にある。家から沢山援助してもらって普通に過ごすには全然問題ないくらいの額だ。
だが俺たちがここで過ごすのは学園卒業までの3年間。
いくら資金が潤沢でも3年という長いスパンで見てみれば、足りなくなる可能性は十分にある。
自立したいという強い思いから両親からの仕送りも断ってしまったので節約生活に徹しようと心に決めたのだが……
(住居だけは妥協すべきではなかったか……)
俺だけならまだいい。埃っぽい部屋だが、前世の時に住んでいた部屋も結構なものだったから精神的には慣れている。
でもカトレアはどうだろう? 彼女は女性だ。
仮に付き人という立場とはいえ、こんなところに住まわせるわけにはいかない。
「す、すまないカトレア。俺が我が儘を言ったばかりに。流石にここはやめ――」
「いえ、私は全然問題ないですよ」
「へっ……?」
やめよう、と言いかけた時、カトレアはそれを遮るようにそう言った。
「い、いいのか? 俺だけならまだしも、カトレアまでこんな部屋に住まわせるわけには……」
「あぁ……私のことならばお気になさらず。どんな場所でも寝られるように訓練を受けていますので」
「は、はぁ? 訓練?」
なんだ、その訓練。
貴族の使用人になるにはそんなに過酷な訓練を乗り越えなければならないというのか?
だが、その答えは次に彼女が放った言葉で解明した。
「はい。実はこう見えても私、元軍部出身なんです。グレイシア家の使用人に至るまでの数年間は軍に籍を置いていました」
「ま、マジで!? 初耳なんだけど……」
「言う機会なんて滅多にありませんでしたからね。これでも体力と忍耐には自信があるんです」
まさかの事実。
カトレアが元軍人……あまり想像がつかない。
だがよくよく考えてみるとカトレアが休んでいる姿なんて見たことない気がする。
大体は何かしらの仕事をしていて、常に動いているという印象はあった。
(まさか本当に寝る以外に休んでいなかったりするのか……?)
あり得るな。仮にそれを毎日やっていたとしたら過労もいいところだぞ。
(一応フィンラードにいる間はしっかりと休養を取ってもらおう、うん)
という感じでカトレアの過去を知ったところでここに住むという選択肢が再びできたわけだが……
「どうしよう。流石にこの環境のままずっとっていうのも身体によくないし。借家だから業者を介してのリフォームもできないしな……」
顎に手を当て、悩む。
するとカトレアが俺の肩をポンポンと叩き、
「ユーリ様。ならばこの一件、私にお任せいただけますか?」
「え……なんか良い案でもあるのか?」
「はい。ですので少しばかり申し訳ないのですが、部屋の外で待機していてはもらえないでしょうか?」
「わ、分かった。カトレアがそう言うのなら……」
「ありがとうございます」
俺はカトレアの指示通りに部屋の外に出て、待機する。
あの感じ……何か策があるとの顔つきだったが一体何をするつもりだ?
「まさかあの部屋を一人で……」
なんて、あり得ないか。
さすがのカトレアでもそれはむり――
――ガタン、ゴトン、バタンッ!
「ん、なんだ? 何の音だ?」
突如。部屋の中から盛大な音が響いてくる。
何かが落ちる音……あと壊れるような音もした気がする。
「だ、大丈夫なのか……?」
心配になってくる。もしやカトレアに何かあったのかと思うと尚更だ。
だがその時だった。
ドアノブがクルッと回り、ギギーっとドアが開いて……
「ユーリ様、お待たせいたしました。もう入って大丈夫ですよ」
「あ、ああ。大丈夫なのか?」
「はい? 何がです?」
「い、いや……やっぱ何でもない」
「……?」
表情を見る限り、大丈夫そうだと察しあえて聞くのを止める。
俺はカトレアに導かれ、部屋の中へ。
するといきなり目に入ったのは……
「えっ、なにこれ。どゆこと?」
先ほどまでボロ屋だった時の片鱗もなく、ピカピカに輝く部屋が俺の眼に入ってきた。
天井も綺麗になっており、壁にもシミ一つなく、床もまるで新築のような輝きを放っていた。
「カトレア、これは一体……」
「少しだけですが、部屋の中を弄らせてもらいました。流石に設計部分までには手をつけることはできませんでしたが、これならば長期的に滞在することはできるかと思いますよ」
「ま、マジかよ……」
まさかとは思ったけど、そのまさかだった。
彼女は一人でこの部屋を改築し、変貌させたのだ。
嘘かと思うかもしれないけど、紛れもない事実。
まるで夢を見ているかのようだった。
「少々、手こずる場面はありましたけどね。例えば、毒虫の住処があったりとか」
「ど、毒虫? そんな奴まで住んでいたのか」
「はい。なので万が一のことも考慮し、ユーリ様には外で待機をしてもらったというわけです」
なるほど。俺を外に出したのはそういう理由があったからか。
ていうか、この人一体何者なんだ?
(軍人だから……っていうことでもなさそうだし)
何だかんだ言って俺が子供の頃から一緒にいるけど、こんな一面があったなんて知らなかった。
情報源としては前に母上が仕事はかなりできるって言っていたことくらいだ。
まさか、カトレアってとんでもない人だったりするのか?
様々な詮索が俺の脳内で右往左往する。
だがまぁ、これで何とか住める環境にはなった。
今日からここが俺たちの新たな”家”となるのだ。
「ありがとうカトレア。すまないな、お前に全部任せてしまって」
「いえ。それが私の仕事ですので」
カトレアはちょっとだけ微笑み、そう言う。
でも恐れ入ったよ。カトレアがここまでできてしまう人だったなんて。
少々驚きつつも、主として誇りに思う俺であった。
「気をつけて帰れよ」
「はい! では、また後日……」
フィアットはそう言って軽く会釈するとそのまま背を向け、その場を去っていく。
ここは産業都市フィンラードの馬車停留所。
俺たちはもう既にフィンラードに無事到着し、次なる行動に移そうとしていた。
「ふぅ、やっと着いたか」
「お疲れ様です、ユーリ様。早速ですが、これから我々の拠点となる場所へ行こうと思うのですが、よろしいですか?」
「ああ、構わない。どんな場所かも知りたいしな」
……と、いうわけで俺たちはこれから二人で住むこととなる住居へ足を運ぶことに。
だが……
「お、おい……嘘だろこれ」
「……ふむ、中々にきていますねこれは」
「いや、これはきていますねってレベルじゃないだろ……」
入った瞬間、ぶわっと舞う埃と共にこれでもかというほどのボロ部屋が姿を現した。
見た感じ天井は今にも落ちてきそうなくらいガタガタで床は歩けば歩くほどギシギシと音を立てる。
所々に蜘蛛の巣が張っており、虫が飛び交っている。
壁は一発拳を入れたら吹き飛びそうなくらいの貧弱設計で異様に部屋の中が薄暗いってのも驚愕ポイントだった。
「こ、これからこんなところに住まなきゃいけないのか……」
一歩間違えれば前世の時に住んでいた借家よりも酷い。
(誤算だった。住居の節約に走ること自体が良くなかったな……)
正直、資金は潤沢にある。家から沢山援助してもらって普通に過ごすには全然問題ないくらいの額だ。
だが俺たちがここで過ごすのは学園卒業までの3年間。
いくら資金が潤沢でも3年という長いスパンで見てみれば、足りなくなる可能性は十分にある。
自立したいという強い思いから両親からの仕送りも断ってしまったので節約生活に徹しようと心に決めたのだが……
(住居だけは妥協すべきではなかったか……)
俺だけならまだいい。埃っぽい部屋だが、前世の時に住んでいた部屋も結構なものだったから精神的には慣れている。
でもカトレアはどうだろう? 彼女は女性だ。
仮に付き人という立場とはいえ、こんなところに住まわせるわけにはいかない。
「す、すまないカトレア。俺が我が儘を言ったばかりに。流石にここはやめ――」
「いえ、私は全然問題ないですよ」
「へっ……?」
やめよう、と言いかけた時、カトレアはそれを遮るようにそう言った。
「い、いいのか? 俺だけならまだしも、カトレアまでこんな部屋に住まわせるわけには……」
「あぁ……私のことならばお気になさらず。どんな場所でも寝られるように訓練を受けていますので」
「は、はぁ? 訓練?」
なんだ、その訓練。
貴族の使用人になるにはそんなに過酷な訓練を乗り越えなければならないというのか?
だが、その答えは次に彼女が放った言葉で解明した。
「はい。実はこう見えても私、元軍部出身なんです。グレイシア家の使用人に至るまでの数年間は軍に籍を置いていました」
「ま、マジで!? 初耳なんだけど……」
「言う機会なんて滅多にありませんでしたからね。これでも体力と忍耐には自信があるんです」
まさかの事実。
カトレアが元軍人……あまり想像がつかない。
だがよくよく考えてみるとカトレアが休んでいる姿なんて見たことない気がする。
大体は何かしらの仕事をしていて、常に動いているという印象はあった。
(まさか本当に寝る以外に休んでいなかったりするのか……?)
あり得るな。仮にそれを毎日やっていたとしたら過労もいいところだぞ。
(一応フィンラードにいる間はしっかりと休養を取ってもらおう、うん)
という感じでカトレアの過去を知ったところでここに住むという選択肢が再びできたわけだが……
「どうしよう。流石にこの環境のままずっとっていうのも身体によくないし。借家だから業者を介してのリフォームもできないしな……」
顎に手を当て、悩む。
するとカトレアが俺の肩をポンポンと叩き、
「ユーリ様。ならばこの一件、私にお任せいただけますか?」
「え……なんか良い案でもあるのか?」
「はい。ですので少しばかり申し訳ないのですが、部屋の外で待機していてはもらえないでしょうか?」
「わ、分かった。カトレアがそう言うのなら……」
「ありがとうございます」
俺はカトレアの指示通りに部屋の外に出て、待機する。
あの感じ……何か策があるとの顔つきだったが一体何をするつもりだ?
「まさかあの部屋を一人で……」
なんて、あり得ないか。
さすがのカトレアでもそれはむり――
――ガタン、ゴトン、バタンッ!
「ん、なんだ? 何の音だ?」
突如。部屋の中から盛大な音が響いてくる。
何かが落ちる音……あと壊れるような音もした気がする。
「だ、大丈夫なのか……?」
心配になってくる。もしやカトレアに何かあったのかと思うと尚更だ。
だがその時だった。
ドアノブがクルッと回り、ギギーっとドアが開いて……
「ユーリ様、お待たせいたしました。もう入って大丈夫ですよ」
「あ、ああ。大丈夫なのか?」
「はい? 何がです?」
「い、いや……やっぱ何でもない」
「……?」
表情を見る限り、大丈夫そうだと察しあえて聞くのを止める。
俺はカトレアに導かれ、部屋の中へ。
するといきなり目に入ったのは……
「えっ、なにこれ。どゆこと?」
先ほどまでボロ屋だった時の片鱗もなく、ピカピカに輝く部屋が俺の眼に入ってきた。
天井も綺麗になっており、壁にもシミ一つなく、床もまるで新築のような輝きを放っていた。
「カトレア、これは一体……」
「少しだけですが、部屋の中を弄らせてもらいました。流石に設計部分までには手をつけることはできませんでしたが、これならば長期的に滞在することはできるかと思いますよ」
「ま、マジかよ……」
まさかとは思ったけど、そのまさかだった。
彼女は一人でこの部屋を改築し、変貌させたのだ。
嘘かと思うかもしれないけど、紛れもない事実。
まるで夢を見ているかのようだった。
「少々、手こずる場面はありましたけどね。例えば、毒虫の住処があったりとか」
「ど、毒虫? そんな奴まで住んでいたのか」
「はい。なので万が一のことも考慮し、ユーリ様には外で待機をしてもらったというわけです」
なるほど。俺を外に出したのはそういう理由があったからか。
ていうか、この人一体何者なんだ?
(軍人だから……っていうことでもなさそうだし)
何だかんだ言って俺が子供の頃から一緒にいるけど、こんな一面があったなんて知らなかった。
情報源としては前に母上が仕事はかなりできるって言っていたことくらいだ。
まさか、カトレアってとんでもない人だったりするのか?
様々な詮索が俺の脳内で右往左往する。
だがまぁ、これで何とか住める環境にはなった。
今日からここが俺たちの新たな”家”となるのだ。
「ありがとうカトレア。すまないな、お前に全部任せてしまって」
「いえ。それが私の仕事ですので」
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