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第一章【挑】
コンビ
しおりを挟む卓球台を挟んで四人の選手が向かい合う。
一勝一敗で迎えた第三試合。勝った方が王手をかける大一番。
「海香、あいつら大丈夫かな?」
「私は結構いい勝負すると思うけど、大方の予想は甘芽中のストレート勝ちって所じゃないかなー。あのコンビ、去年の新人戦のチャンピオンだし」
「左のカットマン『三瀬莉奈』と右のドライブマン『小波渡雪』。息もぴったりでダブルスの理想形だよな」
──試合開始──
最初のサービスは甘芽中の雪が打つ。
短く出した低い下回転サーブ。
それを受けるのは乃百合。乃百合は思い切ってそのサーブを【フリック】で返した。
卓上の短いボールに対してのレシーブにはいくつか種類があり、【ストップ】【ツッツキ】【ブロック】【チキータ】【スライド】等が挙げられ、選手はその回転や状況、意図に合わせて使い分けている。
その中でも乃百合の使ったフリックは、短く出されたボールに対して、上回転をかけて返す攻撃的な返しである。
フリックで返したレシーブは、勢いよく相手コート左に抜けて、僅か一球で初得点をもたらした。
【1-0】
しかし相手ペアに動揺は見えない。ダブルスでは相手が二人いる為、それぞれどの様な卓球をするのか、得意不得意、連携、役割等を試合中に探る必要がある。今はまだその段階なのだ。
続く雪のサーブもキチンと返した乃百合。再び返ってきたボールに対し、素早く詰め寄り【フリック】でブッケンが押し込んだ。正に速攻。
【2-0】
「やったぜ海香! 相手のペアちょっと面食らったんじゃね?」
「速攻×速攻ってペアは珍しいからねー。あのペアでも初めて当たったんじゃないかなー?」
乃百合達のような、前陣速攻×前陣速攻のペアは極めて珍しい。その理由は『弱いから』に他ならない。
プレーエリアの重なりや、戦術の少なさ、弱点の重複、役割分担等がネックになってくる為だ。
しかしその異色の組み合わせが逆に甘芽中のコンビを惑わせていく。
「雪、まだわかんないけど、このペア──、」
「うん、分かってる」
【3-1】
【5-2】
【7-4】
「おお、これマジで、もしかしてもしかするんじゃねーの?」
「今のところはねー」
まひる達が言うように、ここまでは完全に乃百合達が主導権を握っていた。得意の卓上の打ち合いから、打点の低い速攻に相手は暫し翻弄されている。
しかし──
カットマンの茉莉が大きく出した回転力の高いカットボールに対して、乃百合が何とか相手コートに返した時、既にドライブマンの雪はスマッシュを打つ体勢に入っていた。どのコースにどんなボールが帰ってくるか分かっていたかの様なその動き──
「あっ」
スマッシュはブッケンの居ないがら空きのサイドに突き刺さり勢いよく跳ねた。
【7-5】
「甘く見ないで欲しいね。私達、ペアを組んで三年目。しかもダブルス専用のペアなのよ。一年生の急造コンビに負ける訳ないじゃない」
卓球の団体戦では、ダブルスにはシングルスに出場する選手の参加が認められている。例えば、第一試合に出場したまひるが、第三試合のダブルスにも出場する事が許されている。
強い人が二つの試合に出られる。コレは大きなアドバンテージになり得る。
それとは逆に、コンビネーション重視のダブルス専用のペアというものがあり、ダブルスの練習を十分に積んで、そこだけを目指して来る選手達もいる。それが彼女達だ。
【8-7】
茉莉と雪のコンビネーションが冴え渡る。
常勝チームにありながら、シングルスの強者を差し置いてダブルスのレギュラーを張っているのだ。弱いわけが無い。
特性分析も終わり、いよいよ追いついてきた。
続くブッケンのレシーブ。
カットを撃ってこいと言わんばかりの、深く台奥を狙った打球。そして打ち終わりにブッケンは大きく台から離れた。
「上等だ!」
茉莉の目には構えた乃百合の姿しか見えない。
明らかな誘いであり、挑戦状。
渾身のカットで餌食にしようとばかりに、強烈なバックスピンのボールが乃百合の元に返ってくる。
──バックステップッ!?──
決まったと思っていた茉莉の横を、音を立ててボールが過ぎ去った。
カットボールは、乃百合のスピードドライブによって打ち返されたのだ。
「ペアを組んで三年目は凄いですけど──。私達、親友になって八年目なので。負けてないですね」
【9-7】
乃百合とブッケンは幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒に過ごしてきた。その間ずっと友達で、もしかしたら過ごした時間は家族より多いかも知れない。
「あいつらやってくれるぜ! 期待以上だ、なっ海香」
「そうだねー。でも、真価を問われるのはここからだよ」
【11-8】
乃百合ブッケンペア。
大方の予想を覆し第一セットを先取。
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