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第一章【挑】
乃百合とブッケン
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■■■■
──【今から八年前】──
乃百合はこの日、親の都合で新しい町に引っ越してきた。
真新しい家に、真新しい家具、新しい町の風景。その全てがキラキラと輝いて見える。
「ねーね、おかーさん。あそこの公園に誰か居るよー?」
乃百合は窓から見える公園を指さして、母に尋ねた。その物言いは、明らかにソコに行きたいと言っているようだ。
「んー、お友達が居るわね。でも危ないからまだ一人で遊びに行っちゃダメよ。後でおかーさんと一緒に行ってみましょうね」
この時母は、まだ引っ越してきたばかりだった為、乃百合を一人で遊びに行かせることを躊躇った。
その母の言葉に、元気よく返事を返した乃百合だったが、幼い乃百合の好奇心は止められない。
母が荷解きをする合間に家から抜け出し、窓から見えたすぐ近くの公園まで走り出して行く。
そして近くまで来ると、乃百合と同じ位の歳の女の子が一人で砂遊びをして居た所に駆け寄った。
「ねー。何してるの?」
「えっ、えーと……」
女の子は何故か造っていた砂山を必死に隠して、しどろもどろに口を動かしている。
「なんで隠すのー? それ、なあに?」
「だ、ダメーッ」
「えー。なんでダメなの?」
「だって……その……下手、だから……」
女の子は自分の作った『砂のお城』に自信が無かった。まだ小さな女の子には砂のお城を造るのが難しく、誰がどう見ても『ただの山』にしか見えないソレを、笑われるのが堪らなく恥ずかしかった。
「あーっ、もしかしてお城!? すっごーい!」
「えっ……わ、わかるの?」
「わかるよー! 上手だねー! ねーね、私も一緒につくってもいい?」
「う、うん。 一緒につくろ!」
その後数十分、二人は仲良く砂遊びを楽しんだ。
とっても楽しかった。
「乃百合~、そろそろ帰ってきなさ~い」
楽しかった時間も過ぎ、乃百合の母が公園まで迎えにやって来た。それに対し元気に返事を返した乃百合。
そしてお友達との別れ際──、
「ねーね。お名前なんて言うの?」
「え、えと……舞鳥……六条舞鳥だよ」
「それって物件?」
「ぶっけん?ってなあに?」
「お引越しする時ね、おとーさんとおかーさんが言ってたの。六畳……間取り……物件って。よく分かんないけど、多分ぶっけんだよ」
「へー。そーなんだあ。じゃあ、ぶっけんかも。あなたのお名前は?」
「わたしは乃百合、常葉乃百合だよ! また遊ぼうね! ブッケン!」
「うん。またね、乃百合ちゃん!」
■■■■
それからブッケンと同じ幼稚園に通い始めた乃百合は、たちまち幼稚園で人気者となった。
駆けっこをやらせれば男の子を抑えて一番で、ませた知識は他の園児を魅了した。
「乃百合ちゃんはすごいねー」
「そうかな? ブッケンも出来るよ」
「ううん。わたしは、なんにも出来ないもん」
「そんな事ないのにー」
そして小学生に入学した乃百合とブッケン。
そこで小学生初めての試練が訪れる。
それは──、
【逆上がり】
教えられた事はなんでもすぐに出来てしまう乃百合は、逆上がりもクラスで一番最初に出来てしまった。それに対し臆病で運動も苦手なブッケンは、いつまで経っても『出来ないグループ』に取り残されていた。
二人は放課後、校庭の鉄棒を使って練習を始めた。出来ないブッケンの練習に、文句も言わず乃百合は毎日付き合った。そんなある日──、
「わたしもう、やめる」
「ど、どうしたのブッケン……」
「わたしには逆上がりなんて、出来ないもん……」
「そんな事ないよ。ブッケンなら絶対に出来るよ!」
この時幼心にブッケンは、このまま自分が出来なければ、大好きな乃百合の遊ぶ時間が無くなってしまう。このまま大切な時間を奪ってていいのか。と考えていた。でも乃百合は全く違った。
「出来るまで私が一緒に練習するから。ね、諦めないで頑張ろう?」
「……乃百合ちゃんはなんでも出来るけど、私はなんにも出来ないから…私にはできないよ」
「できる」
「できない……」
「できる!」
「……できない」
「できるよッ!!」
──ッ!!
「 私には無理だよッ。何回やっても、出来っこないよ! なんでそんな事言うの!?」
「だって、友達だから。友達じゃない子にはこんな事言わないよ」
「えっ……」
ブッケンはこの時、乃百合の為に諦めるのではなく、乃百合の為に最後まで頑張ろうと思った。
そして再び逆上がりの特訓が始まった。
──それから三日後──
「そう! そのままグルんって──、」
「で……出来た……」
「できた……できたできたぁ!! あははー」
ブッケンは見事逆上がりをやってのけた。
その瞬間、グルッと回った視界と共に、ブッケンの世界までもが一回転した。
頑張れば出来る。憧れの乃百合の様になれる。努力さえすれば、乃百合の隣に並べる──、
「乃百合ちゃん」
「うん?」
「ありがとう。」
■■■■
────……ケン。
──……ッケン!
「ブッケンってば!」
「あ……乃百合……ちゃん……」
「チェンジコート……だよ。大丈夫……?」
「う、ん……チェンジコート……だよね」
【4-11】
セットカウント【1-1】
舞台は第三セットへと突入する。
──【今から八年前】──
乃百合はこの日、親の都合で新しい町に引っ越してきた。
真新しい家に、真新しい家具、新しい町の風景。その全てがキラキラと輝いて見える。
「ねーね、おかーさん。あそこの公園に誰か居るよー?」
乃百合は窓から見える公園を指さして、母に尋ねた。その物言いは、明らかにソコに行きたいと言っているようだ。
「んー、お友達が居るわね。でも危ないからまだ一人で遊びに行っちゃダメよ。後でおかーさんと一緒に行ってみましょうね」
この時母は、まだ引っ越してきたばかりだった為、乃百合を一人で遊びに行かせることを躊躇った。
その母の言葉に、元気よく返事を返した乃百合だったが、幼い乃百合の好奇心は止められない。
母が荷解きをする合間に家から抜け出し、窓から見えたすぐ近くの公園まで走り出して行く。
そして近くまで来ると、乃百合と同じ位の歳の女の子が一人で砂遊びをして居た所に駆け寄った。
「ねー。何してるの?」
「えっ、えーと……」
女の子は何故か造っていた砂山を必死に隠して、しどろもどろに口を動かしている。
「なんで隠すのー? それ、なあに?」
「だ、ダメーッ」
「えー。なんでダメなの?」
「だって……その……下手、だから……」
女の子は自分の作った『砂のお城』に自信が無かった。まだ小さな女の子には砂のお城を造るのが難しく、誰がどう見ても『ただの山』にしか見えないソレを、笑われるのが堪らなく恥ずかしかった。
「あーっ、もしかしてお城!? すっごーい!」
「えっ……わ、わかるの?」
「わかるよー! 上手だねー! ねーね、私も一緒につくってもいい?」
「う、うん。 一緒につくろ!」
その後数十分、二人は仲良く砂遊びを楽しんだ。
とっても楽しかった。
「乃百合~、そろそろ帰ってきなさ~い」
楽しかった時間も過ぎ、乃百合の母が公園まで迎えにやって来た。それに対し元気に返事を返した乃百合。
そしてお友達との別れ際──、
「ねーね。お名前なんて言うの?」
「え、えと……舞鳥……六条舞鳥だよ」
「それって物件?」
「ぶっけん?ってなあに?」
「お引越しする時ね、おとーさんとおかーさんが言ってたの。六畳……間取り……物件って。よく分かんないけど、多分ぶっけんだよ」
「へー。そーなんだあ。じゃあ、ぶっけんかも。あなたのお名前は?」
「わたしは乃百合、常葉乃百合だよ! また遊ぼうね! ブッケン!」
「うん。またね、乃百合ちゃん!」
■■■■
それからブッケンと同じ幼稚園に通い始めた乃百合は、たちまち幼稚園で人気者となった。
駆けっこをやらせれば男の子を抑えて一番で、ませた知識は他の園児を魅了した。
「乃百合ちゃんはすごいねー」
「そうかな? ブッケンも出来るよ」
「ううん。わたしは、なんにも出来ないもん」
「そんな事ないのにー」
そして小学生に入学した乃百合とブッケン。
そこで小学生初めての試練が訪れる。
それは──、
【逆上がり】
教えられた事はなんでもすぐに出来てしまう乃百合は、逆上がりもクラスで一番最初に出来てしまった。それに対し臆病で運動も苦手なブッケンは、いつまで経っても『出来ないグループ』に取り残されていた。
二人は放課後、校庭の鉄棒を使って練習を始めた。出来ないブッケンの練習に、文句も言わず乃百合は毎日付き合った。そんなある日──、
「わたしもう、やめる」
「ど、どうしたのブッケン……」
「わたしには逆上がりなんて、出来ないもん……」
「そんな事ないよ。ブッケンなら絶対に出来るよ!」
この時幼心にブッケンは、このまま自分が出来なければ、大好きな乃百合の遊ぶ時間が無くなってしまう。このまま大切な時間を奪ってていいのか。と考えていた。でも乃百合は全く違った。
「出来るまで私が一緒に練習するから。ね、諦めないで頑張ろう?」
「……乃百合ちゃんはなんでも出来るけど、私はなんにも出来ないから…私にはできないよ」
「できる」
「できない……」
「できる!」
「……できない」
「できるよッ!!」
──ッ!!
「 私には無理だよッ。何回やっても、出来っこないよ! なんでそんな事言うの!?」
「だって、友達だから。友達じゃない子にはこんな事言わないよ」
「えっ……」
ブッケンはこの時、乃百合の為に諦めるのではなく、乃百合の為に最後まで頑張ろうと思った。
そして再び逆上がりの特訓が始まった。
──それから三日後──
「そう! そのままグルんって──、」
「で……出来た……」
「できた……できたできたぁ!! あははー」
ブッケンは見事逆上がりをやってのけた。
その瞬間、グルッと回った視界と共に、ブッケンの世界までもが一回転した。
頑張れば出来る。憧れの乃百合の様になれる。努力さえすれば、乃百合の隣に並べる──、
「乃百合ちゃん」
「うん?」
「ありがとう。」
■■■■
────……ケン。
──……ッケン!
「ブッケンってば!」
「あ……乃百合……ちゃん……」
「チェンジコート……だよ。大丈夫……?」
「う、ん……チェンジコート……だよね」
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セットカウント【1-1】
舞台は第三セットへと突入する。
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