しぇいく!

風浦らの

文字の大きさ
38 / 96
第二章【越】

悩み苦悩

しおりを挟む
    突然の言葉に乃百合は固まった。
    これが昨日まで楽しく一緒に卓球をやっていた深月から出た言葉なのか。信じられない気持ちでいっぱいだった。

    「や……辞めるって……冗談、だよね?」
    「冗談じゃないよ。ごめんね。乃百合ちゃん達や先輩の事は大好きだけど……もう……」
     「なんで……部活、楽しくないの?」
     「私ね。こんな性格だから、もっとのんびりゆっくりした部活の方がいいんだ。大会で勝つ為には厳しい練習は当たり前だけど、私はみんな程勝ちたいと思えなくて……卓球出来るだけで良かったんだけど、最近はちょっと着いて行けなくなっちゃって……へへっ。ダメだね。私」

    深月は乃百合とブッケンを気遣い無理して笑ってみせた。

    「それならさ、別に無理して上を目指さなくてもいいじゃん!」
    「それはダメだよ。部活はチーム。卓球部は人数も少ないし、一人だけ違う方向を向いていたら絶対に悪い影響を与えちゃうもん。でもね。乃百合ちゃん達の事はずっと友達だと思ってるから。部活辞めても、仲良くしてね」
    「そんな……でも……」
    「ごめんね。応援してるから!    県大会、行けるといいね!    じゃ、私もう行くね」

    深月は自ら別れを告げると、足早に駆けて行った。それを追いかけようとした乃百合の肩をブッケンが抑えた。

    「ちょっ、ブッケンはいいの!?」

    その言葉に対しブッケンは無言で首を横に振った。
    乃百合も分かっている。部活は強制ではない。何より深月の気持ちが尊重されるべきである事に。
    それでも煮え切らない思いは拭えなかった。


    ■■■■


   更に事件は連鎖的に起きる。
   その日の顧問の先生の話がきっかけで、念珠崎チームは大きく揺れ動く。

    「──、という訳で深月が今日をもって部活を辞める事になった。とても残念で寂しい事だが、深月とは学校でいつでも会える。余り気を落とさなくていいからな。でだ、これで部員は六人。私は団体戦はこの六人で戦おうと思っている。だから、一人一人がその自覚を持って──、」
    「先生、ちょっといいですか」

    顧問の話を遮り口を挟んだのは海香だ。声のトーンから言ってもいい話では無さそうだ。

    「どうした、海香」
    「私を団体戦のメンバーから外して下さい」

    その一言に乃百合は心底驚いた。
    海香はこのチームの絶対的エースであり、誰よりも強いのは明らかだ。その海香先輩が何故──、
    乃百合の驚きはこれだけには留まらない。

    なんと顧問の先生は一息付いたあと、理由も聞かずにそれを了承したのだ。

    「ちょっと待って下さいよッ!」

    乃百合はたまらず口を出した。そんな事が理由も聞かず納得できるわけが無い。

    「海香先輩が出ないなんて私、納得出来ません!  六人しか居ないんですよ!?    それなのになんで……」
    「乃百合ちゃん……ごめん……」

    海香は逃げるようにその場を走り去った。きっと誰かが止めるだろう。乃百合はそう思っていた、だが──、
    
    「まっひー先輩ッ!!    どうして追わないんですか!?    友達じゃないんですか!?    仲間じゃないんですか!?」
     「あのさ。乃百合ちゃん、海香は──、」

    まひるの代わりに桜が口を開いたが、まひるがそれを止めた。それは海香本人から聞かせる方がいいと判断したからだ。

    「なんでなんにも言わないんですか!!    信じられません!     最低ですッ見損ないました!!    もういいです。私が海香先輩から話を聞いてきますから」

    乃百合はそう言って海香の後を追いかけた。事情を知らないブッケンと和子はどうしたらいいのかと慌てふためいたが、まひるに追うのを止められ、追いかける事が出来なかった。

    「今は乃百合一人で行かせてやってくれ。頼む……」

    ■■■■

    乃百合は直ぐに海香を見つけた。部員の多くは悩み事があるとここに来る事が多い。
    海香は海の見える石段に座り、遠くを眺めて座っていた。

    「あの……海香先輩……」
    「乃百合ちゃん。……さっきはごめんね」
    「あ、いえ……こちらこそ」
    「でもちょっと嬉しかったかも。ねー、隣り座りなよ」

    海香に促されるように乃百合は並ぶように石段に腰を下ろした。

    「あの、なんで急に団体戦のメンバーから外れたいと言ったんですか?    海香先輩、あんなに強いのに」
     「──、乃百合ちゃん。私の中学での戦績知ってる?」

    海香は思わず顔をうつ向けた。
    これから話す事は本人にとっても辛い事なのだ。

    「ええ、まぁ。確か一年生の全中は東北大会でベスト16。その年の新人戦が県大会ベスト4で、今年の全中は東北大会ベスト16ですね!    すごい成績ですよね」
    「そう……かも知れないね。でも一度も全国に行けてないし、地区でさえチャンピオンになれていない」
    「そ、それでも十分──、」
    「じゃあさ、乃百合ちゃん。私の団体戦での戦績も知ってる?」

    乃百合は海香の団体戦での戦績は知らなかった。誰からも話題にすら上がった事がなかったし、噂でさえ聞いた事が無かったからだ。

    「いえ……知りません……」
    「じゃあ教えてあげる。私の団体戦の戦績。一年生の全中。一回戦【2-3】負け。二回戦【2-3】負け。その年の新人戦。一回戦【2-3】負け、二回戦【1-3】負け。今年の全中。一回戦【1-3】負け」

     海香の団体戦の戦績を聞いて乃百合は驚いた。海香は中学に上がり、団体戦で一度も勝ったことが無い。

    「う……うそ……」
    「本当だよ」
    「なんで……あんなに強い、のに……」
    「私ね。病気らしいんだ」
    「……えっ」
    「心の病気。『イップス』て言うらしいんだけどね。自分でもよく分からないんだ。勝ちたいと思う程体が言う事を聞いてくれなくなるんだよ。三年生と二年生の皆は知ってる。きっと私の事を思って秘密にしていたんだと思うよ」
    「あ……」

    乃百合はこの時初めて先生やまひるの気持に気がついた。何も知らずに自分は海香を追いかけ、辛い事実をその口で言わせてしまったのだ。

    「優しいよね。大好き。だからこそ勝ちたい。けど、勝てない。個人戦は別にいいんだ。どこで負けたって。でもやっぱり欲が出ちゃうとダメで。あははっ…………私が出ない方がいい。出たら絶対に負けるんだから。だったらまっひーが──、」
    「病気なら治ります。私も協力しますから。だから……諦めないで下さい!    皆で県大会に行くんですよね?    自分が出たら負ける?    その逆だってあるじゃないですか!    私達を県大会に連れて行ってくださいよ!    海香先輩が居ない団体戦なんて……私、考えられません!」
     「ちょっと乃百合ちゃん、私の話聞いてたかなー?」
     「全部聞いてました。わかった上で言っています。だって海香先輩の心はまだ死んでないですから。まだ勝ちたいと思っている。知ってますか?   病気って治るんですよ。絶対に。だから……一緒に団体戦に出てください。出ることを、目指してください……」

    ──ッ!

    「優しいんだね。これじゃ余計に勝てなくなっちゃうよ……」
     「ごめんなさい……」

    海香は立ちあがると、体育館に帰ろうと乃百合の手を引いた。

    「まー、前向きに考えてみるよー。という事で、そろそろ戻ろうか」
    「はいっ!」

    ■■■■
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...