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第二章【越】
ありがとう
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──第五セット──
最大の山場を凌いだ乃百合を見届け、海香は胸を撫で下ろした。
そんな海香に、タイミングを見計らった様に三人組の女の子達が近づいて来た。この子達は、今は同じ学校に通っている、かつての海香のチームメイトである。
「海香! あんた、なんでこんな所に居るの!?」
「あ……みーちゃん。ちょっと色々あってね。次からちゃんと出るよー」
「次からはって……まぁ、海香がそう言うなら事情があるんだろうね。海香は昔から意外としっかりしてるから」
「意外とってなにー?」
話しながら海香と女の子達は、空いていた席に並んで腰掛けた。
この子達とは、なんとなく距離のあった関係だったが、全中での事がきっかけとなり、また昔のように親しい間柄になっていた。
話を聞けば、海香を悪く言っていたのは後輩達だけで、みーちゃん達は海香を庇ってくれていたらしい。
そんな事は知らない海香は、自ら距離を置き、それを誤解したみーちゃん達もまた、気遣い距離を置くようになっていたのだった。
【2-1】
「それにしても、第四セット凄かったね。あの子一年生だよね? いったい何者?」
「んー。よくわかんない。でも、不思議と皆が期待しちゃう娘なんだよー」
【3-2】
「うわっ、また決めた! ライジングドライブ!」
「私も経験あるけど、今は外す気がしないだろうねー。…………あのね、みーちゃん」
「ん?」
「応援してくれて、ありがとうー」
「……うん! あ、また決まったよ。せーの──、」
【4-3】
「「よーーし!!」」
第五セットは熾烈な戦いが続いていた。
今の乃百合は、言わば『ゾーン』に入った状態で、通常ではありえない力を発揮している。
だが、対する鶴岡琴女も黙って好き勝手にさせる訳にはいかない。
厳しい練習で知られる月裏中で、毎日努力してきた。仲間の期待を背負って、負けられないのは鶴岡琴女も同じなのだ。
振りをコンパクトにして自らレシーブに入る時間を作り、スピードや威力では無く、コースで乃百合を攻め立てた。
【4-5】
鶴岡琴女も全然負けてない。
中盤で逆転すると、尚も攻撃の手を緩めない。攻撃し続けて押し返さなければ、一気に飲み込まれてしまうからだ。
【4-6】
逆転され僅かに動揺した乃百合は、思わず念珠崎ベンチに振り向いた。するとそこには、約束通り確りと見守ってくれている仲間達が居た。
ちゃんと居る。
応援してくれている。
皆を見ると、元気と勇気が自然と湧いてくる。
──真昼の太陽の様に、いつも元気で明るく皆を引っ張ってくれる、まっひー先輩──
【5-6】
──まるで海の様に大きく穏やかで、強くて優しい。私の憧れであり目標、海香先輩──
【6-6】
──桜の木が様々な姿を見せるように、色々な知識やプレーで驚かせてくれる、桜先輩──
【7-6】
──初心者にも関わらず、けっして腐らずいつも皆を和ませてくれる、わっ子──
【8-6】
──ずっと自慢の親友。努力すれば鳥の様に高く飛び立つ事が出来ると教えてくれた、ブッケン──
【9-6】
「また来たッ、五連続ポイント!」
「本当に本当にこのまま押し切っちゃいそう!」
「頑張れ、乃百合ちゃん……」
「乃百合ちゃん、あと少しです!」
念珠崎チームは、立ち上がりそうな程前のめりになりプレーを見守っていた。
そして、互いの手を取り心を一つにして乃百合を応援し続けた。
二階席では三年生達も立ち上がり、得点毎に声を出し歓喜している。
そして海香は、いてもたってもいられなくなり、隣に居たみーちゃんに声をかけた。
「みーちゃん、ごめん。私、行かなきゃー」
「うん。行ってらっしゃい」
海香は飛び上がる様に席を立つと、勢いよく階段を駆け下りて行った。
──私だって負けられないよ! でも、この子試合中にどんどん強くなってく……このままじゃ──
【10-7】
執念で勝ち取ったゲームポイント。
乃百合の心は今まさに最高潮に燃えがっていた。
そして、遂にその時は訪れる──、
──皆と一緒に卓球が出来て、私は最高に幸せだよ。いつも助けてくれてありがとう。もっと沢山、皆と戦って行きたい。だから──、勝って県大会にッ!!──
乃百合のラケットが、弾んで間もないボールを捉える。
──絶対に、行くんだッ!!──
気持ちが乗り移ったかの様な打球に、鶴岡琴女のラケットが競り負けた。
────、そしてボールは台からこぼれ落ち、転々とさまよいながら、試合の終わりを告げた。
【11-7】
この瞬間、念珠崎チームの勝利が確定した。
会場は、静寂の後大歓声に包まれる。
万年予選敗退だった念珠崎が、強豪月裏を破り県大会へと駒を進める。その結果は瞬く間に他チームへと広まっていった。
歓喜の抱擁を交わした念珠崎チームは、審判に促され整列をし、激闘を繰り広げた月裏中との最後の挨拶をする。
「ゲームカウント【3-2】。よって、勝者、念珠崎チーム」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
そして、全ての挨拶が終わると、念珠崎チームの輪の中に勢いよく海香が飛び込んで来た。
その顔は感極まったのか、酷く崩れたものだった。
「みんな、ごめんねー、そしておめでとー、そして、そしてありがとー……」
「おいおい。そんなに泣いちゃってよ。俺達を信じてなかったのかよ?」
「海香が調子悪くても、私達でなんとかできるって所、見せられたかな?」
「海香先輩、お礼を言うのは私の方です! 最後の試合、海香先輩が居なかったら絶対負けてました」
乃百合の言葉に海香は不思議そうな顔をしたが、お構い無しにチームメイトは雨のように言葉を投げかけた。
「海香先輩、まだまだ一緒に戦ってもらいますからね!」
「そうですよ! 私達、六人揃って念珠崎チームなんですから!」
海香が何故遅れてきたのか聞く者は居なかった。ただそこに海香が居る。その事実が嬉しかった。
■■■■
結果纏め。
第一試合
興屋まひる(二年)VS加藤実(一年)。セットカウント【3-2】
第二試合
六条舞鳥(一年)VS上浜八千代(二年)。セットカウント【3-1】
第三試合
興屋まひる(二年)&小岩川和子(一年)VS酒田夜宵(二年)&鶴岡琴女(二年)。セットカウント【第二セット途中、棄権負け】
第四試合
藤島桜(二年)VS酒田夜宵(二年)。セットカウント【2-3】
第五試合
常葉乃百合(一年)VS鶴岡琴女(二年)。セットカウント【3-2】
結果ゲームカウント【3-2】となり、念珠崎チームが悲願の県大会行きを勝ち取った。
■■■■
第二章【越】─完─
最大の山場を凌いだ乃百合を見届け、海香は胸を撫で下ろした。
そんな海香に、タイミングを見計らった様に三人組の女の子達が近づいて来た。この子達は、今は同じ学校に通っている、かつての海香のチームメイトである。
「海香! あんた、なんでこんな所に居るの!?」
「あ……みーちゃん。ちょっと色々あってね。次からちゃんと出るよー」
「次からはって……まぁ、海香がそう言うなら事情があるんだろうね。海香は昔から意外としっかりしてるから」
「意外とってなにー?」
話しながら海香と女の子達は、空いていた席に並んで腰掛けた。
この子達とは、なんとなく距離のあった関係だったが、全中での事がきっかけとなり、また昔のように親しい間柄になっていた。
話を聞けば、海香を悪く言っていたのは後輩達だけで、みーちゃん達は海香を庇ってくれていたらしい。
そんな事は知らない海香は、自ら距離を置き、それを誤解したみーちゃん達もまた、気遣い距離を置くようになっていたのだった。
【2-1】
「それにしても、第四セット凄かったね。あの子一年生だよね? いったい何者?」
「んー。よくわかんない。でも、不思議と皆が期待しちゃう娘なんだよー」
【3-2】
「うわっ、また決めた! ライジングドライブ!」
「私も経験あるけど、今は外す気がしないだろうねー。…………あのね、みーちゃん」
「ん?」
「応援してくれて、ありがとうー」
「……うん! あ、また決まったよ。せーの──、」
【4-3】
「「よーーし!!」」
第五セットは熾烈な戦いが続いていた。
今の乃百合は、言わば『ゾーン』に入った状態で、通常ではありえない力を発揮している。
だが、対する鶴岡琴女も黙って好き勝手にさせる訳にはいかない。
厳しい練習で知られる月裏中で、毎日努力してきた。仲間の期待を背負って、負けられないのは鶴岡琴女も同じなのだ。
振りをコンパクトにして自らレシーブに入る時間を作り、スピードや威力では無く、コースで乃百合を攻め立てた。
【4-5】
鶴岡琴女も全然負けてない。
中盤で逆転すると、尚も攻撃の手を緩めない。攻撃し続けて押し返さなければ、一気に飲み込まれてしまうからだ。
【4-6】
逆転され僅かに動揺した乃百合は、思わず念珠崎ベンチに振り向いた。するとそこには、約束通り確りと見守ってくれている仲間達が居た。
ちゃんと居る。
応援してくれている。
皆を見ると、元気と勇気が自然と湧いてくる。
──真昼の太陽の様に、いつも元気で明るく皆を引っ張ってくれる、まっひー先輩──
【5-6】
──まるで海の様に大きく穏やかで、強くて優しい。私の憧れであり目標、海香先輩──
【6-6】
──桜の木が様々な姿を見せるように、色々な知識やプレーで驚かせてくれる、桜先輩──
【7-6】
──初心者にも関わらず、けっして腐らずいつも皆を和ませてくれる、わっ子──
【8-6】
──ずっと自慢の親友。努力すれば鳥の様に高く飛び立つ事が出来ると教えてくれた、ブッケン──
【9-6】
「また来たッ、五連続ポイント!」
「本当に本当にこのまま押し切っちゃいそう!」
「頑張れ、乃百合ちゃん……」
「乃百合ちゃん、あと少しです!」
念珠崎チームは、立ち上がりそうな程前のめりになりプレーを見守っていた。
そして、互いの手を取り心を一つにして乃百合を応援し続けた。
二階席では三年生達も立ち上がり、得点毎に声を出し歓喜している。
そして海香は、いてもたってもいられなくなり、隣に居たみーちゃんに声をかけた。
「みーちゃん、ごめん。私、行かなきゃー」
「うん。行ってらっしゃい」
海香は飛び上がる様に席を立つと、勢いよく階段を駆け下りて行った。
──私だって負けられないよ! でも、この子試合中にどんどん強くなってく……このままじゃ──
【10-7】
執念で勝ち取ったゲームポイント。
乃百合の心は今まさに最高潮に燃えがっていた。
そして、遂にその時は訪れる──、
──皆と一緒に卓球が出来て、私は最高に幸せだよ。いつも助けてくれてありがとう。もっと沢山、皆と戦って行きたい。だから──、勝って県大会にッ!!──
乃百合のラケットが、弾んで間もないボールを捉える。
──絶対に、行くんだッ!!──
気持ちが乗り移ったかの様な打球に、鶴岡琴女のラケットが競り負けた。
────、そしてボールは台からこぼれ落ち、転々とさまよいながら、試合の終わりを告げた。
【11-7】
この瞬間、念珠崎チームの勝利が確定した。
会場は、静寂の後大歓声に包まれる。
万年予選敗退だった念珠崎が、強豪月裏を破り県大会へと駒を進める。その結果は瞬く間に他チームへと広まっていった。
歓喜の抱擁を交わした念珠崎チームは、審判に促され整列をし、激闘を繰り広げた月裏中との最後の挨拶をする。
「ゲームカウント【3-2】。よって、勝者、念珠崎チーム」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
そして、全ての挨拶が終わると、念珠崎チームの輪の中に勢いよく海香が飛び込んで来た。
その顔は感極まったのか、酷く崩れたものだった。
「みんな、ごめんねー、そしておめでとー、そして、そしてありがとー……」
「おいおい。そんなに泣いちゃってよ。俺達を信じてなかったのかよ?」
「海香が調子悪くても、私達でなんとかできるって所、見せられたかな?」
「海香先輩、お礼を言うのは私の方です! 最後の試合、海香先輩が居なかったら絶対負けてました」
乃百合の言葉に海香は不思議そうな顔をしたが、お構い無しにチームメイトは雨のように言葉を投げかけた。
「海香先輩、まだまだ一緒に戦ってもらいますからね!」
「そうですよ! 私達、六人揃って念珠崎チームなんですから!」
海香が何故遅れてきたのか聞く者は居なかった。ただそこに海香が居る。その事実が嬉しかった。
■■■■
結果纏め。
第一試合
興屋まひる(二年)VS加藤実(一年)。セットカウント【3-2】
第二試合
六条舞鳥(一年)VS上浜八千代(二年)。セットカウント【3-1】
第三試合
興屋まひる(二年)&小岩川和子(一年)VS酒田夜宵(二年)&鶴岡琴女(二年)。セットカウント【第二セット途中、棄権負け】
第四試合
藤島桜(二年)VS酒田夜宵(二年)。セットカウント【2-3】
第五試合
常葉乃百合(一年)VS鶴岡琴女(二年)。セットカウント【3-2】
結果ゲームカウント【3-2】となり、念珠崎チームが悲願の県大会行きを勝ち取った。
■■■■
第二章【越】─完─
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