しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

差を分けるもの

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     コートチェンジをしている間に、桜は和子にカラクリの説明をした。

    「『時間差攻撃』?    ですか?」
    「そう。三ケ沢選手は時間差攻撃を使っているよ。それも絶妙な間隔でね」
    「バレーボールとかでよく見るアレですよね?    でも、卓球は一人なのに時間差攻撃ってできるもんなんですか?」
     「できるよ。三ケ沢選手、たまに打つ時、少し大袈裟に踏み込んだ足を鳴らしていたと思わない?    そこにカラクリがあるんだよ。強く踏み込むと足音が鳴るのは普通のことなんだけど、大体の選手は踏み込み音とボールがラケットにミートする瞬間が同じなんだ。でも三ケ沢選手は、時々わざと足音を早く鳴らして、少し遅れてボールをミートさせている。そのコンマ何秒かのズレのせいで、乃百合ちゃんのライジングドライブが尽く失敗してるんだと思う」
    「な、成る程……でもなんかちょっとそれ、ズルイです」
    「そんな事はないよ。これも立派な戦術。優れた感覚を武器にしてる乃百合ちゃんには最も有効な手段だと思うし、その使い方も褒められるほど上手いよ。多分相当なテクニックが必要だと思う。相手を出し抜くのは常套手段。私もそう言うタイプだから、あんまり非難されると辛いかな。あはは」
     「あ、すみませんっ。私ももっと勉強しなきゃですね!」

    ──第三セット──

     絶対に負けたくない相手にセットを連取され、後がなくなってしまった乃百合。
    だがカラクリはもうわかっている。気持ちを落ち着かせてここから仕切り直していけばいい。

    ──これって時間差攻撃……だよね……──

    試合の中でなんとか攻略しようと、乃百合の頭はフル回転していた。

    【0ー2】

    ──よく見て、音に騙されちゃダメだ。音とフォームの時間差を見極めなきゃ!    音が聴こえ──、──

    【0ー3】

    ──えっ!?    あの体勢からなのに、今……音が鳴らなかった……?──

     三ケ沢の踏み込んだ足は全くの無音。音に集中していた乃百合は、気づかぬ間に迫っていたボールを、ミスショットしてしまった。

    完全に試合の主導権を握られ、掌の上で転がされている状態である。

    ──音はフェイク、気にしちゃダメだ。忘れよう。このままじゃ本当に負けちゃう──

    自分に音は気にするなと言い聞かせても、大きく鳴り響く三ケ沢の足音が嫌でも耳に入ってくる。それと同時に意図せず体が思わず反応してしまう。

    【2ー6】

     足音を鳴らす時、必ずと言っていい程甘い球が来る。それは乃百合にとっては絶好球であり、甘い甘い誘い玉。
    誘われてるとわかっていても仕留めに行くのは、卓球選手の本能なのかもしれない。

    「タイムアウトを取った方が……お、教えてあげましょう!」
    「乃百合ちゃんはとっくに気がついているよ。あとは自分でどうにか出来るか出来ないか、だと思う」
     「そんな……」

    【4ー9】

    今の乃百合には対応し切れない。
    技術は互角かもしれないが、持っている引き出しの数、戦術、経験の差が二人に大きな差をつけた。
    三ケ沢音は、相手を倒す術を持っている。

    ──負けたくない……こんな人を馬鹿にしている人に……──

    【4ー10】

    ──そもそも、私が第一試合をやりたいって言ったんだ。もし第一試合が私じゃなくて、桜先輩だったら……海香先輩だったなら……──

    【4ー11】

     「ゲームセット!    勝者、三ケ沢選手! !」

    無情な審判の声が耳に触れると、乃百合の頭の中は真っ白になった。

    何も出来なかった。いや、させてもらえなかった。

    大切な第一試合を落とした。それも自らワガママを言って志願した試合を──


    最後に対戦相手と握手をするのが卓球のマナーだ。乃百合は力の抜けたその手で、三ケ沢と握手を交わす。

    「ありがとう……ございました……」
    「あー弱ぇ弱ぇ、もっと練習して来い。念珠崎に県大会はまだ早いわ」
    
     ありえない事を口走る三ケ沢に対して、乃百合は何も言い返せなかった。
    事実、圧倒的なまでに試合を支配され、ストレートで負けてしまったのだから。

    重い足取りで帰って来る乃百合を、チームメイトは優しく迎え入れた。
    「よくやった」「惜しかった」「頑張った」そんな言葉をかけられるたびに、乃百合の心は打ちのめされた。
    完全なる力不足を露呈し、絶対に許してはならない相手に完敗。わがままを通し大切な初戦を落とした。最早顔向けも出来ない。

    慰めの言葉も受け付けない程乃百合の頭にはネガティブな思いが渦巻いていた。

   そんな乃百合を優しく抱くように背中に手を回してきたのは、一番の親友であり理解者であるブッケンだった。

    「乃百合ちゃん。私がチャラにしてくるから。見てて」

     この試合に入ってからあまり口を開かなかったブッケン。その言葉は普段のブッケンには似合わないものだった。
 
     表情もどこかいつもと違う。
     普段前髪であまり見えないその目にも、なにか力強さを感じることができた。
     コートに向かう足取りもしっかりしている。それは、乃百合とブッケンの立場が逆転したかのような光景だった。


    ──第二試合──


 「六条さん対添津そえづさん、第ニゲーム、六条さんサービス、0-0ラブ・オール
    
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