80 / 96
第三章 【誓】
それを受けるのは
しおりを挟む勝利を掴み帰ってきた海香に、すぐさま乃百合は飛びついた。
その圧倒的強さと対照的な柔らかな可愛さは、乃百合にとって憧れだ。
「凄いです! 流石です! カッコイイです!」
「あははー、乃百合ちゃん重いよー」
他のメンバーも、今までの海香からは想像もつかない団体戦での活躍っぷりに、驚くと共に大きな喜びを感じていた。
「しっかし海香も変わったよなぁ……前は団体戦の度にベソかいてたのによぉ」
「ちょっとまっひー、その言い方酷いよー」
「あははははっ、まぁいいじゃねぇか! 無事に克服できたんだからよ」
「だねー。自分でも何が良かったのかわかんないんだけど、わっ子ちゃんと組んで、何かが変わった気がしたよーな」
「わわわっ私ですか!?」
「そそっ。わっ子ちゃん、ありがとー。わっ子ちゃんがこのチームに居てくれて、私は救われたよ」
「そんなっとんでもないです! 私なんて」
困る和子を見て、一同は一時の和やかな時間を共にした。
そしてすぐにその表情が引き締まっていく。次はダブルス──
「さぁ俺たちの番だぜ、わっ子」
「はっはいっ!」
師弟コンビ復活。
とは言えまひるの手首にはテーピングがガチガチに巻かれており、本当にこの状態でまともな卓球が出来るのか、些か疑問も残る。
だがやると決まった以上、やるしか無い。
ラケットを握り、素振りで感触を確かめた後、まひるは和子の腰に手を回し、決戦の地へとエスコートした。
どんな時でも頼りになる、部長のまひる。例えるならばその性格は虎である。鋭い目と爪で近寄る物を刈り取る、卓上の虎。
それも今となっては手負いの虎だ。そんなまひるの背中を不安そうに乃百合は見送った。
「まっひー先輩……大丈夫でしょうか……」
「腱鞘炎は甘く見てはいけない怪我だけど、一戦……この一戦だけならなんとか。かな」
「桜先輩もよくオーケー出しましたよね? 一番ガミガミ言いそうだと思ったんですけど」
「あのねぇ。私はみんなの為を思っていつも口うるさく言ってるの。損な役回りなんだからね。あと、先生にも言ったけど、責任は私が取るよ。ダメだと判断したら直ぐにやめさせるとも言ったし、無茶はしないでしょ」
「責任ったって……」
「ちゃんと取るよ。まっひーが左手で卓球が出来るようになるまで、つきっきりで練習に付き合ってあげる」
「ひぇ……」
──第三ゲーム──
念珠崎 興屋まひる(二年)&小岩川和子(一年)VS 小国真知(二年)&早田穂笑(一年)
これまで同様、審判のコールの後お互いに握手を交わし試合が始まる────
向かい合う相手は二人。
ダブルスの難しいところは、仲間との、息を合わせる事は勿論、敵である二人の特徴を把握しなければならないところにある。
──相手の小国の事は知っている。右のカットマン。広い守備範囲と、状況判断に優れ、賢い戦い方をするプレイヤーだ。ズバリ俺の苦手なタイプ。もう一人の早田……あんまり情報ねぇな……こればっかりは探りながらやるしかねぇ──
まひるが早田の事を知らないのも無理はない。歳も一つ下なら、実力を付け始めたのもここ最近。
早田はダブルスを組んで開花した、甘芽中の才能の一つである。
まひるの強く速いサーブ。
──よし、この手でもサーブは打てたっ───────ッんな!?
【0-1】
「速いっ!」
「プッシュか」
【プッシュ】相手の打球に合わせブロックを作り、タイミング良く押し込むように相手に返す。言わばショートカウンターである。
早田穂笑のラケット。
それはシェイクハンドの両面に表ソフトを貼ったラバー構成。
スマッシュとカウンターに特化した前陣向けのスタイルだ。
とは言っても、両面に表ソフトを貼る事は非常に珍しい。それは回転で勝負する現代卓球の逆を行っていると言っても過言ではない。
二球目のサーブはさっきよりも強く速いサーブを打ち込んだ。
【0-2】
プッシュされた打球は、和子がびっくりしている間にその横を通り過ぎていった。
カウンターとは相手が速いボールを打ち込めば打ち込む程、返ってくるボールもまた速い。
それは当然のことなのだが、この試合はダブルスである。
卓球のダブルスはテニスやバドミントンとは違い、“ 必ず交互に打球を受けなければならない ’’ というルールが存在する。
つまり──
まひるの打った速い打球を受けるのが、和子という事になる。
まひるが速く強い打球を打てば打つ程、和子が受ける打球が速くなるという皮肉な構図が、僅か二球で出来上がってしまったのだ。
序盤の流れは甘芽中に傾いた。
小国のカットで間を作り、早田のスマッシュとショートカウンターで得点を積み重ねていく。
【1-3】
【2-5】
【3-7】
この結果を受けて、甘芽中ベンチでは先ずは一安心と言った空気が流れていた。
「おっしゃおっしゃ、ダブルスはコッチのもんやな? アタッカーは怪我しとるし、相方も全然やないか」
「事実っすけど、それは今のところはっす。興屋まひるはやる女っすよ。その辺の県大会の選手より全然強いっす。何より、その勝ちへの気迫と執念は相手を飲み込む程っす。まだまだ安心はできないっすね」
「なんや? なっちはん、随分とあの興屋まひるってのを高く買ってるんやな?」
その二人の会話に、ここぞとばかりに池華花が割って入ってきた。
「実はですね、なっちさん、興屋さんに今年の全中の団体戦で完敗してるんですよ。それだけじゃなくて、個人戦の一回戦でも負けたんです」
「うっわー、その気持ちわかるわぁ! 自分に勝った相手が弱いと認めたくないっちゅうやつやな!」
「花っち余計な事は言うなっすよ。それに、興屋まひるは贔屓目なしに強いっす──」
【4-9】
まひるはチラリと隣の和子の様子を伺った。前の風北中の試合でもミスを連発した和子。周りのレベルについていけない事が重石になっていないか気が気ではない。
しかし当の和子はと言うと、案外ケロリとしたもので、まひるの視線に気がつくとこう話かけてきた。
「なんか、まっひー先輩全然楽しそうじゃないです」
ぷくっと膨らませたその頬が愛らしい。
「そ、そんな事ないって」
「また一緒にダブルスを組めて、私楽しみにしてたんですからね。もしかして、手、痛むんですか?」
多少の手首の制限はあるものの、手の痛みはそれ程気にはなっていない。
ただ、速い打球を打てば打つほど受ける和子の事が気になっていただけだ。
だが和子はそんな事を気にしてくれとは言ってはいない。逆にもっと楽しめと、もっと速い球を打てと言っているようだった。
「わっ子、知らないのか? 俺はスロースターターなんだぜ? 振り落とされないように、しっかり付いて来いッ!」
「はいっ!」
【5-10】
──早田穂笑、この俺と打ち合おうってのか? 上等じゃねぇか──
ラリーが続いた所で、隙をついたまひるのスマッシュ。今までよりも一段と速い、思い切りの良い打球が相手コートを襲う。
素早く反応を見せた早田だったが、全くの逆を突かれてしまった。
確かにこっち側に来る気配のあった打球だった筈──
【6-10】
まひる得意のフェイントに引っかかった早田は、まだ自分がなぜ逆に動いてしまったかわかっていない様子であった。
しかし念珠崎は、その後一点を返すも、前半の失点が響きこのセットを落とす事になる。
【7-11】
セットカウント【0-1】
エンジンのかかってきたまひるが躍動し始め、まだまだ先のわからないダブルス。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる