輝け!姫プリズム!!

風浦らの

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第一章【屈折と輝きの姫】

喜んで課金するぜぇぇ!

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    北をBチームが制圧し、南でCチームが盤面を引っくりかえした頃、忍のいるAチームは敵本陣に到着していた。

    いきなり突撃はせず、まずは物陰に身を潜め様子を伺う────

     「忍くん、頼んだよ」
     「こういうのは任せてください。スキル【識別】。」

    忍はシーフのスキルである【識別】を使い、相手の戦力を盗み見た。
    自分の役割をハッキリと理解し、チームプレーも板に付いてきたようだ。

    「どう?」
    「ん………………、強いの揃って居ますね…………課金額1400万クラスの黒魔術師と1300万クラスのモンク、あとは1000万クラスの賢者が2人。そして@Q……!!    課金額は1900万です」

   全員が廃課金で固められた敵本陣。よくもまあこれだけの面子を集めたものだ。その中でも一際戦力が高いのが、忍の宿敵@Q。
    たかが無課金が昔の仇討ちのために、この超大物に今から挑もうというのだから笑えてくる。

    「1900万、ね。一対一なら分からないけど、周りの取り巻きが厄介だね。さて、どうしたものか」
    「あの旗を狙うとか……?」
    「旗か。あの旗は見かけ以上に強固だよ。ギルドのランクによって運営側が特別に用意した物だからね。旗を折ることに集中していたら、取り囲まれる危険があるよ」

     忍とハルのやり取りを他のメンバーは黙って聞いていたが、中々いい案が思い浮かんでこない。そんな中、課金額750万円の『ジャオ』がある提案を示した。

    「俺が敵を惹きつけるうちに、残りのメンバーで一人ずつを倒していくのはどうだ?」
    「ジャオが囮に!?」
    
   このジャオという男、聖騎士というバランスの取れた職業であり戦力も並以上。この中に置いても決して見劣りする訳では無い。寧ろ、守りに徹すればAチームの中では最も強固だとも言える。

    そんなジャオが相手を数秒止めることが出来るならば、ハル、仁平のツートップで秒殺し数的有利を作り出すことが可能だろう。
    そうなればこの戦いを制する可能性もぐっと上がる筈…………

    「よし、それでいこう」
    「ちょ、ハルさん!    味方を囮にするなんて……!」
    「危険な目には合わせないよ。それは私が保証する。それに私はジャオの事を信じている。ジャオは初期の頃から姫様を慕い、私や仁平と共に尽力してきた男だから当然その実力も知っている」

    ジャオに対する信頼はそうとう厚い。それはハルの目を見れば明らかだった。
    忍よりも圧倒的に付き合いの長いハルがそう言っているのだ。ここは受け入れるのが最善────

    「────わかりました、それで行きましょう!」

    5人は目配せをして同時に頷くと、囮になる為ジャオが前線へと飛び出した。

    それに虚をつかれた敵の一人が、慌ててジャオとぶつかり合うと、狙い通りに戦闘がはじまった。
    そこで両サイドに開いていたハルと仁平がジャオと交戦している隙に、挟むように襲いかかった。

    「悪く思わないでね!」
    「うっす!」

    タイミングはバッチリだ。まずはこの一人を落として数的有利を─────

    「ぐっ……………………!」

    後方でサポートする為待機していた忍には何が起こったのかが理解できなかった。

    血を流し、前方に倒れた込んだのは…………『仁平』

    「え…………なんで……?    あのタイミングで仁平さんが…………」

    状況を見てもどうなっているのかよく分からない。頭がそれを理解しようとしてくれない。

    仁平の体を貫いていたのは『ジャオ』の持っていた『天元槍てんげんそう』という槍だった。この槍は間違いなくジャオの物────

    困惑する忍の耳には大きな笑い声が響いており、その笑い声の中心を取り囲むように集まった男達が、不敵な笑みを浮かべていた。

    「@Q……!!」

    忍は思わず飛び出した。
    この姿を生で見た途端、体の細胞が激しく昂り抑えが効かない。

    コイツだけは許さない────

    「ぎゃはははははははっ!   最っ高ぅぅぅぅ!!    おめぇらのその顔、最高だぜ!!」

     大笑いする@Qなど今はどうでも良かったハルは、ジャオに向けて仁平を回復するように指示を飛ばした。

    「ジャオ!   何をしているの!    早く仁平の傷を……!    回復はあなたの役目でしょ……!?」
    「ぎゃははははっ!   無駄だぜお嬢ちゃん?    ジャオはもう、こっち側の人間だからなぁ?」
    「なに!?   それはどういう…………」
    「このギルド戦が始まる前から、ジャオは俺達のチームに加担することが決まっていたんだよ!!    つまり、お前らは最初から裏切り者を連れて向かってたって訳。分かるかなぁ??」
    「────なっ…………ほ、本当なのか!?    ジャオ……!!   何とか言えっ!!」

    ジャオはハルと目を合わせることは無く、槍に付いた血を振り落とし静かに敵陣へと加わった。

    それがジャオの答えだった。

   「なんて事を…………!」

    数的有利を作り出すどころか、現在陥っている状況は全くの逆。
    敵はジャオが寝返った事により6人に増え、Aチームは仁平を失いまともに戦えるのはハル一人。余りにも戦力に差が開きすぎた。
    この状況では、どう足掻いたって勝ち目はない。皆殺しにされるのは火を見るより明らかだ。

    「ハルさん!    一旦下がりましょう!    BチームかCチームが来るのを待って、それから─────」
    「Cチームは来ねぇぜ!    Cチームにも裏切り者が混ざってるからなぁ!    今頃奴らも同じような状況になってんじゃねぇかなぁ!?    ぎゃははははっぎゃははははっ!!」  

    なんということか─────

    @Qの言うことが本当ならば、Cチームも崩れる事になる。そうなれば形成は一気に逆転…………間もなく本陣には敵の主力組が到着し、血で血を争う戦いが始まるだろう。

    「なんて卑怯な真似を…………!」
    「卑怯?   はぁ?    戯言を抜かしているのは誰ですかぁ?    俺はなぁ、勝つためにちゃんと金を払ってんだよ!!    おめぇらみてぇなケチ臭い奴らと一緒にすんじゃねぇよ!!!
    ジャオにだって三百万円払ってんだぜ?     それでこっち側に付くと契約してんだよ!    それの何がずるいんだよぉ!!     言ってみろぉ!! お前らにそれ以上の金が払えりゃいいだけだったんだぜ??    これは正当な取引だ!」
    「金の力で……!?   どこまでも腐った奴だ……!!」
    「おおっと、金の力でゲームを有利に進めるのは悪いことじゃあねぇ。それは運営側が推奨してる事だぜ?    このゲームは素晴らしい!    金さえ払えりゃ幾らでも勝てる!    強くなる!  人を殺したって罪にならねぇ!!!     
    現実世界じゃ人殺しは許されねぇけど、この世界じゃいくら殺したっていいんだぜ?   なあ最高だろ?    俺はこの快感を得るためなら喜んで課金するぜぇぇ!!      
    殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくるんだぜぇぇぇ!!    ぎゃははははっ!!
     むしろ、無課金で呑気にプレイしてるヤツらの方がよっぽど悪だぜ。アイツらはクソの役にも立たねぇ、クセェゴミ以下の存在だからなぁ!!   ぎゃははははっ! 」

    断然形勢有利な@Qの笑いが止まらない。
    勝ちを確信し、舌なめずり。
    目の前のハル、忍、猫ロンジャーをどうやって殺そうかと品定めを始めた様子だ。

     余りにも不快、下劣、品性の欠片も感じられない。が、ここはそれが許された世界。どんなに悔しくとも今の忍達にはどうする事も出来なかった──────




    ■■■■■■■■■■



    そしてCチーム。

    このチームは@Qの言う通り、揉めていた。

     「海月……!   助けに行かないとはどういう事だ……!!」
     「言葉通りだよ。Cチームは加勢に行かない。君達には時間が来るまでここで待機してもらうよ」
     「なにを……!    みんなも、きっとヤエちゃんも今頃必死に戦っている! それを見捨てるだなんて────っ。
    海月には忠義というものが無いのか!?」
    「忠義……忠義ならあるよ。ただ、その在り処が変わったんだ……それだけだよ。
 事情により私はここより先、みんなを通すことは出来ない。    どうしても行くと言うのなら、私を倒してからにして。だけど────、今の私は強いよ」

    Cチームの隊長であるクビトを差し置き、海月がこのチームを制御しようとしていたのである。

    暗い森のなか、時折月明かりで照らされる海月の表情は強ばっているようにも見える。その僅かな異変にクビトは気がついていた。

    「海月……お前は一体…………」
    「…………受け取ってしまったんだ…………だから…………ごめん」

    課金額で表せば隊長クビト1111万、副隊長海月850万。
    しかし海月の手元には、@Qから受け取った300万があった。そのお金でみんなが必死に戦っている中、一人課金し戦力を整えていた。それもレベルキャップ解放後、すぐさまレベル75まで引き上げたタイミングでだ。それはもっとも効率的な課金の仕方だった。

    結果、海月の戦力は爆発的に伸びリーダーであるクビトを凌ぐまでに跳ね上がった。

    「お前…………」
    「私は常にギリギリだった……これでもみんなに追いつこうと必死に課金してきた。でもそれもしんどくなってきて…………その時だった。あの人が手を差し伸べてくれたのは。おかげで私は強くなれた。クビトよりも…………だから、諦めてよ……お願いだから」

    月夜に浮かんだ双極の剣。
    その海月の持つ美しい双剣が、鈍く光りを放つ様に敵意を示した────
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