15 / 18
第一章【屈折と輝きの姫】
この世界には2種類の人間がいるわ
しおりを挟む@Qの買収工作によって戦況は大きく変わり始めた。
当然【通信】を各リーダーと【共有】しているヤエはこの状況を全て把握している。
が、ヤエとてそう簡単に指示を飛ばすことは出来ない。何故なら、敵の一軍が本陣に到着し、今まさにそれらと交戦中だったからだ。
Dチーム。つまり、本陣を守るこのチームは、『姫凪八重』を筆頭にし『ちゅんこ』『(ΦωΦ)』のツートップに加え『ルールー』『いっぬ』の布陣。他のチームに比べても手厚いが、迫り来る敵も中々のもの。赤子の手をひねるようにとはいかない────
そんな逼迫する中、隙を見てヤエはAチームのハルとコンタクトを取っていた。
『聞こえる? 状況はちゃんと理解してるわ。だからハル、ちょっと場所変わってくれる?』
『えっ? そんな無茶な……姫様と私がですか!?』
『そうよ。それが最善の策であり全ての問題を解決する唯一の手段よ』
『……………………わかりました。私は誰よりも姫様を信じています。ご武運を────』
『ハルもね。めちゃくちゃ期待してるんだから! さっさとこっちの敵をぶっ飛ばしちゃってね! じゃあ行くよー!』
ハルと通信を終えたヤエは、ここであるスキルを使用する。
これは契約を交わした者同士が、お互いの同意を得て居場所を交換する特殊スキル。その名を────
「じゃあ『(ΦωΦ)』ちょっと行ってくるね。あとは頼んだわ! スキル【交換転移】」
お互い信頼関係を結んだもの同士にしか使えない、極めて特殊なスキル。これによって、ヤエは一瞬にして最前線である敵の本陣にまで移動が可能になり、代わって最強の駒であるハルが味方本陣に返り咲くという荒業──────
そんな事があったとは知らない忍や猫ロンジャー、ひいては敵の大将@Qまでもが、突如現れた姫凪八重に驚いた。
「えっ!? や、ヤエ!? なんでここに…………」
「もちろん、ヤエたんの飼い犬が暴走してるって聞いたから、ちょっとお仕置をしにね!てへっ☆」
「いや、「てへ☆」じゃないから! ここがどこで、今がどういう状況かわかってんの!?」
「当然だ。だから来たのだ。たわけが」
「た、たわけ……」
場が総大将の登場で騒然とする中、誰よりも動揺している男が居る。それは裏切りの『ジャオ』
来て早々、そんなジャオにヤエは静かに語りかけた。
「ねえジャオ。君は忘れちゃったみたいだけど、ヤエたんはちゃーんと覚えているよ。あの日のこと……君と初めてあったあの日のことは、今でもはっきりとね。
────そう。あれは私がスタスタを始めて間もない時だったわ……右も左もわからず、何をやっていいのかも理解していなかった私。そんな可哀想なヤエたんは、説明書を読みながら毎日が勉強中の日々だったの─────」
「あれ……なんか語り出した……」
■■■■■■■■■■■
スタスタが配信されて最初のイベントは【燃えたドラゴン!~ほ熱ちゃー~】だった。
仲間も友達もいなく、何をすればいいのかよく理解もしないまま姫凪八重はウロウロと森をさまよっていた。ここがそのドラゴンの潜むイベント会場だとも知らずに─────
「ふむふむ。なるほど、装備できるスキルは10個……数も多いし、入れ替えにも高価なアイテムが必要になるからスキル選びは慎重に…………と。。。あれぇ? ここどこだろう……説明書に夢中になってて知らない場所に来ちゃったみたい」
ヤエは迷子になった。
自分の背丈の三倍はあろうかという石垣に囲まれ、見渡す限りにここは迷路。右に進めど左に進めど、出口どころか自分の現在地さえ把握する事が出来なかった。
「あわわわわわ……どうしよ……変な汗出てきちゃった……」
焦れば焦る程焦りが募る。
もしかしたらここで死ぬまでさまよい続けるのではなかろうかと、予期せぬ考えが押し寄せてくる。
と、その時、石垣の曲がり角から物音が聞こえた。
ヤエは自分の他にもプレイヤーが居たと思い、こころ踊らせながらその角を曲がった。するとそこに茶色の大きな体に、緑色の苔を生やした─────
「ドドドドドドドドドラゴン─────ッ!! 無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
このドラゴンの実力が如何程かは知らないが、目に映るそれは確実に強く、獰猛で、恐ろしかった。
ヤエは身の危険を感じ、来た道を引き返す為体を反転させようとした─────が、足がまるで石になったかのように動かない!
違う、なったかのようにでは無く、実際に石になっているのが、その目で確認できた。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理─────っ!!」
なんとか足を前に進めようと踏ん張ってみるがビクともしない。
それどころか石化現象はヤエの足から範囲が広がり、足首、ふくらはぎ、すね、と石化が進んでいった。
これはこのドラゴンが放つ『石化の視線』
ある高レベルモンスターだけが持つ特殊な能力────
「やだやだやだやだやだやだ! こんなところで死ぬなんて絶対に嫌だ!! まだ始まったばかりなのに!! 私にはこれからやるべき事があるんだからーーーっ!!」
獲物をガッチリと捉えたドラゴンは、大きな足音をたてながらヤエへと近づいて来る。
もうダメだ────、と思い目を閉じたが、いくら待っても痛みは襲って来なかった。
恐る恐る目を開けたヤエの前に、どこからともなく一人の男が現れ、ドラゴンを牽制していた。
男は『聖戦士』と呼ばれる職業らしく、その手に持つ槍はサンサンと太陽の光を浴び見る者の心を奪う程に眩く輝いていた。
「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「そうか、なら良かった。このドラゴンは炎のスキルが無いと倒せないんだ。でも大丈夫、こいつは俺が倒すからもう安心しな」
なんと頼もしい言葉か────
男はその言葉通りにドラゴンを危なげなく倒すと、その倒した後に宝石に変わった元ドラゴンをヤエに手渡した。
「はいこれ。君が見つけたドラゴンだから、この宝石は君の物だ。とっときな。
でもそのレベルと装備でこんな所に来るのはあまり感心しないな」
「あの……私、道に迷っちゃって……それにこれ……受け取れないわ……何もしてないうえに命まで助けられたのに」
そんなヤエを見て男はニコッと笑った。最初は堅物そうな人だと思ったが、笑うと意外と可愛いものだ。
「遠慮はするな」
その笑顔にヤエの心は一気に開かれた。そして今までの言動が嘘のように男をまくし立て始めた────
「いいえ、やっぱり受け取れないわ。この宝石はあなたが持ってて。そんな事より、あなた名前はなんて言うの?」
「名前? 俺の名前か? それなら『ジャオ』だ。 聖戦士ジャオ。宜しくな」
「ジャオ…………いい名前ね。ねえジャオ。あなた今、とっても気持ち良かったんじゃない?」
ヤエが自分より背の高いジャオを下から上目遣いで見上げると、ジャオは照れたような反応を見せ言葉を濁した。
「バ……バカヤロ! どういう意味だ……!」
「言葉の通りよ。
そんなに課金してどうするの?
なんの為に強くなるの? 強くなったその先には何があるの?
いい? ジャオ。この世界には2種類の人間が存在しているわ。
ひとつは『弱者を傷つける事で快感を得る者』もうひとつは『弱者を守る事で快感を得る者』よ。
そしてあなたはその後者。うん、間違いないわ。どう? 違った?」
ジャオは自然と自分の胸に手を当てていた。
これまで色んなゲームに大金をつぎ込んできたが、それは一体なんのためだったのだろうと、ふと思ったのだ。
それが、ヤエの言葉でその答えが導き出されたような気がした。
「ジャオ────、今日から私の騎士になってくれない? 」
「え……?」
「あなたが私を守るのよ! そしてそのお返しに私があなたに守られてあげるの! どう? いい案じゃない?」
「えっと……君が守られて……そのお返しに俺が守らせて貰って…………えっ?」
頭がこんがらがってしまいそうな言い方をしているが、結局ヤエが言いたいのはこういう事だ。
「この最弱の私に着いてくれば、最高の幸福感を得られることを約束するわ! なにせ私は守られなければ生きては行けないからね! わははははっ!」
「なんか……よくわからんが、それはそれで楽しそうだ」
「契約成立ね! これから誰も見た事が無い世界を見せてあげるわ! さあ、行こう! ジャオ!」
こうして姫凪八重とジャオは出会った。
守る対価として守らせてあげるという、謎の約束を交わして─────
■■■■■■■■■■■
「─────────っ。ああ、今でも昨日の事のようにハッキリと思い出せるわ」
目を閉じ回想に浸るヤエを見ていた忍は、つっこまずにはいられなかった。
「いや、なんか色々ツッコミどころ満載なんですけどっ!」
「相変わらず忍は全然分かっていないな。
私が守ってもらう代わりに、姫を支え貢献しているという満足感や、存在意義、ゲーム自体へのモチベーションを与える。ここには利害関係がハッキリと存在しているのだ。誰しもが得をするこのシステム。そう、これこそが『姫プリズム』
このギルドに集まったみんなは、多かれ少なかれこの気持ちを持っている。
ジャオもそして海月も────、本質は弱い者を守ろうとする人間なのだと、私は思っている。みんな凄くいい奴なんだ」
■■■■■■■■■
その言葉は【共有】を通してCチームのクビトに伝わり、クビトの口から海月にも伝えられた。
「────、だとさ」
その言葉を聞いた瞬間、海月は糸が切れた人形のように崩れ落ちると、剣を地面に落とし肩を震わせた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる