《Whispers in the Woods(森のささやき)》

ホラーうーさん

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2006年夏、アレックスたち5人は、久しぶりの再会を祝って森でキャンプをすることにした。

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メンバーはアレックス、エミリー、ジェイク、サミー、そしてトッド。
焚き火を囲んでビールを飲み、笑い合い、夜の森を軽く馬鹿にするような話ばかりしていた。

「ここって、昔“声に取り憑かれて自殺した”男の噂、あったよな?」
ジェイクがニヤつきながら言った。
「やめてよ、そういうの……」とエミリーが顔をしかめた。
けれど、そのとき、森の奥から“カラ…カラ…”という音が響いた。
鹿か、風か、何かの冗談だと思い、誰も本気にはしなかった。



翌朝、サミーがテントの中で冷たくなっていた。
首に細い縄の跡のようなものがあり、目は見開いたまま。
だが、外傷はなく、叫び声もなかった。

「心臓発作とかじゃない?」
とトッドが言うも、誰の表情も冗談には見えなかった。

「……夜中、何かがテントの周りを歩いてた気がする」
エミリーが青ざめて言った。

警察に連絡しようとしたが、持ってきた無線も、予備のバッテリーもなぜか壊れていた。



昼過ぎ、ジェイクが森に入って戻ってこなかった。

アレックスとトッドが探しに行ったとき、腐臭と共にそれを見つけた。
木に縛り付けられたジェイクの死体。
両目が黒く染まり、口から泥水のようなものを垂らしていた。
だが、誰かの足跡も、争った形跡もなかった。

その夜、誰もが眠れずにいた。
トッドは黙ったまま焚き火を見つめていた。
いつもの陽気さが消えていた。
アレックスはふと、彼の首元に“縄の跡”のようなものがうっすら見えた気がした。



「……声が聞こえるんだ」

トッドがポツリと呟いた。
「昨日から、誰かが『お前が殺せ』『順番だ』って言ってくるんだ……」

エミリーが息を呑む。
「それって、サミーやジェイクも……?」

「わからない。でももうすぐ俺の番だって……!」
突然トッドがナイフを取り出し、自分の喉に当てた。
アレックスとエミリーが止めようとするが、彼は尋常じゃなかった。

「逃げろ……もう、俺じゃないんだ!」

叫びとともに彼は自らを刺し、倒れた。

アレックスは信じられなかった。トッドの目は完全に黒く、声も別人のようだった。



「これは……何かに憑かれてる」
エミリーが震える声で言った。
「一人ずつ取り憑いて、殺させて……」

アレックスはテントに戻り、トッドの荷物を調べた。
そこには、森にまつわる古い新聞の切り抜きがあった。

《2002年、キャンプ地での変死事件:遺体は自殺とみられるも、関係者は全員不可解な発狂死。》

「……また戻ってきたんだ」



その夜、エミリーが眠っていた。
アレックスは焚き火のそばで見張っていたが、ふと気配を感じて振り返ると――
エミリーがすでに立っていた。
だが、その表情が違う。

「アレックス……終わらせよう?」

焚き火の揺れる光の中、エミリーが立っていた。
顔はいつものままなのに、瞳は真っ黒に染まり、どこか笑っていた。
その手には、泥まみれのナイフ――ジェイクのものが握られている。

アレックスは一歩後ずさった。
「やめろ、エミリー……何が起きてるんだ……?」

「私たちは、もう一つになるの」
声がエミリーのものではなかった。どこか複数の声が重なっているような、ノイズ交じりのささやき。
「みんな、そうした……君だけが残ってるんだよ、アレックス……」

足元の枝を踏みつけた音に、アレックスは反射的に走り出した。
後ろから、ナイフを持った足音が追ってくる。

倒木の陰に身を潜め、息を殺す。

――サク、サク……と地面を踏む音が、すぐ近くに止まった。

「逃げないで……アレックス。
あたしは……あたしは、まだここにいるの……!」

エミリーの声に、ほんの一瞬だけ、本来の“彼女”の震えが混じった。

アレックスは立ち上がり、彼女に向かって叫んだ。
「エミリー! もしまだ君がいるなら、抵抗してくれ!」

彼女の体がピクリと震える。

「もう……ムリ……あの“声”が……」

その瞬間、エミリーがナイフを自分の胸に向けて振りかぶった。

「ダメだ!!」

アレックスは飛び込み、彼女の手からナイフを弾いた。
体勢を崩した彼女を抱き止めると、その目に再び“黒”が広がっていく。

「……ありがとう……」

微かにそう呟いた彼女の体から、白い煙のようなものが抜けていった。
空気が凍りついたように静まり返る。

アレックスの腕の中で、エミリーの体は静かに崩れるように力を失っていった。


夜が明けた。

一人だけ生き残ったアレックスは、ぼろぼろの姿で森を歩いた。
やがて、林道に出たところで通報を受けた警官に保護された。

「彼らは……取り憑かれていたんだ」
アレックスの言葉に、警官たちは半信半疑だった。

だがその後、森で見つかった録音機には“囁く声”が延々と記録されていた。
意味不明な言語で、誰かの名を呼び続ける声。



それ以来、森には誰も近づかなくなった。

アレックスは今、都市部で静かに暮らしている。
だが、夜になると今もときどき、耳元で誰かがこう囁く。

「……次は、お前だよ――」



― End ―

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