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10.革命の英雄
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フレデリックは私を横抱きにし二階の窓から飛び降りた。私は落ちないように彼の首にしっかりとしがみつく。
夜空に月明かりに照らされ、銀髪が舞うと髪につけていたパープルダイヤモンドのピンが取れるのが見えた。私が十歳の時には結婚する事が決まっていた私とオスカー。
政略結婚ではなく、自分たちの間には愛と絆があると改めて彼からプロポーズされたのは十二歳の私の誕生日。その時に貰ったパープルダイヤモンドのピンりは気に入っていて、大切な時には必ずつけるようにメイドのリリアに伝えてあった。
『永遠の絆』を意味するピンが地面に落ちていくのが見える。
(さようなら、オスカー)
私たちはそのまま用意されていた馬車に乗り込んだ。私たちの馬車が城門を潜ったところで、王宮の灯りが一斉につくのが分かる。
「どうなってるの?」
馬車からその光景を見て、思わず漏れた声にフレデリックが微笑みながら応えた。
「魔法使いを同行させてるんだ」
バロン帝国の軍事力が圧倒的な理由の一つ、魔法使い。一瞬のうちに城中の光を奪うこともできるらしい。
私たちの馬車を馬に乗った護衛の騎士たちが囲んでいる。
フレデリックが派遣してくれていた帝国の騎士たちだ。彼らには、この二年アベラルド王国の騎士たちに稽古をつけて貰ったり、戦術を教えて貰ったりした。しかし、彼らは帝国の騎士であって、アベラルド王国の騎士ではない。フレデリックの命令により動くのだろう。
私の髪にフレデリックが触れて来て、私はその手の温もりに何故か涙が溢れた。貴族令嬢たるもの人前で泣くべきではない。でも、今は失った愛があまりに私の中で大きくて、心臓が奪われたように苦しい。
「シェリル、思いっきり泣くといい。君が望むなら、裏切り者の王子は殺してあげるよ」
「フレデリックもカロリーヌの事を知ってたの? 私、馬鹿みたい。愛や信頼なんて幻だったって、やっと昨晩気付いたの⋯⋯」
涙を止めようと目に力をいれても次から次へと溢れてくる。
フレデリックが私の目元に手を伸ばしてきた。
その仕草に私が目を瞬いていると彼がニヤッと笑う。
「シェリルの落とすダイヤモンドを残さず拾いたいんだ」
「変な事を言うのね」
「シェリルの真似をしただけだよ。でも、君の悲しみや憂いを全部取り払いたいというのは本当だ」
向かいに座っていたフレデリックが私の隣に来て、ギュっと抱きしめてくれた。私が頑張って来たのは弟、両親、そして何よりも愛するオスカーを守る為。愛し合っていると信じてたのに、彼は他の女と情を交わしていた。
「シェリル、こんな国はもう滅ぼしてしまおう。君に相応しくないよ。まるで、そのドレスみたいに⋯⋯」
私は昨晩、リメイクしたドレスを「恥ずかしい」とオスカーに言われたことを思い出し恥ずかしくなる。
「フレデリック、この国を滅ぼすなら私の両親と弟は助けてね。もう嫌。こんなドレス私だって着たかった訳じゃないの!」
一生に一度の結婚式。本当は昨日だって私の為に作ったウェディングドレスを着たかった。今日の披露宴だって皆が注目するから思いっきり着飾りたかった。でも、アベラルド王国の財政を考えてずっと我慢していた。
「じゃあ、脱がせてあげる」
フレデリックが私に抱きつきながら、ドレスを脱がしてくる。彼の手つきがくすぐったくて私は身を捩る。
「ちょっと、何? くすぐったい」
馬鹿馬鹿しくて、自分が愚かで私は泣きたいんだか、笑いたいんだかよく分からなくなってきた。
猛スピードで走る馬車の外を見ると、既に街中を抜けて森に入っている。以前、ここで野犬に襲われてオスカーの成人の誕生日に遅れそうでハラハラしたことを思い出した。あの時だったら、今のフレデリックのおふざけを許さずに引っ叩いていただろう。私に触れて良いのはオスカーだけ。オスカーは散々他の女に触れていたのに一人だけ誓いを立ててアホらしい。
遠くで吠える獣の声に一瞬私はビクッとなった。そんな私に気がついたのか、フレデリックは私の頬を両手で包み込み目線を合わせてくる。エメラルドの瞳には弱々しい私が映っていた。
「シェリル。全部、私に任せておけば大丈夫だから」
「ありがとう。信頼してるわ、フレデリック」
フレデリックが首筋に触れる手をくすぐったいと思っていたら、ぴたりと動きが止まった。
ふと彼を見ると、完全に彼の時間が止まっているように見える。馬車も止まっていて、私は扉を開けて外に出た。立ち上がった拍子にするりとドレスが落ちる感覚があり、私は慌てて着崩れたドレスを着直した。着替えもないのに、馬車の中でドレスを脱いで私はどうするつもりだったのだろう。
周りを見渡すと騎士たちや馬の時間も止まっている。
「動いているのは私だけ?」
私の呟きに、忘れられない声がした。
「今、この世界で動いているのは、あなたと私二人だけだ。シェリル・アベラルド!」
記憶にあるよりも幼い彼は今十六歳だろうか。
アルベルト王国を一年後に滅ぼした革命の英雄。
皆を導く強い太陽のような瞳。
「ユリシス!」
私の呼び掛けに、彼は一瞬不敵に笑うと崩れ落ちるように膝をついた。
夜空に月明かりに照らされ、銀髪が舞うと髪につけていたパープルダイヤモンドのピンが取れるのが見えた。私が十歳の時には結婚する事が決まっていた私とオスカー。
政略結婚ではなく、自分たちの間には愛と絆があると改めて彼からプロポーズされたのは十二歳の私の誕生日。その時に貰ったパープルダイヤモンドのピンりは気に入っていて、大切な時には必ずつけるようにメイドのリリアに伝えてあった。
『永遠の絆』を意味するピンが地面に落ちていくのが見える。
(さようなら、オスカー)
私たちはそのまま用意されていた馬車に乗り込んだ。私たちの馬車が城門を潜ったところで、王宮の灯りが一斉につくのが分かる。
「どうなってるの?」
馬車からその光景を見て、思わず漏れた声にフレデリックが微笑みながら応えた。
「魔法使いを同行させてるんだ」
バロン帝国の軍事力が圧倒的な理由の一つ、魔法使い。一瞬のうちに城中の光を奪うこともできるらしい。
私たちの馬車を馬に乗った護衛の騎士たちが囲んでいる。
フレデリックが派遣してくれていた帝国の騎士たちだ。彼らには、この二年アベラルド王国の騎士たちに稽古をつけて貰ったり、戦術を教えて貰ったりした。しかし、彼らは帝国の騎士であって、アベラルド王国の騎士ではない。フレデリックの命令により動くのだろう。
私の髪にフレデリックが触れて来て、私はその手の温もりに何故か涙が溢れた。貴族令嬢たるもの人前で泣くべきではない。でも、今は失った愛があまりに私の中で大きくて、心臓が奪われたように苦しい。
「シェリル、思いっきり泣くといい。君が望むなら、裏切り者の王子は殺してあげるよ」
「フレデリックもカロリーヌの事を知ってたの? 私、馬鹿みたい。愛や信頼なんて幻だったって、やっと昨晩気付いたの⋯⋯」
涙を止めようと目に力をいれても次から次へと溢れてくる。
フレデリックが私の目元に手を伸ばしてきた。
その仕草に私が目を瞬いていると彼がニヤッと笑う。
「シェリルの落とすダイヤモンドを残さず拾いたいんだ」
「変な事を言うのね」
「シェリルの真似をしただけだよ。でも、君の悲しみや憂いを全部取り払いたいというのは本当だ」
向かいに座っていたフレデリックが私の隣に来て、ギュっと抱きしめてくれた。私が頑張って来たのは弟、両親、そして何よりも愛するオスカーを守る為。愛し合っていると信じてたのに、彼は他の女と情を交わしていた。
「シェリル、こんな国はもう滅ぼしてしまおう。君に相応しくないよ。まるで、そのドレスみたいに⋯⋯」
私は昨晩、リメイクしたドレスを「恥ずかしい」とオスカーに言われたことを思い出し恥ずかしくなる。
「フレデリック、この国を滅ぼすなら私の両親と弟は助けてね。もう嫌。こんなドレス私だって着たかった訳じゃないの!」
一生に一度の結婚式。本当は昨日だって私の為に作ったウェディングドレスを着たかった。今日の披露宴だって皆が注目するから思いっきり着飾りたかった。でも、アベラルド王国の財政を考えてずっと我慢していた。
「じゃあ、脱がせてあげる」
フレデリックが私に抱きつきながら、ドレスを脱がしてくる。彼の手つきがくすぐったくて私は身を捩る。
「ちょっと、何? くすぐったい」
馬鹿馬鹿しくて、自分が愚かで私は泣きたいんだか、笑いたいんだかよく分からなくなってきた。
猛スピードで走る馬車の外を見ると、既に街中を抜けて森に入っている。以前、ここで野犬に襲われてオスカーの成人の誕生日に遅れそうでハラハラしたことを思い出した。あの時だったら、今のフレデリックのおふざけを許さずに引っ叩いていただろう。私に触れて良いのはオスカーだけ。オスカーは散々他の女に触れていたのに一人だけ誓いを立ててアホらしい。
遠くで吠える獣の声に一瞬私はビクッとなった。そんな私に気がついたのか、フレデリックは私の頬を両手で包み込み目線を合わせてくる。エメラルドの瞳には弱々しい私が映っていた。
「シェリル。全部、私に任せておけば大丈夫だから」
「ありがとう。信頼してるわ、フレデリック」
フレデリックが首筋に触れる手をくすぐったいと思っていたら、ぴたりと動きが止まった。
ふと彼を見ると、完全に彼の時間が止まっているように見える。馬車も止まっていて、私は扉を開けて外に出た。立ち上がった拍子にするりとドレスが落ちる感覚があり、私は慌てて着崩れたドレスを着直した。着替えもないのに、馬車の中でドレスを脱いで私はどうするつもりだったのだろう。
周りを見渡すと騎士たちや馬の時間も止まっている。
「動いているのは私だけ?」
私の呟きに、忘れられない声がした。
「今、この世界で動いているのは、あなたと私二人だけだ。シェリル・アベラルド!」
記憶にあるよりも幼い彼は今十六歳だろうか。
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私の呼び掛けに、彼は一瞬不敵に笑うと崩れ落ちるように膝をついた。
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