11 / 21
11.明かされる真実
しおりを挟む
膝から倒れ込んだユリシスに駆け寄る。
甘い果物の腐ったような不思議な香りがした。
アベラルド王国の白い近衛騎士の服を着ているが、王国に潜り込んでいたのだろうか。
回帰前、革命軍にはアベラルド王室の秘密の地下通路も露見していた。騎士名簿に彼の名前を見たことはないが、何度か制服を着て潜入していたのかもしれない。
「シェリル・アベラルド、王宮に戻れ。フレデリック・バロンを信用してはいけない」
ユリシスは血の気の引いた顔で私に必死に訴えてくる。
彼の首筋あたりが黒く爛れ落ちているのが見えた。
「ユリシス、貴方、首のところ怪我しているの?」
「怪我ではない。これは禁忌の魔法を使った代償だ」
ユリシスはアベラルド王国のスラム街出身だ。彼が魔法を使えたとは初耳だった。
「ユリシスは魔法使いだったの?」
彼は私の問い掛けに首を振ると、彼が魔法の力を得た顛末を話してくれた。バロン帝国の魔法使いより、魔法の使い方を習った彼。しかし、魔力がない彼が魔法を使うには魔力の代わりに生命力を代用としなければならないらしい。
「時戻しは禁忌の魔法だった。なんとか貴方に回帰前の記憶を残せたようだな、がはっ」
ユリシスが突然血を吐く。彼が時を戻して、私に記憶を残したというのだろうか。
「ど、どうして私に?」
「貴方だけだった。断罪した中で後悔を口にしたのは⋯⋯。だから、俺は貴方に託すことにしたんだアベラルド王国の未来を⋯⋯」
何が何だか理解できない。私があの時口にしたのは後悔ではなく、絶望。無力な私に希望を託して瀕死になっている彼が理解できない。
「貧困に喘ぐ民を顧みない王族や貴族たちを断罪した後、俺たちには自由があると思っていた。でも、俺はフレデリック・バロンに利用されただけだった。この国の民は国家に反逆した危険民族とされ帝国の管理下になった。家畜のような奴隷生活の始まりだ」
俄には信じがたい事実に驚く。フレデリックがユリシスを利用して革命を起こしたという事だ。アベラルド王国の正規の騎士団は革命軍に一気に制圧された。圧倒的な人数の差があったとはいえ、こちらは訓練された騎士たちが城を守っていた。真夜中に次々と革命軍が城に侵入されたのは完全な奇襲攻撃。彼らが持っていた武器には銃もあった。闇市で仕入れたというよりも、バロン帝国が用意したという方が納得がいく。
「なぜ、フレデリックはそんな方法を?」
「貴方は初めて会った俺の言う事を信じるのか?」
質問に質問で返された。私に今分かっているのはユリシスが瀕死の状態である事だ。そして、彼は自分の事ではなく、他人の為に自分を犠牲にして動いていた。多くの痛みや苦しみを一人で耐えて、見ず知らずの人間を助けようとしている。
こんな彼だから、人々は彼を英雄と呼び希望を託したのだろう。
きっと、フレデリックが彼に近付いたのは、彼の強い太陽のような光で自分の企みを隠す為だ。
「ユリシス、貴方を疑う方が難しいわ。それにしても、私に希望を託すなんて人を見る目がなさすぎよ」
「そんな事を言わないでくれ。俺はもうじき死ぬ。貴方はアベラルド王国の次期王妃だ。王家でしっかりと権力を持って、この国の民を守って欲しい」
彼が震える手で私の手を握る。
「王子妃なんて、何の力もないのよ」
「そんな筈はない。回帰前、シェリル・アベラルドはその性技でオスカー王子を骨抜きにした。オスカー王子が王位を継承してからは、国家の財政の殆どを自分に使わせたじゃないか」
(んっ? 性技?)
回帰前の私は国民の九割の民から自分がどう見られているかに無頓着だった。確かにオスカーは毎晩のように子作りの為に私の寝室を訪れた。私は妃教育で学んだ夜伽の学習通り完全に受け身。それなのに、民衆は私が性技を駆使しオスカーを骨抜きにしたと勘違いしていたという事だろうか。
「もう、オスカーは私の事を好きではないわ」
「簡単に諦めないでくれ。寝室に連れ込めば以前のように骨抜きにできるだろう。そして、枕元で国民の為になるような政策を囁いてくれ」
清廉潔白な成人もしていない十六歳の英雄が口にするとは思えないハレンチな事を私に期待している。
そもそも、フレデリックの今世でのプランは前世とは異なっている。
今世で彼はユリシスではなく私に接触した。
平民向けの学校を作り、バロン帝国の人間を派遣したのは識字率を上げ奴隷の価値を高める為?
対等な貿易協定を結んでくれたのは、どうせアベラルド王国が自国のものになるから?
「フレデリックは本当に今世も裏切るつもりなのかしら」
「シェリル・アベラルド、あの男に惚れたのか? 先程の窓割りの脱出劇といい演出が得意だからな。俺もあの男の演出に祭り上げられている事に気がつけなかったよ」
私は確かにフレデリックを頼りにしているが、惚れてはいない。
でも、確かに彼は出会った当初は突然キスをしてきたりした。色恋で私をコントロールしようとしていた可能性が高い。魔法使いを連れているならば、今のように時間を止めてゆっくり脱出すれば良いのに、小説の主人公のような脱出劇をした。タイミングも絶妙で、まるで私たちの会話を聞いてたみたいだ。
私は気がつけば屈んで足に巻かれた、アレキサンドライトのアンクレットに触れていた。
ユリシスが私の仕草を見て、手をかざすと淡いキラキラな光の粒子が石の中に現れた。
「そのアンクレット、盗聴魔法がかかっているな」
掛けられた言葉にゾッとする。何もかも聞かれていて、私はフレデリックに心酔するように仕向けられていたと言う事だ。
突如、ユリシスが顔を顰める。
「ヤバイ! 魔法使いに時を止めているのが気付かれた。時が動き出してしまう」
「ユリシス! 私に作戦があるの。貴方は取り敢えず馬車に轢かれて!」
「な、何を言ってるんだ!?」
「私、王宮には戻らないわ。私がフレデリックを利用する!」
王宮に戻ったところで、オスカーに期待できない。フレデリックの魔の手からは逃れるならば、彼の懐に飛び込んだ方が良い。
「待て! シェリル・アベラルド。貴方がフレデリックを性技で虜にできるとは思えない。相手はバロン帝国の冷酷皇太子だぞ」
私はユリシスの自分への評価は覆したいと強く思った。今の私は両親と愛しい弟に加え、この自分の事を考えず人の事ばかり思い遣っている英雄を救いたい。
「ユリシス、私なんかを希望だと言ってくれた貴方の英雄にならせて」
彼は私の言葉に目を丸くする。周りの空気が
震え始めた。きっと時がまた動くのだろう。
「ほら、ユリシス、馬車の前に出るのよ。優しく轢くから安心して」
ユリシスは苦笑しながら、「実際のシェリル・アベラルドは噂以上だな」と呟き馬車の前まで弱った体を引き摺る。
私はドレスを少し乱しながら、馬車の中に戻った。
甘い果物の腐ったような不思議な香りがした。
アベラルド王国の白い近衛騎士の服を着ているが、王国に潜り込んでいたのだろうか。
回帰前、革命軍にはアベラルド王室の秘密の地下通路も露見していた。騎士名簿に彼の名前を見たことはないが、何度か制服を着て潜入していたのかもしれない。
「シェリル・アベラルド、王宮に戻れ。フレデリック・バロンを信用してはいけない」
ユリシスは血の気の引いた顔で私に必死に訴えてくる。
彼の首筋あたりが黒く爛れ落ちているのが見えた。
「ユリシス、貴方、首のところ怪我しているの?」
「怪我ではない。これは禁忌の魔法を使った代償だ」
ユリシスはアベラルド王国のスラム街出身だ。彼が魔法を使えたとは初耳だった。
「ユリシスは魔法使いだったの?」
彼は私の問い掛けに首を振ると、彼が魔法の力を得た顛末を話してくれた。バロン帝国の魔法使いより、魔法の使い方を習った彼。しかし、魔力がない彼が魔法を使うには魔力の代わりに生命力を代用としなければならないらしい。
「時戻しは禁忌の魔法だった。なんとか貴方に回帰前の記憶を残せたようだな、がはっ」
ユリシスが突然血を吐く。彼が時を戻して、私に記憶を残したというのだろうか。
「ど、どうして私に?」
「貴方だけだった。断罪した中で後悔を口にしたのは⋯⋯。だから、俺は貴方に託すことにしたんだアベラルド王国の未来を⋯⋯」
何が何だか理解できない。私があの時口にしたのは後悔ではなく、絶望。無力な私に希望を託して瀕死になっている彼が理解できない。
「貧困に喘ぐ民を顧みない王族や貴族たちを断罪した後、俺たちには自由があると思っていた。でも、俺はフレデリック・バロンに利用されただけだった。この国の民は国家に反逆した危険民族とされ帝国の管理下になった。家畜のような奴隷生活の始まりだ」
俄には信じがたい事実に驚く。フレデリックがユリシスを利用して革命を起こしたという事だ。アベラルド王国の正規の騎士団は革命軍に一気に制圧された。圧倒的な人数の差があったとはいえ、こちらは訓練された騎士たちが城を守っていた。真夜中に次々と革命軍が城に侵入されたのは完全な奇襲攻撃。彼らが持っていた武器には銃もあった。闇市で仕入れたというよりも、バロン帝国が用意したという方が納得がいく。
「なぜ、フレデリックはそんな方法を?」
「貴方は初めて会った俺の言う事を信じるのか?」
質問に質問で返された。私に今分かっているのはユリシスが瀕死の状態である事だ。そして、彼は自分の事ではなく、他人の為に自分を犠牲にして動いていた。多くの痛みや苦しみを一人で耐えて、見ず知らずの人間を助けようとしている。
こんな彼だから、人々は彼を英雄と呼び希望を託したのだろう。
きっと、フレデリックが彼に近付いたのは、彼の強い太陽のような光で自分の企みを隠す為だ。
「ユリシス、貴方を疑う方が難しいわ。それにしても、私に希望を託すなんて人を見る目がなさすぎよ」
「そんな事を言わないでくれ。俺はもうじき死ぬ。貴方はアベラルド王国の次期王妃だ。王家でしっかりと権力を持って、この国の民を守って欲しい」
彼が震える手で私の手を握る。
「王子妃なんて、何の力もないのよ」
「そんな筈はない。回帰前、シェリル・アベラルドはその性技でオスカー王子を骨抜きにした。オスカー王子が王位を継承してからは、国家の財政の殆どを自分に使わせたじゃないか」
(んっ? 性技?)
回帰前の私は国民の九割の民から自分がどう見られているかに無頓着だった。確かにオスカーは毎晩のように子作りの為に私の寝室を訪れた。私は妃教育で学んだ夜伽の学習通り完全に受け身。それなのに、民衆は私が性技を駆使しオスカーを骨抜きにしたと勘違いしていたという事だろうか。
「もう、オスカーは私の事を好きではないわ」
「簡単に諦めないでくれ。寝室に連れ込めば以前のように骨抜きにできるだろう。そして、枕元で国民の為になるような政策を囁いてくれ」
清廉潔白な成人もしていない十六歳の英雄が口にするとは思えないハレンチな事を私に期待している。
そもそも、フレデリックの今世でのプランは前世とは異なっている。
今世で彼はユリシスではなく私に接触した。
平民向けの学校を作り、バロン帝国の人間を派遣したのは識字率を上げ奴隷の価値を高める為?
対等な貿易協定を結んでくれたのは、どうせアベラルド王国が自国のものになるから?
「フレデリックは本当に今世も裏切るつもりなのかしら」
「シェリル・アベラルド、あの男に惚れたのか? 先程の窓割りの脱出劇といい演出が得意だからな。俺もあの男の演出に祭り上げられている事に気がつけなかったよ」
私は確かにフレデリックを頼りにしているが、惚れてはいない。
でも、確かに彼は出会った当初は突然キスをしてきたりした。色恋で私をコントロールしようとしていた可能性が高い。魔法使いを連れているならば、今のように時間を止めてゆっくり脱出すれば良いのに、小説の主人公のような脱出劇をした。タイミングも絶妙で、まるで私たちの会話を聞いてたみたいだ。
私は気がつけば屈んで足に巻かれた、アレキサンドライトのアンクレットに触れていた。
ユリシスが私の仕草を見て、手をかざすと淡いキラキラな光の粒子が石の中に現れた。
「そのアンクレット、盗聴魔法がかかっているな」
掛けられた言葉にゾッとする。何もかも聞かれていて、私はフレデリックに心酔するように仕向けられていたと言う事だ。
突如、ユリシスが顔を顰める。
「ヤバイ! 魔法使いに時を止めているのが気付かれた。時が動き出してしまう」
「ユリシス! 私に作戦があるの。貴方は取り敢えず馬車に轢かれて!」
「な、何を言ってるんだ!?」
「私、王宮には戻らないわ。私がフレデリックを利用する!」
王宮に戻ったところで、オスカーに期待できない。フレデリックの魔の手からは逃れるならば、彼の懐に飛び込んだ方が良い。
「待て! シェリル・アベラルド。貴方がフレデリックを性技で虜にできるとは思えない。相手はバロン帝国の冷酷皇太子だぞ」
私はユリシスの自分への評価は覆したいと強く思った。今の私は両親と愛しい弟に加え、この自分の事を考えず人の事ばかり思い遣っている英雄を救いたい。
「ユリシス、私なんかを希望だと言ってくれた貴方の英雄にならせて」
彼は私の言葉に目を丸くする。周りの空気が
震え始めた。きっと時がまた動くのだろう。
「ほら、ユリシス、馬車の前に出るのよ。優しく轢くから安心して」
ユリシスは苦笑しながら、「実際のシェリル・アベラルドは噂以上だな」と呟き馬車の前まで弱った体を引き摺る。
私はドレスを少し乱しながら、馬車の中に戻った。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい
よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。
王子の答えはこうだった。
「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」
え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?!
思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。
ショックを受けたリリアーナは……。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる