贅沢悪女と断罪された私が、ドレスを脱いだら最強妃になりました。

専業プウタ

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17.略奪婚

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「オギャー、オギャー」
暗がりの中で赤子の喚き声がうるさい。足音や騒ぎ声が聞こえるが、この真っ暗闇でどう行動しているのだろうか。

一斉に城内の灯りがつくと、バロン帝国の騎士たちは消えていた。そこにいたのは赤子を抱いたカロリーヌ。

僕とシェリルの入場を告げる予定だった、従者が動揺しているのが分かった。
廊下の向こうから僕の補佐官が走ってくるのが見える。耳打ちされた言葉に血の気が引き、今更全てが繋がった。

『結婚証明書が盗まれています』

昨日の結婚式で僕とシェリルは結婚証明書にサインした。その証明書は城内で保管していて、後日教会に提出する予定だった。教会に提出し始めて僕たちは夫婦になる。

つまり、僕たちの結婚は未だ成立していない。
バロン帝国が「王子妃を略奪した」と抗議することができない。シェリルの立場は一介の侯爵令嬢だ。

そして、今、披露宴会場には各国の要人が集まっている。花嫁を奪われたと主張したところで、僕の礼服とペアになった赤子を抱いた女が邪魔をする予定なのだろう。

フレデリックとカロリーヌは最初から繋がっていた。
フレデリックは僕からダイヤモンドを奪い、僕にこの下品な女を当てがったのだろう。

そして、僕とシェリルは昨晩、初夜の儀を行っていない。
せめて初夜を済ませていれば、お腹に王族の子がいるかもしれない彼女を誘拐したと抗議できた。

ピンクダイヤモンドのティアラの警備を担当させていた近衛騎士団長のランスロットが藍色の髪を靡かせ走ってくる。僕の前まで来て、手を翳して敬礼をした。

「オスカー王子殿下、先程城内が真っ黒になりましたが、ティアラは無事でございます」

「ティアラの警備は終わって良い。この女を拷問し、知っている事を全て吐かせろ。三日で何も吐かない場合は殺せ」

カロリーヌがしたり顔がみるみる変貌し真っ青になる。

「待ってください。私は王族の子を産んだのですよ」
「その子が王族の血を引いていても、お前は引いてないだろう。お前は王族に薬を盛った罪で処刑だ。洗いざらい全てを吐けば命くらいは助けてやる」
「お優しいオスカー王子殿下がそんな事するはずないです」

僕が常にシェリルをもてなす姿を見ているからか、令嬢たちは僕が女性ファーストだと勘違いしている節がある。僕が大事なのはシェリルだけで、本来は冷たい人間だ。

「オギャー! オギャー」
何処から連れてきたか分からぬ赤子に目を移す。
「補佐官、この子は血縁検査が済むまで保留だ。目障りだから隔離しておけ」
補佐官が頭を下げ、赤子をカロリーヌから引き剥がし連れて行く。

「オスカー王子殿下、私のダミエ家はエレーヌ王妃殿下のご実家の縁戚ですよ」

「お前は馬鹿か? そんなものは何の免罪符にもならない。ダミエ男爵家は当然取り潰しだ」

カロリーヌは恐怖で震えている。これだけ大胆な詐欺に加担したのに、お咎めがないと勘違いしたのはフレデリックにうまく唆されたからだろう。

ティアラの警備が解かれ、僕の周りに近衛騎士たちが集まってきた。

扉の前で待機している侍従はソワソワしている。披露宴の開始時間が過ぎているからだ。

僕はシェリルを信じる事にした。連れ攫われた彼女は必ず僕の元に戻ってくる。僕たちの信頼関係は長く丁寧に構築してきたもので、簡単には壊れない。この披露宴は代役を立ててやり過ごせば良い。

銀髪にルビー色の瞳をしているのはこの国で二人。シェリルと、シェリルの弟レナルドだ。
僕は手を挙げると、近衛騎士の一人が近づいてくる。

「会場からレナルド・ヘッドリーを連れて来い。シェリルの代役をさせる」
僕のナイスアイディアに何故か騎士は驚いた顔をした。

「恐れ入りますが、オスカー王子殿下。レナルド・ヘッドリーは現在八歳の男の子でシェリル様の代わりは難しいかと思われます」

「まだ八歳だったか」

頭を抱える僕に提案をしてきたのは裏切り者の下品な女だった。

「オスカー王子殿下、私がシェリル様の代わりを務めます」
「お前がシェリルの代わり? 髪色も目の色も何もかも違う。何よりお前には気品がない」

カロリーヌは必死の形相で縋るように見てくる。シェリルが攫われた事に関しては箝口令を敷き、できるだけ広めないつもりだ。今、命が掛かっているカロリーヌは代役をこなし、何とか減刑を求めるつもりだろう。

(あっ、ウィッグ!)
僕は自分の寝室にオークションで競り落としたシェリルのウィッグがある事を思い出した。騎士に耳打ちしウィッグを取りに行かせる。

「カロリーヌ、今からシェリルの代役をして貰う。無事に勤め上げたら、命を助けると約束しよう」
「お慈悲をありがとうございます」

カロリーヌが深々と頭を下げる。他の女性の立ち居振る舞いを見る度にシェリルがどれだけ、僕の妃になる教育に真剣に取り組んできたか分かり胸が熱くなった。

「カロリーヌ、お前は会場に入ったら常に目を瞑っていろ。食事もしてはならない」
「それは、一体⋯⋯」
「分からないのか? シェリルは誰も文句をつけれないレベルの礼節を身につけている。そして、瞳の色はルビー色だ。目を瞑るのが嫌なら、今ナイフで刺してお前の目を赤く変えても良いんだぞ」

「いえ、言う通りにします。それから、披露宴の代役が終わりましたら私の言い分を聞いて頂けるとありがたいです?」

「言い分? 言い訳なく知っている事を全て喋るんだ。分かったな」

騎士が丁度僕の部屋からウィッグと純白の繊細なレースのヴェールを持ってくる。僕はこの二つの小道具で結婚式のシェリルを想像し楽しんでいた。こんな最悪の日になるとは思っても見なかった。

ウィッグとヴェールを身につけたカロリーヌの手を取る。

触れた時の感触がシェリルと違って不快だ。
しかし、この披露宴をやり遂げ、各国の要人にシェリルと結婚した事をアピールする必要がある。

僕にはフレデリックの狙いが分かっていた。彼の狙いは『略奪婚』。彼は僕と同じく地位も名誉も持っている。そんな男が辿り着くのがシェリルなのだ。当然、僕はシェリルを誰にも奪わせるつもりはない。

ランスロットをアイコンタクトで呼び、国境を封鎖するように指示を出す。

「オスカー・アベラルド王子殿下と、シェリル・アベラルド王子妃殿下の入場です」

披露宴会場の扉が開かれ、皆が一斉に注目する。

光の雫が降り注ぐような豪華なシャンデリア、会場の至る所に飾られた真っ赤な薔薇。九百九十九本の薔薇の意味は『何度生まれ変わっても愛してる』。この披露宴はシェリルを驚かせたくて僕が準備した。

二年前から、急に国の財政を気にして節約し始めた彼女。彼女に君はそんな事を気にする必要はないと伝えたかった。父上が来月には譲位すると伝えて来た。

この国が僕のものになったら、シェリルを世界一の贅沢をさせ幸せにすると決めているのだ。

来賓少し騒がしいのは、灯りが消えたトラブルのせいだろう。

先程の暗がりも演出という事にして仕舞えば良い。昔から演技は得意だ。本当の僕を知ってるのはシェリルだけでいい。
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