魅惑の御曹司の破滅愛から逃げたら、推しの溺愛が待ってました。

専業プウタ

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13.魔王

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「曽根崎玲⋯⋯本当に芸能人かと思うくらいカッコ良くて、一度見かけただけで忘れられなかった。私も周りの女の子と同じように彼に憧れていたんだ。彼はお金持ちの学校に通ってて、縁のない人だったけれど隙を見てファンレターみたいなのを書いて渡したの⋯⋯そんな子は私以外も沢山いたのだけれど⋯⋯」

 草井奈美子がポツリポツリと語り出した話の情景を、私はすぐに頭の中で再生できた。玲さんといると周囲の女性はみんな高揚したような顔で彼を見つめていた。そんな彼の婚約者である事を誇りに思っていたし、学生時代はさぞモテて大変だっただろうと思った。

「こっからはさ⋯⋯その⋯⋯ハードな内容というか⋯⋯凛音ちゃんに信じて貰えるかも分からないんだけど⋯⋯」
「信じるよ。勇気を持って打ち明けづらい事を話してくれてるって分かってるから⋯⋯」
 私は目に涙を溜め必死に言葉を紡ぐ草井奈美子の手を、気がつければ握っていた。こんな悲痛な表情を演技でできているならば彼女は一流の女優になっているし、玲さんの恐ろしさは殺された私が一番よく知っている。

「曽根崎玲から手紙の返事が来たの⋯⋯。私に興味があるから、話してみたいって。私ったら、夢みたいな気持ちになっちゃって、呼び出された場所に行っちゃった⋯⋯。そうしたら、半グレみたいな連中に囲まれて輪姦された⋯⋯。それを、楽しそうに曽根崎玲が見てて⋯⋯」
 ダムが決壊したように泣き出す彼女を見て、その時笑いながら彼女の苦しむ表情を見ていた玲さんが想像できた。
 きっと、彼は私が部屋で一人泣いている所も笑いながら見ていたのだろう。

「最低だね。警察に通報はしなかったの?」
「し、信じてくれるの? 通報はしたよ⋯⋯でも、曽根崎玲の関与は認められなくて、逆に私がストーカー扱いされちゃってさ。両親も怒って抗議したけれど、相手にされなかった」
「それは酷いね⋯⋯」

 私にはその状況が安易に想像できた。玲さんの曽根崎家は系譜を辿ると代々錚々たる面子を輩出している名家だ。警察だけでなく、至る所に圧力を掛けられるだけの権力を持っている。
 HIROが私の涙を先程の雑巾で拭いてきたので、思わず笑いそうになった。

「父は町工場をやっていたんだけれど、取引先から契約を全て打ち切られて⋯⋯。急に家に『真紘は母の子じゃない』って怪文書が来たの。それで、DNA鑑定をしたんだけど、父の子じゃないって分かって両親も離婚した。急に降りかかった不幸が全て曽根崎玲のせいとは言い切れないんだけど⋯⋯」

「えっ? そのDNA鑑定が間違っている可能性はないの? だって、HIROと過去の奈美子さんはそっくりだよ」

 私は先ほど見せられた8年前の写真を改めて見た。2人とも目は母親似で口元は父親似だ。

「タイミングよく母親が父に内緒で水商売をやっていた時期があった事も発覚してさ。父はそんな仕事をする人間は平気で誰とでもヤっているだろうって母を信じなくなった」
 私は『水商売』というのが何か分からなかった。
 恐らくマッチ売りの少女みたいに、水を手売りする仕事だろう。
 
「なんの仕事をしてたとか関係ある? それで、ただの紙っぺらを長い間一緒に過ごして来た時間より信じちゃうの? 目の前に自分にそっくりな子がいるのに? もう、一度DNA鑑定したら、奈美子さんの父親も自分の間違いに気が付くはずだよ!」
「も、もう遅いんだよ。離婚して私は父親に引き取られて、真紘は母親に引きとられた。母は病んで追い込まれて死んじゃったんだ⋯⋯」

 HIROはそれで施設に預けられ、草井奈美子は母親を思い出させる顔を整形させられたという事だ。信じられない程の大人の身勝手に怒りが湧く。そして、私は彼らに起こった全ての不幸の影に玲さんを感じていた。

 被害を訴えても取り合わなかった警察、鑑定書だけで妻の不貞を信じた父親、きっと草井奈美子の知らない場でも玲さんは暗躍している。

「玲さんは他にもそういう酷い事やってそうだね。あの人は人が苦しむところを見るのが好きそうだから⋯⋯」

 私の言葉を聞いて、草井奈美子とHIROが私の顔をまじまじと見る。
 私を信じて秘密を打ち明けてくれた彼らに、私も自分の弱さを打ち明けたくなった。
 弱みを人に見せないように強がって来たが、もう自分だけでは抱えきれそうにない。

「私ね。24時間玲さんに盗聴器やら隠しカメラで監視されていたの。その事をお爺ちゃまに言いつければ婚約破棄をできると思っていた。でも、お爺ちゃまは、むしろダメな私を見張ってくれる玲さんに感謝して感動してたよ」
 自分で言っていて情けなくなった。
 全ては私がいい加減に生きてきたツケだ。

「凛音のどこがダメなんだよ。めちゃくちゃ可愛いし、音楽の才能まであるじゃん」
 HIROがすかさず私を慰めてくれるが、私は自分が如何にダメかを知っているから逆に虚しくなった。

「24時間監視って⋯⋯凛音ちゃんは大丈夫? 部屋の中とかもだよね。今日はうちに泊まってく?」
 同じ女である草井奈美子は私に共感してくれたようだ。
 
「私が気がついた分の隠しカメラは取り除いてあるから平気。今日は母も帰ってくるし家に帰ろうと思ってるの」
 もしかしたら、まだ見つけられていない盗聴器が残っていたりするかもしれない。
 それでも、私は今日帰宅する母と話す必要があった。

「俺が家まで送るよ」
 前回、私を「嫌い」と言ったはずのHIROは私への好意を隠そうともしない。自分では隠そうとしているつもりだろうが、染まった頬や開いた瞳孔が私を好きだと告げてくる。

 前回、私を襲おうとしたのは、玲さんの婚約者である私を姉と同じ目に合わせてやりたかったのだろう。あまりにも感情的な行動で短絡的な思考回路だ。その衝動的な行動により全てを失うリスクさえある。

「HIRO、あなたのファンとして忠告すると、アイドルが同年代の女の子と一緒にいるのを見られるのはマイナスだと思う。本気で成功する事を目指すなら徹底的に自分を律しなきゃ」
 私自身も玲さんの奥さんになる未来があるからと、何にも懸命になった事はなかった。だから、今、自分には何もないのだと思う。HIROは人を惹きつけるような魅力と才能はあるが、それだけではきっと何も掴めない。
 
「そ、その⋯⋯また曽根崎玲に出会したら困るだろ。心配なんだよ。お願いだから、家まで送らせて!」
 手を合わせて私にお願いしてくるHIROはとても幼く見えた。
 私は底知れぬ恐ろしさを持つ魔王のような玲さんに、目の前の未熟なヒーローが勝てるとは思ってもなかった。
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