魅惑の御曹司の破滅愛から逃げたら、推しの溺愛が待ってました。

専業プウタ

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18.友達の輪

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 翌日、玲さんはリムジンで私を待っていた。
 王子様のように私をエスコートして、ソファーに座らせてくれる。

「おはよう。凛音。よく眠れた?」
「おはよう。玲さん。マットレスが私好みの硬さじゃなくて、あまり眠れなかったんだ。玲さんは、もしかして免停中?」
「違うよ。貴重な時間だから、しっかりと凛音と向き合って話したくて」

 玲さんの瞳にいつにない穏やかさを感じて、少しからからかってやろうと思った。

「そっか、結構走り屋の一面を見たから、てっきりスピード違反で事故でも起こして捕まったのかと思った」
「ごめん、小柳真紘のことになると冷静でいられなくて⋯⋯」
 玲さんの返しに胸が痛くなった。
 玲さんは私の浮気相手だったというHIROを殺したい程に憎んでいる。

「玲さん、もう、HIROとは会わないって約束するよ。私も不倫をするような男とは関わりたくない」
 自分で言っていて、どの口が言うんだと突っ込みたくなった。
 
 玲さんは軽く頷きながら、クリスタルのワイングラスを私に渡してくる。
 そして、鮮やかな赤紫色の飲み物を注いだ。

「えっ? 私、そこまで荒んでないよ。朝からワイン飲むような子ではないよ」
「ふふっ、ワインじゃないよ。新婚旅行で行ったフランスで凛音が気に入って常に取り寄せた葡萄ジュース」
 私は玲さんが短い時間で必死に私に関わろうとしている事に気がついた。
 もしかしたら、私の知らない彼との結婚生活を思い出して欲しいのかもしれない。
 私は緊張しながら、グラスに口をつけた。

「何、これ、美味しすぎる! 出会ったことないお味!」
「それは、良かった」
 思わず飲み干したグラスを玲さんがそっと片付けると、私を自分の太ももを枕にさせて寝かせた。

 玲さんの顔を見上げる形になるが、この角度で見ても驚きの美しさだ。
 そして、私はこうやって彼に膝枕してもらって会話をする事に抵抗がなく、むしろ懐かしい感じさえした。

「寝不足って言ってたから、学校に到着するまで寝てて良いよ」
「ううん。平気! それより、玲さんの好きだった私って、今の私とは違うんじゃない? 意固地になって私に拘っているところはない?」

 私はこの3年で急速に荒んだ。
 やはり、それは父の不倫により家庭が崩壊した事が大きい。
 そして、何でも言う事を聞いてくれる玲さんの存在により、私の我儘な性格は増長した。玲さんが出会って惚れた20歳の私は今のような我儘すぎて詰んだ私ではないはずだ。

「凛音は凛音だよ。もしかして、自分はもっと良い子だったんじゃって思ってる? 付き合っていた時も、結婚していた時も凛音はまあまあ我儘で僕は相当振り回されてたよ」
「えー? なんで、そんな女とまた結婚したいの? 玲さん、女の趣味だけは悪く生まれちゃったんだね」
 私は思わず笑ってしまった。

「我儘なところも好きだと思えるくらい、凛音を愛していたから⋯⋯」
 玲さんの瞳の中に寂しさが宿って、私はそんな彼を裏切ったという罪悪感に居た堪れなくなった。

「やっぱり、少し寝るね」
「了解! 後で、ベッドのマットレスを変えとくよ」
 さらっと玲さんが言った言葉に私は一瞬で目が冴えた。

「部屋に入るのは禁止! 合鍵とか作ってないでしょうね! 盗撮、盗聴は犯罪だからね。玲さん、自分がやられたら嫌な事やっちゃダメだよ」

「僕は凛音が僕を見ててくれたら嬉しいかな」
「変わった価値観をお持ちのようで⋯⋯たとえ、バレなくても殺しも犯罪だからね。おやすみ!」

 私はそういうと目を閉じた。
 当然、直ぐに眠れるわけがなかったが、玲さんが私の髪を撫でる手が気持ちよくていつの間にか眠ってしまった。
 
「凛音、学校に着いたよ。もう、起きて! 今日は5時間目までだから、14時半には迎えに行くね」
 玲さんの言葉に私は頷いて校舎の中に入った。

 教室までの廊下を歩いていると、私が大好きな人の姿が目に入った。
 くるくるパーマの肩までの髪に、色素の薄い茶色い瞳。

「美湖ちゃん!」
 無意識に私は彼女に呼び掛けていた。
 肩までのくるくるの髪を靡かせながら、驚きを隠せない顔で彼女が近づいてくる。

「あ、あのね。私、同じクラスの柏原凛音。私たち友達にならない?」
 人は衝動性を持つ生き物らしい。

 「友達になろう」みたいな言葉はドラマや漫画だけで存在するものだと信じていた。

 美湖ちゃんと友達になりたいという私の渇望は、恐ろしい程に稚拙な言葉を紡がせた。

「南野美湖です。実は柏原さんとは1年の時から同じクラスだよ。柏原さんが私の事を知っていてくれて嬉しい」

 綿菓子みたいな彼女の髪がふわっと舞い上がる。
 微笑みながら私に語りかける彼女を欲しいと思った。
 人が恋する瞬間にも似たような感覚。私は生まれる性別を間違えたのかもしれない。かなり不自然なアプローチをしたのに、受け入れてくれた彼女の度量に感謝した。

 私と南野美湖はそれから驚くようなスピードで仲良くなった。
 
 中休みには既にタメ口に会話をする仲になっていた。
 自分が心の扉を開けば、相手も開いてくれるのだと私は学んだ。

「凛音ちゃんって、『JKロック』に加入するの? 今朝、パパに言われてびっくりしたよ」
「私は柏原凛音だよ。アイドル活動なんか俗なマネする訳ないでしょ」

 自分で言いながら寂しい気持ちになった。
 奈美子さんとセッションした時に言いようもない気持ちよさを感じた。
 でも、頭も悪くて家柄と顔しか取り柄のない私が夢を語るなど烏滸がましいのは分かっていた。何よりも私はHIROと奈美子さんの近くにいるべきではない。

「そうだよね。でも、パパは凛音ちゃんは千年に一人の逸材だって言ってたよ。可愛くてキラキラしてて、抜群の魅力と音楽の才能があって⋯⋯」

「私に特別な才能なんて何もないよ」
 私の自虐的返答に美湖ちゃんが困ったような顔をした。
 
「凛音ちゃんって素敵な名前だね。パパが凛音ちゃんのことを堂々と凛とした素敵な音を紡げる名前の通りの子だって言ってたよ」
 美湖ちゃんが気を利かせて話題を変えてくれる。

 両親が私の名前をどのような意図でつけたなんか気にした事もない。
 私もお返しのように大好きな美湖ちゃんの名前を褒め称える事にした。

「美湖ちゃんこそ名前の通りだよね。美湖ちゃんは本当に静まり返って美しく湖面を輝かせるだけで人を引き寄せる魅力があるよ」

 美湖ちゃんは頬を真っ赤にして何も言えずに固まっていた。
 私はそんな彼女を見つめながら、彼女に相談事を持ちかける事にした。

「美湖ちゃんって、いつも学年10位以内に入っていて凄いと思う⋯⋯良ければ勉強を教えて欲しいんだけれど⋯⋯」

 私は恥を忍んで彼女にお願いした。
 元々 勉強は嫌いだったが玲さんと婚約してから全く勉強をしなくなった。
 完璧な婚約者が自分の言う事を何でも聞いてくれる状況。

 自分がどんな自堕落な日常を送っていても、将来は私の願いを全て叶えてくれそうな曽根崎玲と結婚する。
 赤点をとっても祖父が寄付金を積んで問題なく進級できるようにしてくれた。私はその環境に甘えて、嫌いな勉強はやる必要がないと思った。
 
 美湖ちゃんが私に自分のノートを見せてくれる。高校2年生はこれ程までに難解な事象に取り組まなければならなかったのかと私は動揺した。

「赤点をとらないレベルにはしたいの」
 赤点を取ってしまうと家に連絡が行く。
 そのレベルだと祖父がますます私を無能なペットのように看做すだろう。

 私は彼女の聖書のようなノートにかじりついた。
 「難し過ぎる⋯⋯」
 私の呟きに反応するように周囲が小声で私をバカにし出した。

「柏原さんって本当はかなりバカだよね。あんな優秀で完璧な婚約者と話が合わないと思うんだけどな。知能指数が20違うと話って成り立たないらしいよ。頭が良い側が悪い方にずっと合わせなきゃいけないんだって」
 私はその陰口に希望を見出した。

(玲さんは誰もが認める天才! 私とは確実に知能指数が20以上は違う! ナイス婚約破棄の説得材料!)

 玲さんが努力してくれているのは分かっていても、彼とやり直せるとは思えない。それは、崩壊してしまった柏原家が再構築できそうにないのと同じだ。

 立ち上がり、私の陰口を囁いていた女の子の前に行く。
 髪を一つ結びにしてメガネを掛けた彼女の名前は確か丸岡さんだ。
 学年1位を何度もとっている優秀な子なので、クラス浮いている私でも知っている有名人でもある。

「丸岡さん、知能指数20違うと話が成り立たないって本当? その豆知識を私にお裾分けしてくれないかな」
 私が発した言葉に、彼女は震えながら目を白黒させていた。

 友達ができるというのは偶然によるものが大きいのかもしれない。
 私の陰口を言っていた丸岡茉莉乃とも私は気がつけば仲良くなっていた。



 
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