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17.出会う順番
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「出会う順番が違っただけだって、自分と別れて欲しいって凛音は僕に言ったよ。子供もまだいないんだから問題ないでしょって⋯⋯僕のどこが小柳真紘に劣ってると言うんだ! トップアイドルといっても芸能なんて水商売と変わらないじゃないか!」
HIROはやっぱりこれからスターダムを駆け上がるようだ。
(⋯⋯水商売⋯⋯この単語は頻出テストに出るな⋯⋯)
玲さんが怨みのこもったような目で私を見つめてくる。
何時になく真剣で悲しみと怒りを閉じ込めた瞳に見入ってしまった。
全てを思い出せないのに、本当にあった事のように断片的なシーンの記憶が脳裏に蘇る。
「玲さんはHIROを憎んでいるんだね。だから、玲さんはHIROを殺したの?」
「まだ、今回は殺してないけどね」
あっさりと悪びれずに認める彼が恐ろしい。自らは手を下さず、彼が関係している証拠など残さないのだろう。
私の事も殺しているのだから、玲さん自身も気が付いてないかもしれないが、裏切った私への疑念は消せずにいる。そして、それが今後消えることはきっとない。
「不倫は確かに悪い事だけど、何も殺すことはなくない?!」
私は思わず大きい声を出してしまい、口元を抑えた。
私がカーテン越しの運転席の方を見ると、玲さんが首を振った。
仕切りのカーテンの見たことない程の分厚さを見るに、特殊な素材を使った防音カーテンなのかもしれない。
「不倫は犯罪じゃない。だからこそ、僕自身が裁くしかなかった。悪い事を悪いと教えてやる人間は必要だ」
玲さんは間違った事を言っているはずなのに、父の不倫によって自分の家庭が滅茶苦茶になった今は彼を非難できない。
私はなぜ玲さんの自分を見る目に恐怖してたのかを理解した。彼は私への愛情よりも深い憎しみを抱いていたのだ。全ては私の罪だった。
「玲さん、お願い! HIROを殺さないで」
「そんなに彼が好きなの?」
玲さんが呆れたように苦笑する。
現時点の玲さんとアイドル駆け出しのようなHIROで、HIROを選ぶような人間が存在するとは彼のファンの私でさえ考えられない。比べるのも失礼なくらい差がある2人だ。
「彼の事は全く好きじゃないよ⋯⋯本当に何で未来の私があんな粗野な男と不倫をしたのか理解に苦しむ」
私はどうしてHIROと不倫をしたのだろう。
HIROが私に近づいたのは、玲さんに復讐する為?
実際にHIROは一度玲さんに復讐する為に私に近づいて襲おうとしてきた。
未来の私はHIROのハニトラに掛かったの?
もしくは、草井奈美子の被害と家庭崩壊そのものが玲さんの復讐だった可能性もある。
どちらが先だとしても、玲さんの行動が常軌を逸していて私には到底受け入れられない。
頭が混乱している。
最初は私だけが死に戻りして17歳の誕生日時点に戻っていると思っていた。
窓の外を眺めると、もう恵比寿の辺りまで来ていた。
あと、もう少しで目的地に到着するだろう。
私は玲さんのことを部屋にあげるつもりはない。
彼の愛がどれだけ深くても、私は彼との婚約は破棄するつもりだ。
「玲さんは時を戻っても、不倫をするような私と結婚しようと思ったのは何で? そこまで私の顔が好き?」
不倫の残酷さを知った今、将来不倫するような女とまた結婚しようとしている玲さんが全く理解できなかった。
「あの時、僕が言った言葉聞こえていたんだ⋯⋯顔が好きなだけだったら、どれだけ良かったか。初めて時を戻った時、凛音とは関わらない人生を選ぼうとも思ったよ。でも、14歳の君をパーティーで見掛けた瞬間、やっぱり君を愛していると実感させられた。幸福だった2年間の結婚生活の記憶が僕を君から離さなかった」
(『気づいてるけど、諦められないの⋯⋯。だって、清十郎さんの隣にいて沢山幸せだったんだもの』)
なぜだか母の言葉を思い出した。
私たち家族にも幸せな時は存在した。
車がタワーマンションの地下駐車場に入って行く。
玲さんが涙を止めて微笑みを作りながら、私の手をとりエスコートして車から降ろそうとする。
中世西洋の王子様のような洗練された振る舞い。
完璧な彼を狂わせたのは自分だという事実に向き合うべきだ。
「玲さん、ここまでで良いよ」
「部屋まで送るよ」
「ここまでで良いって言ったでしょ」
私がどう振る舞えば、玲さんは私を諦めてくれるだろう。
「じゃあ、明日7時半に迎えに来るから。学校まで送るよ」
「学校には電車で行くから、結構よ!」
「電車?」
玲さんが心底驚いた顔をする。
私は賢い彼を出し抜けたような気持ちになり、得意げになった。
「凛音、電車はダメだよ」
玲さんが静かに呟くと私を抱きしめて、唇をこじ開けて深いキスをしようとして来た。 私は戸惑いながらも、罪悪感からかそれを受け入れていた。身を委ねなくなりそうな気持ちよさに一瞬頭が朦朧とする。気持ちなど関係ないくらい、HIROのキスよりもテクニックに長けている。潔癖に見えて、彼は凄く女の扱いに慣れている気がした。
息が苦しくなりそうなりながらも、その快感に溺れそうになっていると突然の感触に驚く。
(待って、今、胸を触られた?)
「ちょっと、やめて! はっぁ! やめてって言ってるでしょ、この痴漢!」
私は彼の腕の拘束から逃れようと体を翻して胸を手で隠そうとした。
「電車に乗ったら、見知らぬ人間からこういう事をされるよ。だから、電車に乗るのは許さない」
私に静かに言い聞かせて来るように彼が伝えてくる。
心底、私を心配するような彼に胸が苦しくなった。
(私、玲さんのこの顔も見たことあるような気がする⋯⋯)
「分かった⋯⋯」
「このマンションにいる間の送り迎えは僕がする。普段と違う道を通ったりする時って事故とか起こりやすいし心配なんだ」
「いいよ。行きの送りだけで⋯⋯」
私がつれなく言った言葉に、彼が傷ついた顔をした。
「もう、凛音の中で婚約解消は決まってるんだね。極力会わないようにして1週間後にまるで今決めたかのように婚約を解消したいって言うつもりなんだ」
心の内を見抜かれていて、私は狼狽した。
自分が不倫していた事を聞かされ、流石に罪悪感に苛まれる。
「行き帰りの送り迎えは玲さんにお願いしようかな。でも、玲さん仕事は?」
「僕にとっては凛音が最優先! 凛音より優先する仕事なんて存在しないから。じゃあ、明日7時半に」
私の頬に軽くキスをすると、玲さんはリムジンに乗り込み去って行った。
(「あんなに愛してくれる人なんてこの先現れないわよ」)
母の言葉を思い出しても、私と玲さんの愛の天秤は傾いている。
彼の深い執着にも似た愛に返せる気持ちが私にはない。
HIROに対してトキメキを感じる事はあっても、安全を脅かしてまで会いたいとは思わない。
玲さんとも別れるし、HIROにも、もう会わない。
それは私の中で決定事項だったはずだった。
HIROはやっぱりこれからスターダムを駆け上がるようだ。
(⋯⋯水商売⋯⋯この単語は頻出テストに出るな⋯⋯)
玲さんが怨みのこもったような目で私を見つめてくる。
何時になく真剣で悲しみと怒りを閉じ込めた瞳に見入ってしまった。
全てを思い出せないのに、本当にあった事のように断片的なシーンの記憶が脳裏に蘇る。
「玲さんはHIROを憎んでいるんだね。だから、玲さんはHIROを殺したの?」
「まだ、今回は殺してないけどね」
あっさりと悪びれずに認める彼が恐ろしい。自らは手を下さず、彼が関係している証拠など残さないのだろう。
私の事も殺しているのだから、玲さん自身も気が付いてないかもしれないが、裏切った私への疑念は消せずにいる。そして、それが今後消えることはきっとない。
「不倫は確かに悪い事だけど、何も殺すことはなくない?!」
私は思わず大きい声を出してしまい、口元を抑えた。
私がカーテン越しの運転席の方を見ると、玲さんが首を振った。
仕切りのカーテンの見たことない程の分厚さを見るに、特殊な素材を使った防音カーテンなのかもしれない。
「不倫は犯罪じゃない。だからこそ、僕自身が裁くしかなかった。悪い事を悪いと教えてやる人間は必要だ」
玲さんは間違った事を言っているはずなのに、父の不倫によって自分の家庭が滅茶苦茶になった今は彼を非難できない。
私はなぜ玲さんの自分を見る目に恐怖してたのかを理解した。彼は私への愛情よりも深い憎しみを抱いていたのだ。全ては私の罪だった。
「玲さん、お願い! HIROを殺さないで」
「そんなに彼が好きなの?」
玲さんが呆れたように苦笑する。
現時点の玲さんとアイドル駆け出しのようなHIROで、HIROを選ぶような人間が存在するとは彼のファンの私でさえ考えられない。比べるのも失礼なくらい差がある2人だ。
「彼の事は全く好きじゃないよ⋯⋯本当に何で未来の私があんな粗野な男と不倫をしたのか理解に苦しむ」
私はどうしてHIROと不倫をしたのだろう。
HIROが私に近づいたのは、玲さんに復讐する為?
実際にHIROは一度玲さんに復讐する為に私に近づいて襲おうとしてきた。
未来の私はHIROのハニトラに掛かったの?
もしくは、草井奈美子の被害と家庭崩壊そのものが玲さんの復讐だった可能性もある。
どちらが先だとしても、玲さんの行動が常軌を逸していて私には到底受け入れられない。
頭が混乱している。
最初は私だけが死に戻りして17歳の誕生日時点に戻っていると思っていた。
窓の外を眺めると、もう恵比寿の辺りまで来ていた。
あと、もう少しで目的地に到着するだろう。
私は玲さんのことを部屋にあげるつもりはない。
彼の愛がどれだけ深くても、私は彼との婚約は破棄するつもりだ。
「玲さんは時を戻っても、不倫をするような私と結婚しようと思ったのは何で? そこまで私の顔が好き?」
不倫の残酷さを知った今、将来不倫するような女とまた結婚しようとしている玲さんが全く理解できなかった。
「あの時、僕が言った言葉聞こえていたんだ⋯⋯顔が好きなだけだったら、どれだけ良かったか。初めて時を戻った時、凛音とは関わらない人生を選ぼうとも思ったよ。でも、14歳の君をパーティーで見掛けた瞬間、やっぱり君を愛していると実感させられた。幸福だった2年間の結婚生活の記憶が僕を君から離さなかった」
(『気づいてるけど、諦められないの⋯⋯。だって、清十郎さんの隣にいて沢山幸せだったんだもの』)
なぜだか母の言葉を思い出した。
私たち家族にも幸せな時は存在した。
車がタワーマンションの地下駐車場に入って行く。
玲さんが涙を止めて微笑みを作りながら、私の手をとりエスコートして車から降ろそうとする。
中世西洋の王子様のような洗練された振る舞い。
完璧な彼を狂わせたのは自分だという事実に向き合うべきだ。
「玲さん、ここまでで良いよ」
「部屋まで送るよ」
「ここまでで良いって言ったでしょ」
私がどう振る舞えば、玲さんは私を諦めてくれるだろう。
「じゃあ、明日7時半に迎えに来るから。学校まで送るよ」
「学校には電車で行くから、結構よ!」
「電車?」
玲さんが心底驚いた顔をする。
私は賢い彼を出し抜けたような気持ちになり、得意げになった。
「凛音、電車はダメだよ」
玲さんが静かに呟くと私を抱きしめて、唇をこじ開けて深いキスをしようとして来た。 私は戸惑いながらも、罪悪感からかそれを受け入れていた。身を委ねなくなりそうな気持ちよさに一瞬頭が朦朧とする。気持ちなど関係ないくらい、HIROのキスよりもテクニックに長けている。潔癖に見えて、彼は凄く女の扱いに慣れている気がした。
息が苦しくなりそうなりながらも、その快感に溺れそうになっていると突然の感触に驚く。
(待って、今、胸を触られた?)
「ちょっと、やめて! はっぁ! やめてって言ってるでしょ、この痴漢!」
私は彼の腕の拘束から逃れようと体を翻して胸を手で隠そうとした。
「電車に乗ったら、見知らぬ人間からこういう事をされるよ。だから、電車に乗るのは許さない」
私に静かに言い聞かせて来るように彼が伝えてくる。
心底、私を心配するような彼に胸が苦しくなった。
(私、玲さんのこの顔も見たことあるような気がする⋯⋯)
「分かった⋯⋯」
「このマンションにいる間の送り迎えは僕がする。普段と違う道を通ったりする時って事故とか起こりやすいし心配なんだ」
「いいよ。行きの送りだけで⋯⋯」
私がつれなく言った言葉に、彼が傷ついた顔をした。
「もう、凛音の中で婚約解消は決まってるんだね。極力会わないようにして1週間後にまるで今決めたかのように婚約を解消したいって言うつもりなんだ」
心の内を見抜かれていて、私は狼狽した。
自分が不倫していた事を聞かされ、流石に罪悪感に苛まれる。
「行き帰りの送り迎えは玲さんにお願いしようかな。でも、玲さん仕事は?」
「僕にとっては凛音が最優先! 凛音より優先する仕事なんて存在しないから。じゃあ、明日7時半に」
私の頬に軽くキスをすると、玲さんはリムジンに乗り込み去って行った。
(「あんなに愛してくれる人なんてこの先現れないわよ」)
母の言葉を思い出しても、私と玲さんの愛の天秤は傾いている。
彼の深い執着にも似た愛に返せる気持ちが私にはない。
HIROに対してトキメキを感じる事はあっても、安全を脅かしてまで会いたいとは思わない。
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