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16.私が不倫?
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私はHIROを思いっきり突き飛ばす。
「必要ないよ。私に構って良いことなんて一つもないから」
「俺は危ない目にあっても良いよ。それよりも、俺が凛音を守りたいんだ」
どうして彼にとっては今日出会ったばかりの私にそこまでしようとしてくるのか全く理解できない。私は彼が死ぬ運命を知っている以上、絶対に自分から彼を引き剥がさなくてはならない。
「HIRO⋯⋯お願いだから貴方はダンスや歌を磨いて自分の事に集中して。私、貴方のパフォーマンスに沢山元気を貰ったの。私の為を思ってくれるなら、私から離れたところで活躍を見せてくれるのが一番なんだよ」
「いや、で、でも」
「HIROは奈美子さんの事を守ってあげて。あと、奈美子さんに伝えてくれる? 私、奈美子さんの生歌がとても素敵て感動したの。女子高生のフリなんかしなくても、きっと本当の奈美子さんで十分に人気者になれると私は思うよ」
「いや、でも、『JKロック』だし」
「JKなんて誰が女子高生の略って決めたの? 実はジャクソンの略だって事で良いじゃない」
奈美子さんは顔も自分の意志とは無関係に変えられて、経歴まで嘘をつかされている。
嘘をつき続ける事の苦しさが私は少しは分かる気がした。
「もう、ジャクソンって何だよ。意味わかんねーよ。なんか、凛音って危なっかしくて放って置けないんだよ。お前一人じゃ曽根崎玲になんか絶対に勝てないよ」
HIROがまた懲りずに私を抱きしめようとしてくるので、私はそれを振り解いた。
「大丈夫だよ。私、変わるから。強い柏原凛音になるから。玲さんとの婚約も破棄して晴れて自由の身になったら、コンサートに行くね」
私はそう言うと、抗議してくるHIROの手を引きながら彼を門の外に出した。
鈴木さんに取り敢えずの荷物を纏めてもらって、階下に降りるとエントランスホールに私の婚約者が来ていた。
「凛音ちゃん⋯⋯」
母が困ったような顔で私を見つめてくる。
「凛音、今日から一人暮らしを体験してみたいって? 僕が新居まで送るよ」
涼やかに微笑む玲さんに私は戸惑いを隠せない。
「玲さん、私は玲さんから逃げたくて、この家を出ようとしてるんだよ。玲さんが婚約を破棄してくれるまでは、もう会いたくない」
彼に対する恐れがあるが、ここは私の自宅だから突然殺されるような事はないだろう。
私の言葉に玲さんは一筋の涙を流した。
その姿に一瞬心臓が止まりそうになる。
彼の涙を見るのは初めてのはずなのに、なぜか既視感を感じた。
私が何も言わずに彼を見つめていると、急に玲さんが膝をついた。
「凛音を傷つけるつもりはなかったんだ。君の事を愛し過ぎて自分でもバカな事をしたと思っている。どうか、もう一度だけ僕にチャンスをくれないか?」
今にも土下座しそうな勢いに周囲にいた使用人たちがざわめきだす。
「曽根崎さん、そんな事はおやめください。凛音っ!」
母も焦って跪いた。
いつも穏やかに私をちゃん呼びする彼女が呼び捨てにしている。
「曽根崎様はあんなに尽くしてくれたのに」「凛音お嬢様は何が不満なの?」ヒソヒソと使用人たちが小声で話しているのが耳に入った。この3年間、私の我儘を散々聞いてきて私を最優先してきた彼だ。皆が彼側についてしまうのは当然だ。
「玲さん立って」
「チャンスをくれるの? あと、1ヶ月⋯⋯いや、1週間経っても別れたいと思うなら婚約破棄に応じるよ」
「本当に? 1週間後には婚約破棄してくれるの?」
「ハハッ! そこまで喜ばれると流石にキツイな。どうする? 引っ越しはやめる?」
「ううん。この1週間はこの家を出るよ。玲さんは私の引っ越し先には来ないでね」
私の彼に対する冷ややかな態度に周囲が騒めいた。
「分かった。凛音の言う通りにするよ、でも、せめてマンションまで送らせて」
玲さんがスッと立ち上がり、私の真っ赤なスーツケースの取手を持って屋敷その外に出ようとする。使用人たちはまるで彼がこの屋敷の主人であるかのように一斉に頭を下げた。
私は彼の後を仕方なく着いていく。
玲さんは珍しく運転手付きの黒いリムジンで来ていた。
「待って! 玲さん、まさかこのまま教会に行って強引に私と挙式する気なんじゃ」
「凛音、そうしたいのは山々だけど、女性も結婚は18歳からしかできなくなったんだよ」
玲さんは困ったように笑いながら、私をリムジンの中に案内した。
玲さんの運転ではない事に私も少しホッとしてリムジンの中の赤い革張りのソファーにゆっくりと座る。
「中目黒のタワマでいいんだよね?」
「お母様から聞いたの?」
「違うよ。柏原家の資産管理は今僕が任されているから、学校からの距離を考えて予想しただけ」
玲さんは運転手に行き先を告げると、運転席との間のカーテンを閉めた。
玲さんは税理士資格を始め、弁護士資格などあらゆる資格を学生時代にとっていると聞いた。父が柏原家の資産管理まで彼に任せているは初耳だった。
「玲さん、何で私なの? 私の顔が好きなら、玲さんの好みの顔に従順な子を整形させたら?」
「柏原清十郎にハニトラを仕掛けた件のこと怒っているんだね。でも、これで分かったでしょ。不倫をされた側の苦しみが」
玲さんが真剣な顔で私を見つめてくる。
その瞳は黒真珠のように輝きながら潤んでいた。
私はこの目を見たことがある。
彼を追い詰め苦しめた時があった気がするのに、思い出せない。
「何でお父様にそんな事を⋯⋯」
「不倫は人の心を壊すくらい残酷で、家庭を滅茶苦茶にする行為だって凛音に気がついて欲しかったからだよ」
「私を不倫をしないような真っ当な淑女に育てたいと言う事だよね? だから、中学生の幼い私に婚約を申し込んだの? 玲さんってロリコン?」
私の問いかけに玲さんは苦笑し、嘘か本当か分からないような事を語り出した。
「僕と凛音が出会ったのは君が20歳の時だった。一目惚れした僕が交際を申し込んで、君の大学卒業と同時に僕たちは結婚した。僕たちは幸せな家庭を築いたよ。僕は天然で可愛い君が大好きだった。永遠を誓える程に愛していたんだ。でも、その2年後に君はあんな男と不倫したんだ」
玲さんの目から宝石のように美しい涙がこぼれ落ちる。
断片的だが誰かの腕に絡みついて、泣いている玲さんを眺めている記憶が蘇る。
(私、不倫したんだ⋯⋯)
勝ち誇ったような表情で私と腕を組んでいたのは、成長したHIROだった。
「必要ないよ。私に構って良いことなんて一つもないから」
「俺は危ない目にあっても良いよ。それよりも、俺が凛音を守りたいんだ」
どうして彼にとっては今日出会ったばかりの私にそこまでしようとしてくるのか全く理解できない。私は彼が死ぬ運命を知っている以上、絶対に自分から彼を引き剥がさなくてはならない。
「HIRO⋯⋯お願いだから貴方はダンスや歌を磨いて自分の事に集中して。私、貴方のパフォーマンスに沢山元気を貰ったの。私の為を思ってくれるなら、私から離れたところで活躍を見せてくれるのが一番なんだよ」
「いや、で、でも」
「HIROは奈美子さんの事を守ってあげて。あと、奈美子さんに伝えてくれる? 私、奈美子さんの生歌がとても素敵て感動したの。女子高生のフリなんかしなくても、きっと本当の奈美子さんで十分に人気者になれると私は思うよ」
「いや、でも、『JKロック』だし」
「JKなんて誰が女子高生の略って決めたの? 実はジャクソンの略だって事で良いじゃない」
奈美子さんは顔も自分の意志とは無関係に変えられて、経歴まで嘘をつかされている。
嘘をつき続ける事の苦しさが私は少しは分かる気がした。
「もう、ジャクソンって何だよ。意味わかんねーよ。なんか、凛音って危なっかしくて放って置けないんだよ。お前一人じゃ曽根崎玲になんか絶対に勝てないよ」
HIROがまた懲りずに私を抱きしめようとしてくるので、私はそれを振り解いた。
「大丈夫だよ。私、変わるから。強い柏原凛音になるから。玲さんとの婚約も破棄して晴れて自由の身になったら、コンサートに行くね」
私はそう言うと、抗議してくるHIROの手を引きながら彼を門の外に出した。
鈴木さんに取り敢えずの荷物を纏めてもらって、階下に降りるとエントランスホールに私の婚約者が来ていた。
「凛音ちゃん⋯⋯」
母が困ったような顔で私を見つめてくる。
「凛音、今日から一人暮らしを体験してみたいって? 僕が新居まで送るよ」
涼やかに微笑む玲さんに私は戸惑いを隠せない。
「玲さん、私は玲さんから逃げたくて、この家を出ようとしてるんだよ。玲さんが婚約を破棄してくれるまでは、もう会いたくない」
彼に対する恐れがあるが、ここは私の自宅だから突然殺されるような事はないだろう。
私の言葉に玲さんは一筋の涙を流した。
その姿に一瞬心臓が止まりそうになる。
彼の涙を見るのは初めてのはずなのに、なぜか既視感を感じた。
私が何も言わずに彼を見つめていると、急に玲さんが膝をついた。
「凛音を傷つけるつもりはなかったんだ。君の事を愛し過ぎて自分でもバカな事をしたと思っている。どうか、もう一度だけ僕にチャンスをくれないか?」
今にも土下座しそうな勢いに周囲にいた使用人たちがざわめきだす。
「曽根崎さん、そんな事はおやめください。凛音っ!」
母も焦って跪いた。
いつも穏やかに私をちゃん呼びする彼女が呼び捨てにしている。
「曽根崎様はあんなに尽くしてくれたのに」「凛音お嬢様は何が不満なの?」ヒソヒソと使用人たちが小声で話しているのが耳に入った。この3年間、私の我儘を散々聞いてきて私を最優先してきた彼だ。皆が彼側についてしまうのは当然だ。
「玲さん立って」
「チャンスをくれるの? あと、1ヶ月⋯⋯いや、1週間経っても別れたいと思うなら婚約破棄に応じるよ」
「本当に? 1週間後には婚約破棄してくれるの?」
「ハハッ! そこまで喜ばれると流石にキツイな。どうする? 引っ越しはやめる?」
「ううん。この1週間はこの家を出るよ。玲さんは私の引っ越し先には来ないでね」
私の彼に対する冷ややかな態度に周囲が騒めいた。
「分かった。凛音の言う通りにするよ、でも、せめてマンションまで送らせて」
玲さんがスッと立ち上がり、私の真っ赤なスーツケースの取手を持って屋敷その外に出ようとする。使用人たちはまるで彼がこの屋敷の主人であるかのように一斉に頭を下げた。
私は彼の後を仕方なく着いていく。
玲さんは珍しく運転手付きの黒いリムジンで来ていた。
「待って! 玲さん、まさかこのまま教会に行って強引に私と挙式する気なんじゃ」
「凛音、そうしたいのは山々だけど、女性も結婚は18歳からしかできなくなったんだよ」
玲さんは困ったように笑いながら、私をリムジンの中に案内した。
玲さんの運転ではない事に私も少しホッとしてリムジンの中の赤い革張りのソファーにゆっくりと座る。
「中目黒のタワマでいいんだよね?」
「お母様から聞いたの?」
「違うよ。柏原家の資産管理は今僕が任されているから、学校からの距離を考えて予想しただけ」
玲さんは運転手に行き先を告げると、運転席との間のカーテンを閉めた。
玲さんは税理士資格を始め、弁護士資格などあらゆる資格を学生時代にとっていると聞いた。父が柏原家の資産管理まで彼に任せているは初耳だった。
「玲さん、何で私なの? 私の顔が好きなら、玲さんの好みの顔に従順な子を整形させたら?」
「柏原清十郎にハニトラを仕掛けた件のこと怒っているんだね。でも、これで分かったでしょ。不倫をされた側の苦しみが」
玲さんが真剣な顔で私を見つめてくる。
その瞳は黒真珠のように輝きながら潤んでいた。
私はこの目を見たことがある。
彼を追い詰め苦しめた時があった気がするのに、思い出せない。
「何でお父様にそんな事を⋯⋯」
「不倫は人の心を壊すくらい残酷で、家庭を滅茶苦茶にする行為だって凛音に気がついて欲しかったからだよ」
「私を不倫をしないような真っ当な淑女に育てたいと言う事だよね? だから、中学生の幼い私に婚約を申し込んだの? 玲さんってロリコン?」
私の問いかけに玲さんは苦笑し、嘘か本当か分からないような事を語り出した。
「僕と凛音が出会ったのは君が20歳の時だった。一目惚れした僕が交際を申し込んで、君の大学卒業と同時に僕たちは結婚した。僕たちは幸せな家庭を築いたよ。僕は天然で可愛い君が大好きだった。永遠を誓える程に愛していたんだ。でも、その2年後に君はあんな男と不倫したんだ」
玲さんの目から宝石のように美しい涙がこぼれ落ちる。
断片的だが誰かの腕に絡みついて、泣いている玲さんを眺めている記憶が蘇る。
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勝ち誇ったような表情で私と腕を組んでいたのは、成長したHIROだった。
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